カメラの正しい使い方
「カメラアプリとかどうかな?」
「……かめら?」
「さっき出て行ったドローン、空飛ぶ使い魔と同じ機能よ。ここについてるレンズで写した映像を保存できるの」
「映像……保存……?」
「使ってみたほうが早いわね。フラン、ちょっとこっち向いて」
「うん?」
きょとんとしているフランにレンズを向けて、シャッターボタンを押す。カシャッと小さく音がして、画像が保存される。改めてスマホの画面を見ると、そこにはフランの顔が映し出されていた。
「かっ……こよ……」
セルフスチル保存ありがとうございます。
このスマホ私のだよね?
管制施設を出たあとも持ち歩けるんだよね?
つまり、人目にさえ気を付ければ、いつでもフランの顔を見放題ってこと?
あれ? これって、夢の『カレシの写真ゲット』シチュですか?
「ふおぉぉ……」
思わず、変な声が口から出てもしょうがないと思う。
こんなの喜ぶしかないじゃない!
「リリィ?」
「あ、ごめん。こんな風に風景がそのまま保存できるの」
「……確かに、便利だな」
「カメラは両面についてるから、切り替えたら……ねえフラン、ちょっとこっちの画面見て」
「こうか?」
私はインカメラに切り替えると、フランに体を寄せた。一緒になってスマホを見る。
そのままシャッターボタンをもう一度。
今度は私とフラン、ふたり並んでる写真がとれた。
あこがれの!
カレシとツーショット写真ゲットだぜ!
「うわあ……本当にツーショットだぁぁ……」
これはロックかけて永久保存するしかない。
絶対に消去不可だ。
「お前との絵姿は悪くないが、いいのか? こんなものを他人に見られたら……」
「スマホ自体がそもそも重要機密だから、人のいる所では使わないわよ。それに、持ち主以外操作できないよう、ロックもかかってるし」
スマホの利用者自体が限られまくっているこのファンタジー世界で、情報を抜き取ってくるハッカーなんてほとんど存在しない。管理さえ気を付ければ、流出する危険性はほぼゼロだ。
「……なら、いいが」
今度はフランが自分のスマホでカメラアプリを起動させる。
何度か指令室の中に向けてシャッターを切っていたかと思うと、不意にこちらを向いた。
「リリィ」
「え、私?」
「恋人の絵姿がほしいのは、お前だけじゃない」
言いながら、スマホ片手に見つめられると、また頬が熱くなる。
そういえばそうだった。
私がフランの写真で喜ぶのと同じように、フランも私の姿で喜ぶんだったね……。
気持ちは嬉しいけど、なんだか気恥ずかしい。
「こ、こう?」
ポーズをとったらカシャ、とシャッター音が静かな指令室に響いた。
「表情が硬いな。もう少し笑った顔のほうが嬉しいんだが」
「ええぇ……」
そんなこと言われても。
恋人の写真を撮るシチュエーションが初めて、ってことは逆に撮られるのも初めてなんだよ。小夜子の時は自分の姿が好きじゃなかったから、あんまり写真を撮らなかったし。
せっかくなんだから、かわいく笑わなきゃって思うのに、顔はどんどんこわばっていく。
「リリィ」
「ま、待って、待って……笑顔になろうとはしてるんだけど」
「恥じらう姿は、それはそれでかわいいんだがな」
「今そういうこと言わないでー!」
余計緊張するから!
私が慌てている間にも、フランは恐ろしい勢いでカメラの使い方を覚えて、こちらを撮影してくる。恋人のひきつった顔ばかり撮って君は何がしたいんだ。
「ただ撮られるのが緊張するなら、さっきみたいにふたりで撮るか?」
「え、あ」
私の返答を待たずに、フランは自分のスマホをインカメラに切り替えて体を寄せてきた。さっきと全く逆の構図だ。自分も同じことをやってたはずなのに、フランが撮っていると思っただけで心臓が跳ねる。
「カメラを見ろ」
密着しているから、声が近い。
カシャ、とシャッター音がまた鳴った。
「顔をあげて」
耳元でささやかれて、私は逆に俯いてしまう。
「ね、ねえ……っ、からかっておもしろがってるでしょ!」
「ばれたか」
「もうっ……!」
顔をあげたら、フランの青い瞳と目があった。彼は器用にスマホのカメラをこちらに向けたまま、私を見つめている。
カシャ、とまたシャッター音がした。
「いい顔だ」
唇を寄せられて、吐息がからむ。
私はとっさに手をのばすとフランの大きな手ごと、スマホをつかんだ。レンズが私の手にふさがれて、画面が真っ黒になる。
「こういう時の顔は……撮っちゃダメ……」
「酷なことを言う」
ちゅ、と唇が触れ合った。
この仮想空間でできるのはここまでだ。そうわかっていても、リアルな感覚が気持ちいい。抱きしめ合ったまま、もう一度キスしようとして。
ヴーッ! ヴーッ!
けたたましい警告音が鳴り響いた。
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