新証拠
「しらじらしい。私が怪しいとはっきり言えばいいでしょう」
不機嫌を隠そうともせず、王妃が言い放った。宰相閣下はわざとたっぷり間をあけて首をかしげる。
「おや、心当たりがおありで?」
「名指しで出席要請しておいて、いまさらとぼけないで」
宰相閣下を睨んだあと、王妃はぷい、と横を向いた。
「でも、答えはノーよ。私はローゼリアの素性は知らなかった。偽の推薦状を渡されて、騙されて雇い入れただけ! あの女が王女殺害だなんて、大それたことを計画してたなんて、予想もしてなかったわ」
「……それが、あなたの主張ですね」
「違うというなら、証拠を出してちょうだい」
疑惑には証拠を。
王妃は宰相に当然の主張を叩きつけた。その声に迷いはない。
なぜなら、前回の審議の途中で証拠の多くが失われてしまったからだ。
「ローゼリアを見逃したらしい官吏は証言することなく、謁見の間で血を吐いて死んだわ。彼女を王宮に推薦した書類も燃えてしまった。推薦者として名前のあったランス伯も、病で亡くなったわ。これ以上どこに証拠があるというの」
消えた証拠を並べながら、王妃は勝ち誇る。それでも宰相閣下は揺るがなかった。
「証拠ならあります」
なぜなら、私の用意した証拠を信じているから。
「他ならない、ローゼリア自身の証言が」
「は……?」
自分に命がけの忠誠を誓っていたローゼリアが裏切るとは思ってなかったんだろう。王妃の顔が疑念に歪んだ。
「あの娘が証言を翻したの?」
宰相閣下は首を振った。
「いいえ。ローゼリアは現在も牢の中で、単独犯だと主張しています」
「それじゃ意味がないじゃない。先に言っておくけれど、牢で作られた証言書は、証拠として認めないわよ。いくらでも捏造できるもの」
「私が提出するのは、過去のローゼリアの発言ですが、証言書などではありませんよ。リリアーナ嬢、お願いできますか」
「はい」
宰相閣下に声をかけられて、私は前に出た。
謁見の間に集まった貴族たちの視線が、今度は私に集中する。私は、淑女らしく丁寧にお辞儀をした。
「ハルバード侯爵が娘、リリアーナです。事件当日の様子を皆さまにお伝えするために、参りました。セシリア、フィーア、例のものをお願い」
「かしこまりました」
私が命じると、侍女役ふたりが動き用意してあった機材をセッティングした。三メートル四方はあろうかという巨大な布地が天井から吊るされる。カンバス地で作られたそれには、模様も何もない。ただただ白い生地だけが広がっている。
突然始まった奇妙なパフォーマンスだけど、貴族たちはじっと黙って成り行きを見ている。私に文句をつけたくてたまらないはずの王妃もだ。
ハルバード家が次から次へと、今まで想像もしなかった発明品を作り出しているからだろう。
私はあらかじめ謁見の間に設置しておいた小さな箱の隣に立つ。
「まず、新たな魔道具を紹介させてください。こちらの大きなレンズのついた箱は『プロジェクター』という名の投影機です」
私はプロジェクターのスイッチを入れた。大きなスクリーンに、四角く光があてられる。軽く指を振ってスマートグラスごしに命令を出すと、四角い光は王城の景色に切り替わった。
「なんと精密な風景画だ……」
「まるで景色を切り取ったかのようだ」
「あれを描いたのはどこの画家だ?」
ざわざわと、出席者たちの間でどよめきが起きる。ちらりと見ると、国王陛下やオリヴァー王子も表情を硬くしてスクリーンに見入っていた。
「……このように、あらかじめ用意した映像を布地に投影して見せることができます」
「それが証拠なの?」
王妃の言葉に私も首を振る。
「いいえ、これは国王陛下が証拠をご覧になりやすいように、と持ち込んだディスプレイにすぎません。本当に重要なのはこちら、今私がかけている眼鏡になります」
「……眼鏡、が?」
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