エスコート
「あなたが出迎えてくれるなんて、思わなかったわ」
顔に淑女の仮面を貼り付けて、私はオリヴァーの手をとった。
現在の私の立場は「王子の婚約者」。大勢の使用人の前で、彼の手を拒否できない。
私がオリヴァーに促されるまま歩き出したのを見て、おつき役のセシリアとフィーアも後ろからついてくる。
「俺のエスコートじゃうれしくないのは知ってるけどね」
使用人たちに気づかれないように、こっそりとオリヴァーが苦笑した。
だったら放っておけばいいのに。
「キミのお父君は戦地にいて、兄君はハルバードの領地だ。宰相家は表向き他人だから、直接エスコートをつけられない。護衛を連れているのはわかってるけど、今の不安定な王宮を、ひとり歩きさせられないよ」
「……守って、くれてるの」
「ほんの少しの間だけどね。紙の盾よりはマシじゃないかな」
オリヴァーはわざとらしくおどけて、肩をすくめる。
「……今日の裁判、俺も証人として出席するよ」
「え」
「王家の抜け道を使って離宮に向かい、暗殺者を捕らえた人間のひとりだからね」
私はオリヴァーの顔をまじまじと見つめてしまう。
彼が、裁判に出席する?
でも。
この裁判の目的って。
彼の母親の。
「見たままを、証言するつもりだ」
「……いいの?」
何が、とは具体的に言えなかった。
問題が深刻過ぎて、言葉にできない。
「君たちが殺されそうになった。それは許されないことだ。……そこに、俺との血縁は関係ないよ」
もう覚悟を決めているのだろう。
オリヴァーの言葉にブレはなく、声も落ち着いていた。
「……」
なんと声をかけていいかわからなくて、沈黙する。
彼は、王様には向いてなかったかもしれない。
人を導くために必要な血筋も、リーダーシップも、与えられなかった。
しかし間違いなく彼は、善人ではあるのだ。
まだたった17かそこらの少年に背負わせるには、あまりに重い。
「心配してくれるの?」
「え……あの、それは」
オリヴァーのことが気がかりじゃない、と言えばウソになる。
でもそれは、婚約者としての感情じゃない。
伴侶として深く思いやれない自分が、軽々しく口にしていいものじゃない。
「いいんだよ、君はそれで」
オリヴァーは穏やかに笑う。
「俺も、そうしてほしいと思わない。コレは俺が自分で抱えて、自分で立ち向かわなくちゃいけないことだ。誰も巻き込むつもりはないよ」
「……そう」
オリヴァーは広間の前で止まった。すぐ脇にある、控室らしい部屋のドアを軽くノックする。ドアの奥からは聞き覚えのある声が響いてくる。
「オリヴァーだ、リリアーナ嬢を連れてきた」
「え? オリヴァーとリリィ?」
「どうして!」
その声はどれも、頼もしい友人たちのものだ。
「君もがんばって」
王立学園の同じ教室で学んでいても、オリヴァーはその輪の中に入れない。静かな笑みをうかべたまま、彼は早々にその場から立ち去っていった。






