神の有る国
「何をバカなことを」
王妃がぴしゃりと言った。
「解任されようとしただけで、職務を放棄して人をさらうような者がどこにいるの。こんな突拍子もない愚か者の行動にまで責任とってられないわ」
「しかし」
「ヘルムートの離反に、あなたの責任はありません」
会議室の誰も、否定はしなかった。
王妃は多分王子を本心からかばってるわけじゃない。この騒動の責任が王子ということになれば、その母親である王妃にも責が及ぶからだ。
しかし王妃を追い落としたい立場の私たちもまた追及しなかった。この件で王子を利用したいとは思わなかったからだ。
ヘルムートの行動は、それだけ常軌を逸していた。
「……彼はおそらく邪神に惑わされたのでしょう」
ふう、と宰相閣下がため息をついた。
「邪神? あなた、何を言っているの」
王妃が訝し気に眉をひそめた。
「ハーティアではたまにあることなのですよ。凡庸な男が突然人身売買に手を染めた、伯爵令嬢にすぎない小娘が侯爵令嬢誘拐をたくらんだ、分別ある良家子女が婚約者の座を争って殺し合った……時に、本人の技量や資質に見合わぬ大事件が引き起こされる。これらの多くは、邪神の手引きによるものです」
「待って」
王妃は不愉快そうに宰相の言葉を止める。
「突然邪神だの、惑わされただの、何を言い出すのよ。そんなものいるはずが……ない……じゃ……」
王妃の言葉は段々と小さくなっていった。
彼女以外の出席者が、揃って黙ったまま彼女を見つめていたからだ。
「は……? あなたたち、本気で?」
「あなたは、いまだに実感がないのですね」
「実感、って」
「いいですか、この国は聖女が邪神との闘争の末に作り上げた国なのです。伝説に記された逸話のほとんどは真実であり、女神の加護も邪神の呪いも現実だ。建国以来ずっと、王家と我ら勇士七家は邪神に脅かされ続けている」
「そんなバカなこと……あるわけが……」
宰相閣下はふ、と鼻で笑う。作戦室のテーブルに目を向けた。
「見てください、テーブルに広げられたこの資料を。どんな画家でもこんなに精巧な絵図面は作りだせません。われらは既に邪神と戦うために神の技術を手にしているのですよ」
「あ、ありえない……ありえないわ!」
「ではお尋ねしますが」
宰相閣下はきっと王妃を睨んだ。
「あなたがキラウェア留学生のうちのひとりとして推薦した、ユーライア・アシュフォルトという人物のこと、しっかりと思い出せますか?」
「ユーライア……え?」
「どこで出会いましたか? 彼と何を話しましたか? 何を命じたか、覚えていますか?」
「そんなの決まって……あら? え……?」
王妃の顔がどんどん青ざめていく。
本気で思い出せないんだろう。
私たちは彼女の反応をおかしいと思わない。邪神に関わった者は決まってこんな反応になるからだ。
ある人物に対して何も思い出せない。
まるでそこだけ夢を見ていたかのように。
「つーか、ユーライアがユラだってこと、宰相は知ってたのかよ」
ぼそっとヴァンが囁く。
「フランの持ってる情報はすべて、宰相閣下に共有されてると思っていいわ。それに加えて、ユラが王妃の推薦で留学生の一団に加わったことは公の記録に残ってるから」
「なるほど? だったらその情報使って王妃を追い落とせないのかよ?」
「それは無理なんじゃない。断罪するには彼がアギト国第六王子だと証明しなくちゃいけないもの。そんな証拠残されてないわよ」
こと、暗躍することにかけてユラの右に出る者はいない。
「認知をゆがませ、耳元で罪をささやく。それが邪神の常套手段です。入り込むことそれ自体を防ぐことはできないので、あなたが彼と接触していたことを責めるつもりはありません」
蒼白の王妃に宣言する。
「しかし、彼にそそのかされてあなたが犯した罪は、いずれ必ず追及します。愚かにも足を踏み外したヘルムートと同様に」
「あんな小物と一緒にしないで。そもそも追及されることなど、何ひとつないのだから!」
「だといいですね」
にい、と口をゆがませる宰相閣下から、王妃は先に目をそらした。
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