超技術活用法
「リリィ、ひさしぶり!」
新たに現れた銀髪の青年は、私たちを見るとにっこり笑った。色は同じでも、ヴァンとは受ける印象は違う。
ガラの悪いヴァンと対照的に、女系家族で育ったケヴィンの笑みは柔らかい。
挨拶のあと、彼の視線は私のすぐそばに立つ少女に向けられる。
「セシリアも、来たんだね」
「は、はい……リリィ様の側仕えとして、同行させていただきました」
セシリアは、ぎゅ、と服の裾を握りしめる。
「私も、見届けなくてはいけない、と思って」
「そっか」
ケヴィンはふわりとほほ笑みかける。
「つらくなったら頼ってね。必ず、支えるから」
「……はい」
頼る、とは物理的な意味だけではないんだろう。その気持ちは私たちも同じだ。
正統な王族として前に進むために、セシリアはここに来た。臣下として、いや友達として、支えるのが私たちの役目だ。
「あれ? でも、ケヴィンはどうして王宮に?」
ふと感じた疑問を口にする。
私とクリスは事件の被害者。
ヴァンは婚約者のつきそいで、セシリアとフィーアは私の側仕えだ。
ケヴィンだけ、この大法廷に呼ばれる理由がない。
「友達を心配して駆けつけたっていうのに、ひどいなあ」
「いや、来てくれたのがうれしくないわけじゃないのよ。単純に、どうやって入れてもらったのか、不思議で……」
「わかってるよ」
ケヴィンはにやっといたずらっぽくって、胸に着けた大振りのブローチを示した。
「登城の名目はコレだよ。今の俺はおばあ様、モーニングスター侯爵の名代だ」
ブローチには、彼の家を示すモーニングスターの紋章が刻まれている。
「王様が裁決を下す裁判に、侯爵が代理人を送り込むのは当然の話でしょ?」
「なるほど……!」
「俺と同じ立場だな」
ヴァンもポケットからブローチを出すと、わざと目立つ場所につけた。こちらのブローチには大剣をモチーフにしたクレイモア家の紋章が刻まれている。
「ヴァンまで?!」
「婚約者と一緒に登城してみたら、『結婚してないなら部外者ですねー』って俺だけ追い返されるとか、ないわけじゃねえからな。念のため、じいさんから伯爵として出席する許可をとってあるんだよ」
さすが、陰謀渦巻く王宮で育った元姫君。危機管理意識が高い。
「で、でも……大丈夫なのですか? 名代、ということは裁判の中で、侯爵様や伯爵様として意見を求められることがあるのでは……?」
セシリアが心配そうにケヴィンとヴァンを見た。
「御しやすい若造と思われて、無茶ぶりされたら、大変よね?」
「そこは大丈夫、裁判中はコレを使うから」
ケヴィンはポケットから今度は黒縁の眼鏡をひとつ取り出した。このデザインには見覚えがある、もちおに命じて勇士七家メンバーに配った女神の超技術デバイス、スマートグラスだ。
一見ただの眼鏡のように見えて、実はその中にハイテク機能がぎっしり詰まっている。
なぜここでスマートグラスなのか。
「この眼鏡って、俺たちの手の動きや声から、コマンドを受け付けるために、カメラとマイクがついてるでしょ?」
「モーションキャプチャと、ボイスコマンド機能ね」
命令を受け付けるためには、命令を感知する機能が必要だ。
スマートグラスは情報を映し出すモニター機能だけでなく、情報を取り入れる各種センサーが備わっている。
「裁判中はスマートグラスで音声と映像をとって、モーニングスター領のおばあ様のスマホに共有するんだ。何かあったら、ワイヤレスイヤホンからおばあ様の指示が聞こえてくるって仕組みだよ」
「いいじゃん、それ!」
スパイ映画も真っ青の作戦に、ヴァンが目を輝かせた。
「俺もやってみよっと。グラスとスマホは持ち歩いてるから、こうやって……」
「あ、接続方法にクセがあるから、手伝うよ」
「助かるー!」
男子ふたりは、スマートグラスとスマホを持って、楽し気に情報交換している。
なぜ!
ファンタジー世界の住民の君たちのほうが!
私よりスマホを使いこなしているのか?!
理不尽な敗北感に、私は頭をかかえた。






