ナイトコール
「ああああ~久しぶりのベッド~!」
私はぼすっと顔からベッドにダイブした。
ライラが布団を持ち込んで、タニアが整えたベッドはこれ以上ないくらいふかふかだった。シーツの手触りがいいし、いいにおいがする。
呼吸するだけで毒に侵されそうだった王妃の客間とは雲泥の差だ。
「しかも全員ひとり部屋……天国すぎる」
部屋の中にシュゼットたちの姿はなかった。人の多い場所で寝泊りして疲れたでしょう、とタニアがそれぞれの部屋を用意してくれたのだ。信頼できる仲間が警備している場所なら、三人ひと塊でいる必要はない。私たちは久しぶりに個人の自由時間を堪能していた。
「タニアさんのごはんもおいしかったし……はあ……やっとリラックスできるうぅぅ……」
もうこのまま寝てしまおうか。
今日はこれ以上何もできる気がしないし。
そう思っていると、わずかな振動が伝わってきた。顔をあげると、枕元に放り出したスマホがヴー……と震えている。
「今ごろ着信? 誰からだろ」
画面を見たら、フランの名前が表示されていた。
私はあわてて通話ボタンを押す。
「はい、もしもし?」
『……俺だ。今話して平気か?』
「うん。ちょうどそれぞれ部屋に引きあげた後だから」
男性のフランとジェイドは、夕食をとった後すぐに離宮から出て行っていた。女ばかりの宮殿に、未婚の男が残るのは外聞が悪い、という判断らしい。
もうちょっと一緒にいられると思ったのに、残念。
「何かあった?」
スマホに映し出されたフランの背景は、どこかの個室のようだった。
ふたりも今日は王宮のどこかに泊まると言っていた。客間で何か問題でも起きたんだろうか?
『いや、何もない』
しかし、青年は軽く首を振った。
『強いて言うなら、そうだな……通話機能を使いたかったから、だな』
「何それ。ただ呼んだだけーみたいな通話」
『ダメか?』
「いやだってそんな意味のな……」
画面越しのフランが、少し残念そうな顔になったのを見て、私はやっと彼の意図を悟った。
「ない、ことはないね……」
恋人の声が聴きたい、なんてこの世で一番大事な用じゃないか!
つまりこれはアレですか!
お休みコールってやつですか!
前世の自分が甘いイベントに縁がなかったせいで、気づくのが遅れちゃったよ!
「声が聴けて……うれしい……デス」
『俺もだ』
美しい青年の表情がふっとやわらぐ。
私の好きな顔だ。
「あ……あのね、フラン。さっきは助けに来てくれて、ありがとう。王様から許可をもらってくるなんて、大変だったでしょ」
『この程度、どうということもない』
嘘だ。
私が見ていない間、必死に走り回っていたに違いない。
『お前を守れたのなら、それで』
甘い言葉を聞くたび胸が苦しくなる。
この青年はもともと、常識的な羞恥心を持っていた。むしろ恋愛感情を表に出さない、恥ずかしがりやの部類に入っていたと思う。
こんな風に、あからさまに好意を口にするようになったのは、私が王子様と婚約してからだ。
正式な婚約者がありながら、想いを通わせる私たちは、世間一般でいえば不貞を働いている状態だ。
どんなに愛し合っていたところで、神の前で将来を誓うことも、互いを縛る契約を結ぶこともできない。
私たちの間にあるのは、いつか一緒に暮らそうっていう口約束だけだ。
人目のある場所では、知人以上の距離に立つことさえできない私たちの間柄は、ひどく脆い。ただ愛という薄氷の上に成り立っている関係だ。
このつながりは、お互いの気持ちを疑った瞬間、きっと壊れてしまう。
だから彼はことさらに愛を口にするのだ。
私が疑わないように。
不安で壊れてしまわないように。
(結局、優しいんだよね、フランは)
真面目だった青年は、私のためにどこまでも変質していく。彼の愛情に報いるために、私にできることはひとつだ。
「来てくれて、うれしかった。大好きだよフラン」
私もまた、恋人に愛情を返す。
彼が揺らがないように。
張りつめた心が壊れないように。
『……ああ、悪くないなこれは』
それを聞いて、フランが不自然な笑みをうかべた。
書籍⑤巻発売まであと3日!
詳しい情報は活動報告とXにて!
@takaba_batake
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