メガネ、眼鏡、めがね!
入ってきた一団を見て、広間は明らかにざわついた。
先頭に立つのは、ブラウンの髪をきちっとなでつけた落ち着いた雰囲気の初老の男性。そのすぐ脇には、同じブラウンの髪をした眼鏡の女性がいる。そして、彼らに一歩遅れる形で黒髪の背の高い青年が現れた。眼鏡をかけた切れ長の瞳の色は澄んだサファイアブルー、右目の下にぽつんとひとつ泣きボクロがある。黒縁のフレームが端正な美貌を引き立てていた。
「……っ」
青年の美しさに、思わず息を呑んでしまう。
恋人として、眼鏡をかけた姿の写真は当然持っている。スマホに表示させて、ひとりにやけるのはもう日課と言っていい。
しかし、写真は写真。
リアルはリアル。
ひさびさの生眼鏡フランの破壊力は絶大だった。
他人のフリをする都合上、こちらからは声をかけられないし、立ち位置だって離れている。だけど、そこに生きて呼吸しているという時点で優勝だった。
ブラボー眼鏡!
最高眼鏡!
こんなかっこいい装具を生み出した人類バンザイ!
「眼鏡ってすばらしい……」
「俺たちふたりも眼鏡かけてんだけど?」
ヴァンが呆れた声を出した。ケヴィンが苦笑する。
「マリアンヌさんも眼鏡だね……」
「フランドール様の後ろに控えているジェイドも眼鏡ですよ」
ついにフィーアにまでツッコミをいれられてしまった。よく見たら、フランの側には文官らしく身なりを整えて眼鏡をかけたジェイドの姿があった。
フランに見とれて完全に見落としていたらしい。
あれー、よく考えたら勇士七家の眼鏡人口、結構増えてるな?
首をかしげていたら、ヴァンに本気で睨まれた。
「お前、フランとの仲を隠す気ないだろ……」
失敬な!
この場で抱き着かないだけの理性は、ちゃんとあるじゃん!
「見ちゃうのはしょうがないと思うの」
「しょーがねーじゃねえよ。政敵のネタにされたらどーすんだ」
「それはもういまさらじゃない?」
王妃は完全に私たちの関係を知ってて妨害しにきてるし。さらに、婚約者のオリヴァー本人だって、私の気持ちを知ってる。
これ以上何を隠せというのだ。
「もういい……」
ヴァンはげっそりした顔で額に手をあててしまった。
開き直らないとやってられない、侯爵令嬢の事情を慮っていただきたい。私だって、なぜこんな面倒くさい状況に陥っているのか、運命の女神を小一時間問い詰めたい。
……なんかメイ姉ちゃんだったら、小一時間どころか半日くらい萌え語りにつきあってくれそうな気がするけど。
くだらないことを考えているうちに、裁判の準備が整ったらしい。
玉座のすぐ近くに控えていた近衛兵がラッパを吹いた。国王陛下のお出ましを告げる合図らしい。それに従って、貴族たちは全員頭をさげた。私も一緒になって頭をさげる。
正面の扉ではなく玉座わきの扉が大きく開いた。
王族専用の入場口から、ついに置物王と囁かれる現国王リチャード・ハーティアが姿をあらわした。






