生者に口あり
「うううううっ!」
がたん、と大きく証言台を揺らして、ローゼリアがうなり声をあげた。さっきまでのしおらしい態度はどこへやら。
黒衣のツヴァイが後ろから抑え込んでるから、身をよじる程度で済んでるけど、ロープを離したら最後、宰相閣下に掴みかかっていくに違いない。
やばい。
目が本気だ。
しかし、宰相閣下は冷たくローゼリアを見据えた。
「何やら、言いたいことがあるようだな」
「うううっ!」
猿轡を噛まされているから、まともな言葉はしゃべれない。
しかし彼女が「王妃黒幕説」に異議を唱えたがっているのはよく伝わってきた。
暗殺に失敗した彼女にとって、王妃の立場を守ることが、最後に残された使命なのだろう。果たさせてあげるわけには、いかないけど。
「宰相、罪人とはいえ、言いたいことのひとつもありましょう。何もしゃべらせずに、話を進めるのはどうかと思いますぞ」
ローゼリアの様子を見てランス伯がまた意見する。
宰相閣下は首をかしげた。
「では、ローゼリア自死の責任は、ランス伯がとっていただけると?」
「は? 自死?!」
「その者の口に詰め物を噛ませているのは、発言を封じるためではありません。舌を噛み切って自死するのを止めるためですよ」
ぎょっとローゼリアを見る目が変わる。
舌噛んで死ぬ、も物語ではよく聞く話だけど、本当にやりそうな人間に出くわすことって、まずないかならあ。
でも目の前のローゼリアには、本当にやってしまいそうな危うさとすごみがある。
裁判が始まるまで、ずっとコレの監視してたのか……。
フランの心労を思うと、かわいそうになってくる。
「し……しかしだな……さすがに、王の御前でそのようなこと」
ある意味最高のパフォーマンスだと思うけどね?
ここで血みどろ殺人ショーやったら、それはそれで裁判どころじゃなくなって、王妃が命拾いすると思う。
コツ、と宰相閣下が一歩前に踏み出した。
「ローゼリア……貴様の口の縄をほどいてやってもいい」
「うう……!」
「しかし、自死した瞬間、王妃の身が危うくなると知れ」
「!」
「私はすでに、王妃をお前の黒幕だと指摘した。すでに議論の焦点はお前と王妃のつながりへと移っている。ここでお前がただ自死したらどうなると思う? ほらやっぱりやましいことがあったのだ、と王妃が糾弾されることになるぞ」
「う……」
「死人に口なしに、なってしまうなあ?」
にい、と宰相閣下が口の端を吊り上げた。
いっそすがすがしいくらいの悪人顔である。
そういやこの人、フランの父親だったわー。
ハーティア王宮の政治を一手に握る辣腕宰相だったわー。
ただの誠実なおじさまなわけがなかったわー。
目をギラギラとさせながらも、ローゼリアの動きが止まる。言葉だけでローゼリアの自死の道を封じた宰相閣下はツヴァイに目くばせをした。
ゆっくりと、罪人の口から猿轡が外される。
はあ……と小さく息を吐いたあと、ローゼリアはごほっ、と勢いよく咳き込んだ。
止められたにも関わらず、即自死を選んだのか、と周りに緊張が走る。しかし、ただ喉を整えていただけだったらしい。
ローゼリアはきっと顔をあげた。
「私、ローゼリアシュヴァインフルトは証言いたします」






