争点
国王と王子のあとから現れた王妃は、入ってくるなりヒステリックな声をあげた。
宰相閣下が王妃を見て、わざとらしくため息をつく。
「茶番劇とは心外ですな。国政に関わる重要な審議ですよ」
「すでに犯人の捕まっている事件に、いまさら人を割く必要はあるの? 魔の森やランス城の戦いが落ち着いてからでいいでしょう」
王妃の意見に、宰相閣下が動じる様子はない。余裕に満ちた笑みを浮かべるだけだ。
「だからこそですよ。戦いに目が向いている間に、隠蔽工作などされてはたまらない」
「ぬけぬけと……」
「ご不満なら、欠席していただいてもよろしいんですよ」
宰相閣下がそう言うと、ぎっ、と王妃の目が吊り上がった。
「そんなことをしたら、私が悪いと勝手に判決が下るのでしょう。そんな横暴は許しませんからね」
「では、御着席ください」
「……そうさせてもらうわ」
じろりと宰相閣下を睨んだあと、王妃がやっと玉座の隣の席に座った。
追い詰められた悪女、怖い。
長年戦ってきて慣れているのか、宰相閣下とマリィお姉さまはその様子を笑顔の仮面で流した。王妃の般若顔をスルーできるふたりも怖い。
「では、始めましょうか」
宰相閣下が国王陛下に声をかける。見た目はイケオジ、実態は何にでも頷く置物国王は、今日も臣下の言葉に頷いた。
「王宮内で発生した、王女殺害未遂事件について審議を再開します」
宰相が宣言し、集まった臣下に緊張が走った。
「簡単に前回までの流れをおさらいします」
コツ、と宰相閣下が前に出た。
「約一か月前、王宮内で火災が発生。複数個所の魔力式給湯器から出火し、建物が燃えました。護衛騎士を中心に対処にあたっていたところ、さらに離宮内で出火。離宮と外部をつなぐ橋が破壊され、クリスティーヌ殿下、リリアーナ嬢、侍女のタニアが取り残されました」
宰相閣下は私たちに目を向ける。出席者たちの視線も私たちに集まった。
「王女殿下たちは怪我をした侍女を連れ、王家の抜け道を通じて脱出を図りました。しかし、その通路には、放火犯が待ち構えており、彼女たちに襲い掛かってきました。この時、クリスティーヌ殿下は毒入りのナイフで切り付けられ大怪我を負っています」
「先日やっと包帯がとれたところだ」
クリスはひら、と切られた右手を振る。それを見て宰相閣下がうなずいた。
「絶対絶命の殿下たちを救ったのはオリヴァー殿下です。宰相家のフランドールを連れて現場に駆け付けました。この時捕らえられたのが、王妃殿下の侍女ローゼリア・シュヴァインフルトです」
「犯人も罪状も明らか。再審議など必要ないのではなくて?」
王妃がつまらなさそうに口をはさんだ。宰相閣下は、ふ、と鼻から息を吐く。
「審議はそこで終わりではなかったでしょう? 犯人は特定された。しかし、なぜ彼女が犯行に及んだのか、またなぜ彼女のような凶悪犯が王宮にはいりこめたのか、が争点となっていたはずです」
こつ、と宰相閣下が一歩王妃に歩み寄る。
「ローゼリアの父は、ヴォルフガング・マクガイア。近衛の立場にありながら、ありとあらゆる汚職に手を染め、わが国の軍事機密をアギト国に流出させた売国奴でした。彼女は父親亡きあと騎士団長の座についたハルバード侯爵を恨み、その娘であるリリアーナ嬢の命を狙いました」
この事件のややこしい点のひとつは、動機だ。私もクリスも直接ローゼリアに関わったことはない。ほぼ他人だ。マクガイアを死に追いやった宰相閣下やお父様は強すぎて、直接狙うことができないから、彼らが大事に思う身内を狙ったのだ。
マクガイアは生前、暗殺者を退けた宰相を殺せないと知るや、息子や親戚など周囲の人間にターゲットと映した。さすが親子、やり口がまったく同じである。
「ローゼリアは逆賊の娘として、本来罰される立場にありました。しかし、『なぜか』見逃されている」
宰相閣下はそこで言葉を切ると、ぐるりと周囲を見渡した。
「彼女を司法の手から隠し、侍女として王宮に迎えたのは、誰なんでしょうね?」
私はごくりと息をのむ。
侍女をかばったのは誰か。これこそが審議の争点だ。
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