逆賊
逆賊マクガイア事件。
それはハーティア王国史に残る、最も深刻な汚職事件のひとつだ。
マクガイアは王国騎士団第一師団長の地位を利用し、ありとあらゆる犯罪に手を染めた。賄賂、隠蔽、冤罪、敵国への情報漏洩……その罪は100を数えてもまだ足りないほどだったらしい。
それらの重要な証拠をついに入手した宰相閣下は暗殺者に命を狙われ、ハルバード侯爵、つまり私のお父様に助けられた。私とフランが出会う大元の原因となった事件だ。
暗殺を逃れた宰相閣下は、証拠をそろえて正式にマクガイアを告発。
ついに処刑に追い込んだのだ。
当時、マクガイアの一族はもちろんのこと、関わっていた騎士や貴族もその多く処断され、多くの関係者が処刑台に送られたと聞いている。
本来、娘などという近しい血縁が、残っているはずがないのだ。
「みなさん、静粛に」
宰相閣下の静かな声が広間に響いた。動揺の声が一瞬で収まる。
「ここに、あらためてシュヴァインフルト家を調査した報告書があります」
す、とフランが書類の束を差し出した。宰相閣下は書類を受け取って、ページを開く。
それを見てランス伯爵がじろりと睨んだ。
「宰相、知っていて彼女に言わせましたな?」
「そのほうが説得力があるでしょう? 下調べせずにカードを切ったりしませんよ」
この程度の批判は予想していたのか、宰相閣下はどこ吹く風だ。
「二十四年前、長女エリーシアが突如サザンドラ家との婚約を破棄。結婚を取りやめて家に残ることになりました。その後、頻繁にシュヴァインフルト家でマクガイアが目撃されるようになり、翌年三女のローゼリアが産まれています」
「おい、それって……」
ランス伯爵の顔色が悪くなる。
「おそらく、マクガイアがエリーシアに手を付け、ローゼリアを産ませたのでしょう。その後、良家の体裁を整えるためにローゼリアを年の離れた三女として届け出たと思われます」
貴族社会ではよくある話だ。
「……っ」
ローゼリアは、無言のまま拳を握りしめている。その顔は蒼白だ。
私を襲ったとき、ローゼリアは『私と母は真実、父に愛されていた!』と叫んでいた。父親の愛情を疑ったことはなかったんだろう。
『手を付けた』『体裁を整えるため』などと言われるのは、我慢ならないのかもしれない。
「当時、第一師団は近衛の任についていました。近衛騎士隊長として、マクガイアは王家の抜け道をすべて把握していたはずです。娘なら、父親からその情報を受け継いでいてもおかしくはない……」
「主君の安全にかかわる秘密を、娘に? 何を考えていたんだ、あの男は……!」
あまりのことに、頭がついていかなくなったらしい。ランス伯爵は眉間に深い皺を寄せて頭を抱えた。
「騎士にあるまじき行為ですね」
「父を悪く言うな!!!」
ローゼリアが叫んだ。
「黙れ」
その父親に殺されかけた宰相は、冷ややかに告げる。
「それで? あの男が娘に秘密を洩らした結果何が起きた? 結局貴様は秘密を悪用し、姫君の命が脅かされたではないか。愚行以外の何だと言うのだ」
「う……」
「だからお前の父親は、一族まるごと断罪されたのだ」
「うううううっ!」
ローゼリアは、どうしようもなくて歯噛みする。
そんな悔しそうな顔をされても、なかなか同情はできない。彼女の憎しみは、完全に逆恨みだからだ。そもそも、マクガイアが汚職してなかったら、こっちだって断罪してない。
「うん? ローゼリアがマクガイアの娘だとすれば、おかしくならないか?」
ふとランス伯爵が首をかしげた。
「王宮の各地に入り込んだのも、妙な取引をしたのも、抜け道を知ったのも、ローゼリア自身の力によるものだとすると……この件に王妃殿下が関与してないことになるぞ」
「まさか」
にい、と宰相閣下が笑みを刻む。
「もちろん、ここで新たな疑問が浮かぶのですよ。なぜ、ローゼリアが断罪を免れていたのか、そして、なぜ王宮の侍女として入り込むことができたのか」
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