黒幕は誰だ
宰相閣下は、謁見の間に集まった貴族たちを見回した。
「みなさん、疑問に思いませんでしたか? 罪人ローゼリアは王宮内の魔力式給湯器に細工して、実に十七か所で火災を起こしました。騎士団がその火災に気を取られたすきに、さらに離宮から出火させ、橋まで爆破しました。その後は王家の抜け道を利用して離宮に入り込み、侍女タニアを殴打。クリスティーヌ殿下に毒のナイフで斬りかかり、リリアーナ嬢の首を絞めています」
ローゼリアの罪を並べ立てた宰相は、そこで息をついた。
「一介の侍女が、ひとりでこれほどの大罪を犯す? ありえない」
ランス伯爵が宰相閣下をじろりと睨んだ。
「何が言いたいのですかな?」
「この事件には黒幕がいます。それが誰なのかを、明らかにしたいと思います」
黒幕、と聞いてざわざわと貴族たちがざわめき始める。王妃派を中心に。
ローゼリアが断罪されると聞いても、まさかそのバックにいる者にまで切り込んでくるとは思ってなかったのかもしれない。
でも、彼女を捕まえただけじゃ王宮の陰謀はなくならない。
後ろに隠れている女を排除しなければ、悲劇の連鎖は止まらない。
だからここで、断罪するのだ。
「まあ怖い、誰のことなのかしら」
王妃はしれっと怖がってみせた。
しかし、宰相閣下はそんな演技につきあったりしない。ストレートに黒幕の名前を口にした。
「あなたですよ、カーミラ王妃殿下」
「私……どうして?」
「そもそも、ローゼリアはあなたの侍女ではありませんか」
「……」
王妃は、否定しなかった。
ローゼリアは私がシュゼットたちと王宮に来た時、しっかりと『王妃殿下から遣わされた侍女である』と名乗っていた。私だけじゃない。王宮の多くの者が、長年王妃の侍女として働く姿を目撃している。皆が彼女を王妃の部下と認識している状況で、所属がどこか争っても意味がない、とわかっているのだろう。
「私の部下だったからといって、私が指示したとは限らないでしょう。ローゼリアがこんな大それたことをするなんて、私は夢にも思ってなかったわ」
「彼女が悪人である、と見抜けなかった……そうおっしゃるのですね」
「ええ、残念ながら」
ふう、と王妃は上品にため息をつく。
「王妃という立場上、側仕えは何人も入れ替わり入ってくるの。全員の人となりを確認していたつもりだったけど……ローゼリアの本性は見抜けなかったみたい」
あくまで、事件はローゼリア単独の犯行。
自分は無関係だと主張するつもりみたいだ。
ここまでは私も予想済みだ。
宰相閣下はどうやって、王妃の悪意を証明するつもりなんだろう?
「いいえ王妃殿下、あなたはローゼリアがこの国に仇成す逆賊であることを知っていたはずです」
「逆賊? 何の話かしら」
「ローゼリアの本当の素性です」
宰相閣下はおだやかにほほえむ。
その瞬間、うううぅっというくぐもったうなり声が、響いた。






