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【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!  作者: タカば
番外編

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初恋泥棒(ポール視点)

「いっ……つ」


 腕を押さえながら、僕は廊下をとぼとぼと歩いていた。練兵場から医務室まで。広いハルバード城を横切って、歩を進める。このあとの夕食の時間を考えると、もう少し早く移動したほうがいいんだろうけど、できなかった。腕が赤く腫れあがっていたからだ。

 腕を痛めたのは午後の訓練中だった。

 基礎をひたすら繰り返す見習い騎士の訓練。走り込みのあとに何百回と素振りをして、最後に木刀で打ち合いながら教官から指導を受ける。先輩騎士からあちこち木刀で小突き回され、やっと終わると思った瞬間、失敗した。

 相手の攻撃を受けるはずの木刀が空振りし、思い切り腕を打ち据えられる。

 痛みに動かなくなった腕を抱えて、うずくまったのを見た教官は、即座に医務室行きを宣言した。


「ついてない……」


 ハルバード城には、侯爵様や騎士たちを診る医者が常駐している。見習いの立場でも、怪我や病気になれば、すぐに診てもらえる、そこだけ見れば、すごくいい職場だ。だけどノーペナルティというわけにはいかない。訓練中の怪我の回数は成績書に記録され、何度も繰り返すようなら要指導。場合によっては騎士の素質なしとして、やんわり除隊を勧められてしまう。怪我をせず、健康でいることも騎士に要求される才能なのだ。


「先週も一回、医務室入りしてたし、しばらく行きたくなかったんだけど」


 とはいえ、この腕では訓練そのものが受けられない。背に腹はかえられなかった。

 医務室のドアをノックして、要件と名前を告げる。部屋の中からは、かわいい女の子の声が返ってきた。


「え……?」


 ドアをあけてみる。

 やっぱりそこには、ものすごくかわいい女の子がいた。

 つやつやの長い黒髪に、真っ赤なドレス。紅い瞳は宝石みたいにキラキラ輝いている。

 この子の名前は知ってる。侯爵様の娘の、リリアーナお嬢様だ。

 といっても、毎日使用人の前で『タイソウ』と言って不思議な踊りをするのを遠目に見ていただけだ。こんなに近くに座っているのを見たことはない。


「見習い騎士のポール、だったかしら。今日はどこを怪我したの?」

「あ……う……?」


 状況がわからず、言葉が出ない。

 なぜ、お嬢様が僕の名前を知ってるんだ。あ、さっきドアをノックして名乗ったんだっけ。


「落ち着け」


 ぱん、と背中を叩かれた。

 見上げると、黒いローブを着たおじさんが立っていた。この人も名前だけは知っている。お嬢様の専属魔法使いで家庭教師のディッツさんだ。よくよく見ると、部屋にはお嬢様の他にディッツさんと医務室のお医者さんがいた。

 なぜ。

 ディッツさんは無精ひげの生えたアゴをかりかり掻いた。


「今日、お前の怪我を診るのはお嬢だ」

「へ」


 なぜ。


「お嬢には治癒術を教えているが、座学だけじゃ身につかねえ。実際に怪我を治して、練習しなくちゃいけなくてな。ちょうどよく怪我してるから、練習台になってもらう」

「えええ……っ、いいんですか?」

「ハルバード騎士なら、お嬢に何されても文句は出ねえからな」


 随分ひどいことを言われた気がしたが、すぐに頭から抜けていった。

 お嬢様に治療してもらえる? 直接?

