騎士の隊列
「予定通りね」
私は街道を進む騎士の隊列を見つめた。
その数はおよそ三千。途中で他領からの騎士も合流し、最終的に五千人程度になるのだそうだ。
彼らを率いるのは先頭集団の中央、ひときわ立派な軍馬に跨った青年だ。真新しい藍色の上着の上から、指揮者であることを表す軍章つきのマントを羽織っている。彼は騎士にしては珍しく、黒縁の眼鏡をかけていた。この距離では直接確認できないが、その下、右目の下にぽつんとひとつ泣きボクロがあることを、私は知っている。
「地味なもんだな」
街道を行く騎士たちを見て、ヴァンがぽつりとつぶやいた。それを聞いてケヴィンが苦笑する。
「表向きは、突然城を占拠した乱心者の討伐だからね。国をあげて大々的に応援できる状況じゃない」
キラウェア国の王女、シュゼット姫の不在はいまだ伏せられたままだ。邪神に攫われたと彼女の母国に知られれば、そのまま戦争が始まってしまう。アギト国とダルムール国、すでに二国を相手どっているハーティアとしては、不都合な事実は可能な限り隠しておきたい。
そのため、ヘルムートが送りつけてきた『愛の千年王国宣戦布告状』も、狂人のたわごととして片付けられ、ランス城の占拠もヘルムートの『単独行動』ということになっている。
「命をかけて戦うのは変わらないだろうに」
生粋の騎士の子であるクリスが、むう、と眉間に皺を寄せる。命を金に変える傭兵と違い、騎士は名誉を重んじる。姫君を救う戦いが、一乱心者の討伐へとすり替えられ、過小評価されるのは、不名誉でしかないだろう。
しかし彼らは口をつぐまなくてはならない。他ならない、国防のために。
私が別荘でパーティーを開いているのも、似たような理由だ。取るに足らない事件に駆り出された宰相の息子の出陣を、無関係な侯爵令嬢が見送ることは許されない。
私は友達と遊んでいて、たまたま騎士の隊列を目撃するのだ。
「心配ですね」
給仕をしていた手を止めて、セシリアがきゅっと眉根を寄せる。私はことさら明るい表情で彼女に笑いかけた。
「きっと生きて帰ってくるわ。フランには優秀な護衛がついてるし」
フランのすぐ後ろには、やはり軍馬に乗った青年がふたり付き従っていた。ひとりはすっぽりとフードをかぶった黒衣の青年。そしてもうひとりは、医療従事者であることを示す白いマントを羽織り、眼鏡をかけた青年。フィーアの兄ネコミミアサシンのツヴァイと、相変わらず出向中の私の側近ジェイドだ。本来なら騎士の隊列に組み込まれるところを、彼らふたりだけはフラン専属の護衛として独立編成されているそうだ。
特別扱いと言わば言え。貴族とは特権階級を指す言葉なのだ。
指揮官が倒れたら困るのは、末端の兵士たちも同じだしね。
「私だってただで送り出したわけじゃないわよ」
「今度は何を企んでるんだ?」
私が裏で小細工するのがもう日常茶飯事だからだろう。問いかけながらもヴァンに驚いている様子はない。私は唇の前で指を立てた。
「秘密。といっても保険程度で、効果がないほうが嬉しいんだけど」
アレが発動するのは、フランが直接危険な目にあった時だ。隊列の奥で指揮をとっている彼がそんな状況に陥るなんて、軍が総崩れしてる敗戦時くらいだと思う。使わずに済むなら、それに越したことはない。
無事に帰ってきたフランと『無駄だったね』と笑い合えるなら、それが一番いい。
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