負傷
フランドールは、何度か瞬きをしたあと、ゆっくり周囲を見渡した。まだ意識がはっきりしていないのか、その視線は明確な焦点を結んではいない。
「フランドール先輩、俺がわかりますか?」
「アルヴィン……? どうして、お前が……」
「ここは、俺の実家であるハルバード城の敷地です。外出していた妹が、偶然あなたの襲撃されている現場に居合わせて、ここまで運んだのですよ」
「妹……?」
私は兄様の肩越しに、フランドールの顔を覗き込む。
「覚えていますか? 妹のリリアーナです」
「あ……お茶会で……暴れた……」
ディッツが『お嬢、マジでそんなことしたの?』と目を大きく見開いた。イケメンに顔を覚えられてたけど全然嬉しくないな!
「先輩、どうしてこんなことになったか、状況を伺ってもよろしいですか」
「ああ……お前は知る必要があるだろうな。その前に、ひとつ確認したい。俺が襲われた場所の近くに、他に生存者はいなかったか?」
「先輩の従者たちですね……リリィ、見かけたかい?」
「えっと……それは」
兄様が私を振り返った。私はどうとも答えられずに口ごもってしまう。
フランドールくらいの高位貴族ともなれば、一人旅なんかしない。側近を含めた何人かの使用人や護衛騎士と行動するのが普通だ。だから、彼を助けたあと、崖の上にフランドールの仲間がいないか確認したんだけど……。
「俺たちが見つけたのは、ミセリコルデ家の紋章をつけた遺体が4人分。人間の死体があったらしき痕跡が7人分。それだけですよ」
私が困っているのを察して、ディッツが代わりに答えてくれる。多分、紋章つきの遺体がフランドールの仲間で、あとの7人は暗殺者たちの仲間なんだと思う。暗殺者の死体が消されたのは、所持品などから素性を探られないようにするためだろう。
家臣たちが全滅したと聞いて、フランドールは重い溜息をついた。
「そうか……遺体は今どうなってる?」
「下手に遺体をいじったら、あなたを助けた者がいると知られてしまいますからね。申し訳ありませんが、そのままにしてあります。弟子に、周囲の索敵がてら野盗に見せかけて貴重品を回収するよう命じておきましたので、運が良ければ形見が手に入ると思います」
「……配慮、感謝する」
「こちらこそ、力不足で申し訳ありません」
「いや、謝らないでくれ。あなたの責任では……うっ!」
話すために体を起こそうとして、フランドールはうめいた。そのまま、ベッドに背中から逆戻りする。
「無理に体を起こしちゃダメですよ! 右足の骨が砕けてるんだから!」
私は、なおも起き上がろうとするフランドールの体を押さえつける。ちょっとはしたないが、怪我を悪化させないためには必要な処置だ。
「この痛み……そうか、崖から落ちたときに……」
「ごめんなさい。とっさのことだったから、うちの魔法使いでも、体の重要な器官を守るのでせいいっぱいだったらしいの。あ、でも悲観しなくていいですよ! ディッツは守りの魔法は下手でも、治癒術は得意ですから。一か月もすれば元通りになります! そうよね、ディッツ」
「お嬢の名にかけて、足の完治は保証しますよ」
フランドールが負った怪我のうち、一番の重傷は右足の粉砕骨折だ。現代日本の医療では、即車いす生活が決定するほどの重傷である。粉々になってた骨が全部綺麗にくっついてしまうなんて、さすが魔法の世界の治療術だ。
「先輩ほどのひとが、こんな重症を負うなんて……」
状況を把握するにつれ、兄様の顔からどんどん血の気がひいていく。
うん、私もそこの事情は気になる。
私たちからの視線を感じ取ったフランは、ベッドに横になったまま事情を話始めた。
内容を聞くうちに今度は私の顔から血の気がひいていった。
まさか、彼を窮地に追いやった原因が、自分だったなんて思わないじゃん!!!






