言えない言葉
「王妃を排除して宰相閣下が王宮の実権を握ったら、次は正当後継者を王位につける。それが私たちの目指すべきシナリオよ」
「それって、私のことですか」
「もちろん」
「ですよね……」
相変わらず気弱な救世主は、細い肩を落としてため息をつく。
王立学園入学当時のセシリアは、とにかく目立ちたくないと実績から逃げ回ってばかりだった。ユラの悪意にさらされ、反発することを覚えてからは優秀さを隠すことはなくなったけど、人前に出るパフォーマンスにはいまだに抵抗があるようだ。
「頭では……理解しているつもりなんです」
セシリアはゆっくりとカップをテーブルに置く。
「私は父の娘で、王家の血を引く唯一の女子で……聖女なのだと。でも、なかなかふんぎりがつかなくて」
彼女が何に抵抗を覚えているか、なんとなくわかる。
死に際の勢いとはいえ、『悪役令嬢になる!』と決めて転生した私と違い、セシリアは生まれながらに運命を背負わされた聖女だ。
にも拘わらず、民の礎たれと王族教育を受けたわけでもなく、貴族だからと特権を享受したわけでもなく、不幸な貧乏貴族の娘として育ってしまった。何の覚悟も恩恵もなかった彼女にとって、女神の天啓は文字通り運命の悪戯だ。
受け入れられないのは当然だと思う。
けれど、その心情を察してなお、私は『嫌ならいいよ』とは言ってあげられなかった。
聖女が逃げたら、邪神が勝利してしまう。
その先に待つのは世界の滅亡だ。
女神の恩恵を得られるのは、セシリアだけだ。
広大な領地に責任を持つ侯爵令嬢として、この世が滅んでいいとは言えない。
愛する人との生を望む個人として、未来を手放すこともできない。
いくら友達でも、それだけは言ってあげられないのだ。
エゴを通す代わりに、私はそっとセシリアの肩に触れる。
「安心して、あなたはひとりじゃないわ。何があっても、私が支えてあげるから」
この気持ちも、嘘じゃない。
転生者として、同じ女神と対話した者として、彼女の背負う重荷を一緒に抱えてあげたいと思う。
「リリィ様……」
セシリアはぎこちないながらも、ほほえみ返してきた。
「そうですね。私が迷っていても状況は変わらない。いえ……弱気になれば、それだけユラにつけ込まれてしまう。私が、しっかりしなくては」
顔をあげて、唇を引き結ぶ。
「王位継承は重要なことですが、それで終わりではないのですから」
「そうね」
セシリアの物語は、女王となったあとも世界を救いきるまで続いていく。
「継承者と認められたら、次は空中母艦『乙女の心臓』の復活と、白銀の鎧の起動を目指すべきだと思う」
「各地で暴れているモンスターを倒すのに、これほど頼もしいものはありませんからね」
私はテーブル脇に置いてあった、『女神の攻略本』を手に取ってページを開いた。
ゲーム版の王宮は、王妃と汚職騎士に支配されていた。彼らの目をかいくぐるのは困難で、どれだけ条件をそろえても、なかなか空中母艦に近づくことができなかった。そのせいか、攻略本にも空中母艦に関することはほとんど書かれていない。
あるのは『王位継承者と認められた聖女の恋心によって、乙女の心臓の封印が解かれる』という記述だけだ。
「あれ?」
思わず疑問の声が口をついて出た。
「リリィ様?」
セシリアがきょとんとした顔で私を見ている。私は思わず首を振った。
「なな、なんでもないわ。攻略本に、妙な女神の小ネタワンポイントアドバイスが書かれてて、びっくりしちゃっただけ」
攻略本がセシリアからは不思議黒歴史ポエムにしか見えてないのをいいことに、必死に誤魔化す。
王位継承者と認められる、はともかく、恋心によって封印が解かれる?
これって、大丈夫なんだろうか……?
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