孤独な戦い(シュゼット視点)
がしゃん! と鋭い音がして、空飛ぶ使い魔の姿が消えた。
「ひゃっ!」
思わず悲鳴が口をついて出る。目の前で何かが起きたのは確かだ。
私はあわてて、窓にとりついた。冷たい鉄格子に体を押し付けるようにして、無理やり外を見る。使い魔は中庭に落ちたようだった。
どこからともなく現れた数名の騎士が、使い魔を取り囲む。
侵入者を発見したはずなのに、彼らの顔には驚きも怒りもなかった。生気のない無表情で使い魔を見つめている。
騎士のうちの一人の背中から、不意に紐状の何かが飛び出した。それは鞭のようにしなり、使い魔に叩きつけられる。
「っ!」
また、がしゃんと大きな音が響く。
がしゃ、がしゃ、と耳を刺すような不愉快な音が何度か続いたあと、使い魔は動かなくなった。
物言わぬ騎士たちは使い魔を取り囲んで、しばらくの間立ち尽くしていたが、唐突に踵を返すと去っていった。
粉々になった使い魔だけが中庭に残される。
「……っ」
ぐうっとせりあがってきた吐き気を、私は必死に飲み下した。
「だ……大丈夫、大丈夫よ」
意識的に口に出して、自分自身に言い聞かせる。
大丈夫。
あの使い魔は、生き物じゃない。
術者と命が繋がってるわけでもない。
テーブルに置いてあるペンやインク壺と同じ、ただの道具だ。
使い魔を浮かべて見せながら、リリィがそう語っていたじゃないか。
あれがひとつ壊されたって、大きな被害はない。私を見つけてくれた誰かがいなくなったのではないのだから。
まだ、希望はちゃんとある。
だから、ショックを受ける必要はないのだ。
「はあっ……」
大きく深呼吸する。
極限状態に置かれたら、まず呼吸をすること。
これも、リリィから受けた教えだ。
息を止めれば、それだけ頭が回らなくなるのだそうだ。
吸って、吐いて。
少しずつ思考がクリアになっていく。
「大丈夫……助けは現れたわ」
数日前から、城を取り囲む空気が変わったことには気づいていた。
堀の向こうの景色に人が増えた。城壁の近くのあちこちで煮炊きの煙があがるようになった。城壁に囲まれて詳しいことまではわからないけれど、多くの人間が集まっているのは確かだった。
きっと、ハーティア王国軍が動いたのだ。
他国の王女を攫い、騎士伯家の主城を占拠し、あまつさえ独立宣言をした者を、国が放っておくわけがない。討伐部隊を派遣するのは、当然の話だ。
さきほどの使い魔は、そのうちの誰かが飛ばした偵察機だ。
離宮で暮らしていた時、リリィが言っていた。
女神の超技術の使用許可は自分が出しているのだと。宰相閣下から推薦をもらうことはあるが、最終的に許可する権限を持つのは彼女とセシリアだけなのだそうだ。
だとすれば、あれを飛ばしていたのはフランドール様かジェイドか、とにかくリリィに近しい誰かのはずだ。彼女の周りは優秀で信頼に足るものしかいない。期待していいだろう。
長い幽閉生活の中、やっと訪れた光明に体が弛緩する。
その瞬間、ノックの音が響いた。
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