死に至るドレス
「リリィ……? コレには理由がありますわよね?」
「もちろん」
静かになった脱衣所で、シュゼットが私にたずねてきた。私はうなずいてから肩をすくめる。
「私には何がなにやらさっぱり……」
クリスが不思議そうな顔でドレスに手を伸ばす。
私はとっさに彼女の手をつかんで止めた。
「触っちゃダメ。それは毒よ」
「ドレスが?!」
驚いたクリスは思いっきり後ろにさがる。
「何年か前に、はやりの緑の生地を身に着けた侍女がバタバタ倒れる事件があってね……ディッツと調べたら、銅の精錬途中で出る猛毒のヒ素化合物を使って染めてたことがわかったの」
王女としてある程度毒の知識があったのだろう。ヒ素、と聞いてシュゼットの顔からも血の気が引く。
「じゃあこれって……緑青の緑……なんですの?」
「そのドレスを着たら……、そうね。すぐ死んだりはしないけど、染料に触れた部分が腫れたりするかも」
私はテーブルに並んだ化粧品にも目を向ける。
「あの白粉も毒よ。鉛白を使えば、柔らかで輝くような白になるけど、常用すれば鉛中毒になるわ。口紅の朱色も鉛丹でやっぱり鉛。使い続けたら体を壊すでしょうね」
窓から放り投げちゃったからもう確認しようがないけど、多分美顔水にも何かしらの毒が入っていたんだろう。どこかで回収して、成分を確かめたいところだ。
「全部……毒……」
理解がついていかないらしい、クリスが呆然とつぶやく。
私も強烈すぎる悪意にめまいがしそうだ。
「で、でもこれは、明確な殺意ですわ! 叔母様が私たちを害そうとしたとして、抗議すれば、状況を変えられるかも」
「それは無理」
「どうして……!」
「だって、これが毒だって知ってるのは私やディッツみたいに、医療知識がある人間だけなんだもん。あなたたちふたりだって、気づかなかったでしょ?」
「それはそう……ですけど……」
私は、改めてテーブルに広げっぱなしの化粧品を見る。器はどれも美しく飾り立てられていた。中身も含めて一級の職人が作ったものなのだろう。
「ドレスも化粧品も、市場で普通に売買されている商品だわ。これだけじゃ悪意の証明にはならない」
科学が未発達なこの世界では、鉱物毒の危険性がまだ広く認知されていない。
トップクラスの研究者が集まる王立学園でも、硫化水銀の結晶である辰砂を不老不死の妙薬として大真面目に語る学者がいるくらいだ。
緑の染料も、輝く白粉も、朱色の口紅も、庶民にとってはキレイな高級品でしかない。
薬学の権威ディッツ・スコルピオに師事した私だからこそ、気づけた異常事態だ。
これらを持って王妃に抗議したところで、「そんな危険なものだとは知らなかった」としらを切られたら追及できない。それどころか、王妃の心づくしの歓迎を曲解する恩知らずだとか、由緒正しい業者が納入した商品を毒入りと喧伝する営業妨害者だといわれる可能性すらある。
「まったく、悪辣にもほどがある」
私はただ苦々しく顔をゆがめることしかできなかった。
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