ここでおしまい
「シュゼットたちはこっちよ」
私は遅れて橋を渡ってきた留学生を連れて、応接室に入った。仲間たちと合流したミリアムはぺこぺこと私に頭をさげる。
「あ、ありがとうございます……リリアーナ様に案内していただくなんて……おお恐れ多い……」
「気にしないで。離宮は人が少ないぶん、私たちも動かなくちゃ回らないもの」
「ありがとう、ございます」
ミリアムはなおも頭をさげる。私たちのやりとりに気づいたシュゼットが、歓談の手を止めてこちらを振り返った。
「留学生が全員そろいましたわね。あら、ドリー先生は? いらっしゃらないようですけど」
「他に仕事があるからって、ミリアムと入れ替わりで帰っていったわ。馬車の用意ができたら、今度はマリィお姉さまが迎えにくるみたい」
「そうなのですか。留学中はドリー先生にもお世話になったから、ご挨拶したかったのに」
「今度会ったら伝えておくわね」
ドリーはともかく、ゴタゴタが続いている王宮で『影宰相』は多忙だ。裏事情を知っている身としては、あまり長く引き留められない。
多分、最後にもう一回くらい『世話役フラン』のほうには挨拶する機会があると思うから、感謝はその時伝えればいいんじゃないかな。
「ミリアム、あなたも荷物を置いてこっちにいらっしゃい。お父様たちにお渡しするお土産を選んでいたところなの。あなたの意見も聞きたいわ」
「は……はい!」
ミリアムは持っていたカバンを他の留学生たちの荷物のそばに置いて、主のもとへと移動した。その様子を見てシュゼットはにっこり笑う。
「ふふ、ちゃんと手を洗ってきたのですね」
「シュゼット様?」
「故郷に帰るのですから、身ぎれいにしておかないと」
シュゼットのにこにこ顔を見ながら、なぜかミリアムの顔が真っ青になっていく。
ただ身支度のことを話してるだけっぽいのに。
「わわ……わ、私……は」
「いいのよ、私もあなたが何を知ろうとしているのか、ずっと見させてもらってたから。目的がわかれば、相手が誰で、何をしたいのか予想できるもの」
「全部……知って……!」
シュゼットは笑顔のまま唇の前に人差し指を立てる。
「この話はここでおしまい。あなたは主を利用し、私もあなたを利用した。誠意がないのはお互い様だもの」
「……」
ミリアムはこく、とうなずく。
「帰国してしばらくは、見守ることになるでしょうけど……私はあなたの家族まで利用したいとは思っておりませんの。お行儀よく、過ごせますわね?」
「は……はいぃぃ……!」
ミリアムはソファにへなへなと座り込んでしまった。
シュゼットはというと、にこにこ顔でお土産談義を再開する。腹芸上手なお姫様、怖い。
留学生たちから一歩離れて彼女たちを見守っていたクリスが、私のそばにきてコソっとささやく。
「……リリィ、シュゼットの今のセリフは」
「私の手品の種と一緒よ。知らないほうが幸せ」
そういえば、シュゼットは人にレッテル付けをしなくなってから、ものの数か月で王宮情勢を把握してたっけ。情報の重要性を実感した結果、今度は情報に貪欲なお姫様になったみたいだ。
帰国してからも各国の情報を集め続けるだろうし、この先どんな風に成長するのか、想像するだけでも恐ろしい。
「リリィ、お母様にアクセサリーを贈ろうと思うのですけど、この耳飾りは避けたほうがよいかしら」
「あ~それは、最近できたトレンドだからねえ」
ミリアムをガン詰めしたことなど、きれいさっぱり忘れたような顔で、シュゼットが耳飾りを見せてきた。それは『耳飾り』という名前で呼ばれているけど、耳の先に飾りをつけるイヤリングとは別ものだ。耳の穴に大きな飾りがひとつ。そして、その飾りを中心に耳を縁取るように宝石がちりばめられている。大型のイヤーカフ、と言ったほうがいいだろう。
ミリアム以外の留学生が、不服そうな顔になる。
「でも、お互いの無事を想う恋人たちの証、という噂ですわよ」
「リリアーナ様のお母さま、白百合の君がハルバード侯爵に贈られたのがはじまりだとか」
「娘のリリアーナ様こそ、耳飾りを推すと思っておりましたのに!」
だってそれ嘘だもん。
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