 突然降ってわいた幸運に、頭がいっぱいになったからだ。


「お……お願い、します」


 椅子に座って、腕を差し出す。お嬢様はすっと顔を近づけてきた。

 かわいい。しかもなんかいいにおいがする。


「かなり赤くなってるわね。何があったの?」

「訓練中に、木刀を受けそこねて」

「なるほど……」


 お嬢様の手が僕の腕に触れた。片手で手首を持ち、あいた手でちょんちょん、と患部を確かめるようにつついてく。


「痛い?」

「平気……です」


 むしろ、ぷにぷにの指先が気持ちいいです。

 お嬢様の体温がそばにあるのがうれしすぎて、もう腕が痛いのかくすぐったいのか、気持ちいいのか、何がなんだかわからなくなってきた。


「打ち身ね……。筋肉や、骨に異常はないみたい。少し熱を持ってるから冷やしたほうがよさそう」


 そこまで言って、お嬢様は顔をあげた。確認するように、ディッツさんに向かって首をかしげる。

 上目遣いのポーズもかわいい。

 ちょっとまって。女の子ってこんなにかわいいものだったっけ? どこから見ても、可愛くない場所がない。どこからでも、いつまででも見てられる気がする。

 このまま時間が止まってしまえばいいのに。

 ふっと横から無造作に手を掴まれた。ディッツさんから無遠慮に患部を確認される。

 しばらくして、ぽいっと腕を放り出された。


「ふむ、お嬢の見立てに問題はない。合格点だな。あえて付け加えるなら、肘のココな。関節のところはもっと注意して見たほうがいい」

「なるほど、勉強になるわね」


 こくこく、とお嬢様がうなずく。小動物っぽいしぐさもかわいい。


「患部を冷やしたほうがいいわね。湿布をするから、もう一度手を出してちょうだい」


 指示に従って、僕はもう一度腕を差し出した。ひんやりとした薬を塗りつけた薄布をかぶせられたと思ったら、その上から包帯を巻かれる。


「最後に痛み止めの魔法で……」


 バラ色のかわいい手が包帯の上に乗せられると、痛みがゆっくりとひいていった。


「はいこれで大丈夫! 今日一日は安静にしてね」


 にこっとほほ笑まれて、体中の血が沸騰するのを感じた。今日の僕はなんてついてるんだ! こんなにかわいい女の子に手当してもらって、その上笑いかけてもらえるなんて。この腕の包帯は一生の宝物だ。


「あ……」


 ゴンゴン。

 お礼を言おうと口を開いた瞬間、ノックの音が僕の言葉を遮った。


「失礼する」


 返事を待たずに、ドアが開かれた。見ると、黒衣の男の人が部屋に入ってくる。黒髪に、周りを威圧するような鋭い青い瞳の青年は、お嬢様の補佐官のフランドール様だ。


「フラン!」


 補佐官様を見るなり、お嬢様が声をあげた。


「お勉強の時間は終わりだ。そろそろ今日提出された書類をまとめないと、夕食をとる暇がなくなるぞ」

「ええっ、もうそんな時間?」


 お嬢様はあわてて窓の外を見る。いつの間にか外は暗くなっていた。


「ディッツ、あの」

「ああ、処置は終わってるからもう行っていい。カルテはこっちで書いておくから」

「お願い!」


 お嬢様がぱっと立ち上がった。そそくさと僕から離れて、補佐官様の隣に立つ。


「あ~まだあと一仕事あるのか~!」


 口をとがらせる表情はかわいいけど、ちょっとかわいそうだ。もっとゆっくりしていけばいいのに。


「今日はチェックさえ済めば終わりだ」


 ふわ、と補佐官様の手がお嬢様の頭に触れた。


「お前はよく頑張ってる」


 ゆっくりと頭をなでられた瞬間、お嬢様は花が咲くような笑顔になった。


「わかればいーのよ、わかれば!」


 今まで見せた表情の中で、一番かわいい。


「行くぞ」

「はーいっ!」


 補佐官様に手を引かれて、お嬢様はうれしそうに部屋から出ていく。その瞳に宿る感情は、ついさっき自分がお嬢様に感じたものとまったく同じ。

 きっと、お嬢様は、補佐官様を。


「……」


 ぽん、と肩に手を載せられた。ディッツさんが気まずそうに無精ひげの生えたアゴを掻く。


「あ~……残念だとは思うがな? あきらめろ」

「……はい」


 その晩、僕はベッドの中でちょっと泣いた。

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― 新着の感想 ―
そして侯爵家に勤めてるの人々はお嬢様に魅了されてお嬢様見守り隊になったのかぁ〜(笑)(*´艸`)
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