黒幕は誰か・再
「これまでの証言でわかった通り、ローゼリアは逆賊マクガイアの娘です。国家の運営を担う勇士七家に強い敵意を持ち、王家の抜け道を知るなど復讐を実行するだけの能力を持っていた」
宰相閣下が、ローゼリアの情報を整理する。
そこにはもう、血だらけで哀れな娘は存在しなかった。彼女は国家に仇なす逆賊だ。
「これほどの危険人物が、なぜ王宮に入り込むことができたのか。それこそが、最も明らかにされるべき疑問です」
「その女は、自分で周りをだました、と言っているけど?」
王妃が冷ややかに反論する。
宰相閣下は首を振った。
「さきほども言いましたが、不可能です。6年前のローゼリアにその能力はありません。逆賊の娘と知りながら王宮に取り込んだ、第三者がいる。それこそが……この事件の黒幕です」
宰相閣下は、視線を王妃から観客へ向けた。
「黒幕と言えば、事件を計画し実行を指示した者というイメージがあるかもしれません。ですが、悪意による行為は指示だけとは限らない。いつか必ず事件を起こす危険分子を意図的招き入れ、獅子身中の虫に仕立て上げるのもまた、悪意でしょう」
「巧妙な嘘のせいで、正体を見抜けなかった、とは考えられないのかしら?」
無表情のまま、また王妃が疑問を口にする。
宰相閣下は苦笑した。
「それはそれで、無能が過ぎませんか」
「むっ……」
「推薦された侍女の素性に気づかず採用し、王宮内で自由に暗躍させ、ついには事件を起こさせた。上司として止めるべきタイミングはいくらでもあったはずです。それらすべての兆候に気づかないとは……あなたの目はどれほど節穴だったのでしょうか。到底国政に携われる力があるとは思えませんね」
「……っ、無礼ですよ」
「部下から王族殺しを出しておいて、何をいまさら」
王妃に睨みつけられても、宰相閣下は涼し気な顔をしている。
逆賊ローゼリアが、王妃の長年の部下だってことは、もう反論もしようのない事実なので、王妃も黙るしかない。
多分、腹の底はめちゃくちゃ煮えくり返ってるだろうな、とは思うけど。
しかも宰相閣下のこの物言い、すごく卑怯だ。
ローゼリアの悪意に気づかなかったと言えば無能と断罪され、悪意に気づいていたと言えばなぜ排除しなかったのかと断罪される。
罪人を審議していたはずが、気がつけば話の焦点は王妃の進退へと移り変わっていた。
有能政治家、喧嘩の仕方が怖い。
「ですが、安心してください。誰がローゼリアの命を救い、王宮に招き入れたのか、ちゃんと証拠はご用意してあります」
「な……」
ざわ、広間にまたざわめきが走る。
す、と宰相閣下が視線をまたフランに移した。
今度は古びた冊子が差し出される。報告書を本の形にまとめたもののようだ。
「ここに、当時の調査報告書があります。マクガイアの身辺を順に書き記していたはずなのですが……」
ぱら、ぱら、とページを繰ったあと、宰相閣下は冊子を聴衆に広げて見せた。
そこには何枚かのページが乱暴に切り取られた跡がある。
「前後のページには、マクガイアの近親者や愛人のことが書かれています。おそらく、ここにローゼリアとその母エリーシアの名前があったと思われます」
ぱたん、と宰相閣下は冊子を閉じる。
「このページを切り取らせ、そして欠けがあることがわかっても、他言しないよう圧力をかかけた者がいる」
「それが、私だと?」
「さて、それは新たな証人の言葉を聞いてからにしましょうか」
宰相閣下は顔をあげた。
ドアの側に立っている騎士たちに声をかける。
「廊下で待たせている証人を入れてください」
「はっ」
ぎい、と大きなドアが開き、縄で手を拘束された人物が入ってきた。歳は五十代くらいだろうか? よれよれの服を着た、顔色の悪い男だ。
「当時マクガイアの捜査に加わっていた官吏のひとりです。身辺調査を担当していました」
ふう、と宰相閣下はわざとらしくため息をつく。
「彼を見つけるのには苦労しました。なにしろ、事件直後に『調査ボーナスが出た』とかで、大金を手に退職し、田舎に引っ越していましたから。……ちなみに、国から彼に調査ボーナスなるものは支給されておりません」
ざわ、とまた観客がざわめいた。
「うん? どういうことだ?」
今までおとなしく話を聞いていたクリスが首をかしげた。
破られた報告書と、謎の調査ボーナスの話が、うまく頭の中でつながらなかったらしい。
「官吏に不正をさせるには、それなりの賄賂が必要よ。多分、黒幕は彼に大金を支払ったはず。彼は受け取った金を、周りには『調査ボーナス』と説明して田舎に引っ込んだのよ」
「なるほど……」
広間に集まった人間すべての視線が、男に集中する。
「六年前、お前に報告書を破るよう命じた者がいるはずだ。その名前を告げよ」
「……っ」
男は大きく口を開き……言葉を発することはできなかった。
代わりに真っ黒い血を吐いて、その場に崩れ落ちた。
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