同時多発火災
突然応接間に響いてきた異常音に、全員がさっと緊張した。
部屋の中で起きた音ではない。破裂音は窓の外、やや遠くから聞こえてきていた。
クリスとフィーアがお互いに目くばせしてから、窓の先をうかがう。護衛対象の私たちは、身を伏せて、ひと塊になった。
「フィーア、何か見えるか?」
「南西に白煙を確認。第三厨房がある場所かと」
「原因は……」
パン! パパパパン!
今度の破裂音は連続だ。異常事態が起きているのは一か所だけじゃなさそうだ。
私はポケットからイヤホンマイクとスマートグラスを取り出して装着した。マイクに小さくささやく。
「もちお、状況報告」
『王宮内で火災発生。場所をマップにポイントします』
眼鏡ごしの視界に半透明の地図が表示された。複数箇所に赤い印が点滅している。監視衛星から確認した火災発生個所だろう。
「リリィ?」
「王宮のあちこちで火事が起きてるみたい。まだ動かないで」
私は地図を見つめる。
火事は王宮の広い範囲で起きていた。厨房、洗濯室、風呂場、給湯室……傾向を推理したいけど、数が多すぎてよくわからない。
「もちお、フランにコールして」
私が命令すると、一コール目の途中でフランが応答した。
『俺だ。状況は?』
「離宮は無事。全員応接間に集合してる。そっちは?」
『父と姉の安全は確保。俺もツヴァイと執務室で周囲を警戒している。どうも、各施設の魔力式給湯器から火が出たようだ』
「給湯器から?」
そういえば、赤い点が記された場所はどこも水仕事にかかわりのある場所だった。
「魔法陣の暴発? それにしては妙よね」
『おそらく、何者かが記述式に細工をしたのだろう』
「避難したほうがいい?」
『いや、まだ離宮にいろ。そこの厨房は旧式で魔力式給湯器がない。周りに堀もある。そこが王宮内で一番安全だ』
「わかった」
『俺はこれから被害状況の確認に出る』
そういいながら、フランのイヤホンマイクからは早くもカツカツと廊下を歩く足音が聞こえてきていた。すでに移動を始めているんだろう。
『落ち着いたらすぐ救助に向かう、待っていろ』
「うん……そっちも気を付けてね」
『承知した』
プツ、と通話が途切れる。
もっと話していたかったけど、これが限界だ。あとはフランたちを信じて待つしかないだろう。
「あっちは何だって?」
スマホで連絡をとっていることに気づいていたのだろう、クリスが声をかけてくる。
「王宮各所の魔力式給湯器から火が出たって。今被害と原因を確認中。私たちは離宮で待機」
「了解だ。フィーア、警戒を続けるぞ」
「かしこまりました」
フィーアが耳をぴんと立てて、各窓の外を確認して回る。どの窓からも白煙があがるのが見えた。
「うう……どうして……」
留学生たちは震えながらうずくまる。
「大丈夫、離宮に給湯器はありませんから、安全ですわ。落ち着いて救助を待ちましょう」
「姫様……」
自分も不安だろうに、姫君は気丈にほほ笑む。
彼女たちは西の国からの預かりものだ。これ以上ハーティアのトラブルに巻き込んではいけない。安全に、怪我ひとつなく母国に送り出してあげなくては。
「気持ちを落ち着けるために、水でも……」
言いながら、立ち上がる。
その瞬間、今度は部屋の隅から火柱があがった。
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