西部国境戦線
「まさか、このタイミングでお父様が挙兵? そんな……ありえませんわ……」
「その通りだ。兵を送ってきてるのはキラウェアじゃない」
「じゃあどこが?」
クリスが首をかしげた。
「これは地図があったほうがいいな。リリィ、頼む」
「もちお、スマホにハーティア西部の地図を表示して」
『かしこまりました』
白猫が返事をすると同時に、画面が切り替わった。地図にはハーティア西部、ランス領の先にキラウェアの国土が描かれている。
ヴァンは指先で国境を示すと、そこからさらに南へと滑らせた。
「今回狙われているのはキラウェア国境の南、魔の森と呼ばれる樹海だ。ここに、大陸南西部のダルムールって国が兵を送り込んできている」
「南西……人の住む領域ではない、と国境線が引かれていなかった地域ですわね」
母国が攻め込んできたのではない、と知ってシュゼットは、ほっと息を吐いた。
私は疑問を口にする。
「魔の森に侵入してくるって、正気? あんなアンデッドパラダイスで、人間が生きていけると思えないんだけど」
「アンデッド? 何言ってるんだ」
「あそこは森が深いけど、幽霊が出るって話は聞いたことがないよ」
「でも、現にジェイドが……あー……いや、そっか、その未来はなくなってたんだった」
説明している途中で、私は自分の勘違いに気づいた。
王国西側の魔の森には、最悪の死霊術師の根城があり、中に迷い込んだ者すべてをアンデッドに変えてしまう。その伝説が存在したのは女神のゲームの中だけだ。
敬愛する師匠を蘇らせるために、禁忌の呪術に手を出すはずだった魔法使いは、今では私の忠実な部下として働いている。
「リリィ、何をご存じなのですか?」
「ごめんなさい、気にしないで。ちょっと記憶違いしてただけだから」
心配そうなシュゼットに、私は手を振った。
いろいろと王家の秘密をバラしてしまったシュゼットだけど、さすがに転生だとか女神のゲームだとかの話まではできない。
「えっと……アンデッドがいないのなら、あそこは普通の森よね。兵士が入ってきてもおかしくないのかしら」
「まあ、森が深いうえに底なし沼やら、毒沼やらがそこら中にあるから、人の暮らしに向かねえんだけどな」
「ダルムールは、西側諸国としてキラウェアとも交流のある国です。しかし……妙ですね」
西の姫君は眉をひそめる。
「かの国はいくつかの氏族がまとまってできた小国です。大国ハーティアとコトを構えるほどの力はないはずですわ」
「今回の派兵で、ハーティアそのものを侵略する意図はないと思う。奴らがほしいのは、樹海の開拓権あたりじゃないかな」
ケヴィンが推理を披露した。きっとそれは大きく外れてはいないだろう。
危険な樹海でも、地道に森を切り拓き沼を埋め立てれば集落ができる。そして国土が広がれば国力も一緒に上がっていく。
アンデッドのような呪われた存在がないのなら、十分考えられることだ。
「ヨソの土地なら勝手にしろと言いたいとこだが、そうもいかねえ。樹海を押さえたら次に目がいくのはその東……ハーティア南部穀倉地帯だからだ」
「国の食糧庫を危険にさらせないわね」
現代日本で農業国というと田舎の印象を受けるかもしれない。
確かに南部農業地帯は、ひたすら田園風景が広がっている地域だ。
しかし近代産業が発達していないファンタジー世界で、毎年安定して食料を生産できる温暖な土地ほどチートな武器はない。枯れず、尽きず、飢餓を駆逐する豊穣の国。
だから南部貴族は富豪なのである。
「こっちはランス騎士伯が迎撃に出るの?」
「いいや」
ヴァンは首を振った。
「友好国っていっても、キラウェアとはそこまで気の置けない間柄じゃねえからな。国境守護のランス騎士団は動かせねえ」
「じゃあ誰が?」
「南部穀倉地帯を守るんだぜ、南の盟主ハルバード侯爵が出るに決まってんじゃねえか」
「お父様……!」
今度は私が息をのむ番だった。
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そろそろ位置関係がわからんくなってるころかな、と思って地図をいれてみました。
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