ダガー伯爵家
「ディッツ、起きてる?」
開かずの図書室を脱出した私たちは、全員でディッツの研究室に押し掛けた。研究室の奥から、無精ひげの魔法使いがひょっこり顔をだす。
「寝てられるわけないだろ。お前らが身動きとれないっていうから、俺が特別課題を与えて外出させたってことにしたが、それでよかったか?」
「とても助かったわありがとう!」
察しのいい有能な部下ってありがたいね!
「それはそれとして、聞きたいことがあるの。ジェイドの父親が誰か、知ってる?」
「は?」
ディッツは鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、私を見た。そのあと、ジェイドを見てから後ろにいるヴァンたちを見る。
「お嬢……ジェイドの産まれなんて、今まで一度も気にしたことなかっただろう」
「事情が変わったの。教えて」
「ぼ、ボクからも、お願い」
「~~……っ」
ジェイド本人からお願いされたら断りきれない。ディッツはしばらくうなったあと、大きなため息をついてから、口を開いた。
「……ジェイドの父親は、ダガー伯爵家最後の当主、フェルディナンドだ」
「やっぱり……!」
女神のDNA鑑定装置は正しく機能していたようだ。
「どうして、ジェイドがディッツの弟子に?」
勇士の末裔は国から手厚く保護されるはずだ。しかし、私が十歳の時に出会ったジェイドは、呪いに蝕まれて、まともな子供の姿をしていなかった。
「あんまり気分のいい話じゃないぜ。それでも知りたいのか?」
「教えて。多分、ここにいる全員が把握すべき事情だから」
「……しょうがねえな」
ディッツは、私たちをソファに座らせると話し始めた。
「フェルディナンドは、ダガー家と言っても傍流の産まれでな。家督とは無縁の男だった。しかし、伯爵家直系の連中がぱたぱたとあいついで亡くなって、奴に継承権が回ってきたんだ」
「ダガー家に不幸が続いた、って話は私も聞いてるわ」
多分、その事件を裏で操っていたのも、ユラなんだろう。
「急に大きな権力を持ったフェルディナンドは、すっかり気が大きくなっちまってなあ。本来手が届かなかったはずの、男爵家の令嬢を強引に嫁にした。だが、その男爵令嬢ってのが、見た目は綺麗だが曲がったことの許せない、とんでもないカタブツで……フェルディナンドとは全くといっていいほど、ソリが合わなかった」
政略結婚ではよくある話である。
よくある話だけど……。
「結局、妻が妊娠したころにはすっかり夫婦仲が冷え切っててな。産まれた子供があまりに魔力に溢れてたんで、魔法使いと浮気したんだろうって難癖つけて子供と一緒に追い出しちまった」
「えー……それだけで?」
勇士の家系は女神のDNA鑑定施設が使える。誰の子供かちゃんと確認する手段があったのに、その程度の理由で追い出すなんてひどすぎる。
「当時フェルディナンドはまだ二十代だったからなあ。すぐにまた別の女との間に子ができると踏んでたんだろう。しかし、何度妻を変えても子はできず、ヤケになって娼館を手当たり次第に渡り歩いた挙句……病気をもらって死んじまった」
因果応報、というにはあまりにえぐい結末である。
それで結局、最初の妻との間にできた子供だけが生き残っていることも含めて。
「俺がジェイドを拾ったのは、こいつが二歳くらいの頃だったかな。離婚したって聞いたんで顔を見に行ったら行方不明になってて、母親を見つけた時にはもう子供を残して死んでた。俺はそれを引き取って、今に至る……ってわけだ」
「……話してくれてありがとう」
私はディッツに素直にお礼を言った。
正直、妙にジェイド母個人の描写が細かい、とか何故彼女は『魔法使い』との浮気を疑われたのか、とか、どうして家族でもないディッツが彼女を捜索してたのか、とかツッコミたい箇所は多々あったんだけど、それは言わぬが花ってやつなんだろう。
「勇士の末裔は国をあげて保護すべき存在です。賢者殿は何故、その素性を隠したんですか」
フランがディッツに問いかける。ディッツは、苦虫をかみつぶしたような渋面になった。
「それは貴族の理論でしょう。ダガー家は、あいつを子どもごと切り捨てて死に追いやった。そんなところにジェイドを戻せませんよ」
「心中お察しします……」
しかも、ハルバードに来るまでのジェイドは、体を呪いに蝕まれて生きるか死ぬかの瀬戸際だった。詳しくはわからないけど、そうなった原因もダガー家なんだろう。
情の深いディッツが、明かさなかったのも無理はない。
「とはいえ、知った以上放置もできないのですが」
「えっ」
フランの言葉に、ジェイドがびくっと体を震わせる。
「お前も見ただろう、邪神との戦いは既に始まっている。ジェイドには早急に家督を継いで欠けた勇士の席を埋めてもらう必要がある」
「ぼぼぼ、ボクはお嬢様の従者ですっ! 伯爵になんか、なれませんっ!」
「そうは言っても、これは国の指針だからな……」
「嫌ですううぅぅぅ……!」
ジェイドは涙目で頭を抱えている。
私に忠誠を誓ってくれるのはありがたいんだけど、伯爵になる未来を棒に振らせるのは主としてどうなのと思う。
っていうかどうしよう。
「なればいいんじゃないの、伯爵」
静かに話を聞いていたフィーアが言った。
「私みたいな獣人どころか、貴族のお嬢様が選び放題になるわよ」
「君との結婚契約も破棄しないからね?!」
ジェイドはついに悲鳴をあげる。
そっちの問題もあったか。
彼が伯爵になってしまったら、獣人の庶民婚約者は不適当と言われるだろう。
あれ? でも君たち、カモフラージュ婚約者じゃなかったっけ?
「フランドール様……」
ディッツがフランに声をかけた。その様子は、どう見てもジェイドの伯爵家復帰をよろこんでいる雰囲気じゃない。
「わかっていますよ。これほどまでに拒絶している者を、無理矢理伯爵の席に座らせたところで、いい結果にならないのも。下手をすれば、逃げられるか壊れるか……肝心な時に使えなくなる可能性がある」
「フランドール様、それじゃ……!」
「家督継承は一旦棚上げしてもいい。ただし、父宰相には念のため報告させてもらう。それから、白銀の鎧などダガー家の血が必要な場合には、どんな状況であっても協力してもらうぞ」
そこがフランなりの妥協点らしい。
「わわ、わ……わかりました……」
ジェイドはしゅん、とうなだれた。
主として、こんな時どういう顔をしたらいいのかわからない。
「話はこれで終わりか? だったら、全員一度自分の部屋に帰れ。明日は今日のつじつま合わせで忙しくなるから、休んでおかないと身が持たないぞ」
「それもそうね。ありがとう、ディッツ。私たちは寮に戻って……」
「ちょっと待て」
腰を浮かせかけた私たちを止めたのはヴァンだった。
「ジェイドのことも大事だがな、俺の聞きたいことは、まだ全部聞けてねえぞ」
「ええ? 何か他にあった?」
「セシリアの素性だ!」
えーそれ聞いちゃいます?
見たら、クリスとケヴィンも真剣な顔で私を見ていた。セシリアが聖女と知らないディッツだけがきょとんとしている。
「あの場にユラがいたから、あえてつっこんでなかったが……な、ん、で! ラインヘルト子爵家なんてところから、聖女が生えてくんだよ! 血統に従って聖女が産まれるなら、王家だろ!」
そうなんだよね。
聖女は建国王に恋をして世界を救った。邪神を封じたあと、ふたりはもちろん結婚して、ハーティア王室を開いている。だから、王家とは建国王の血統であると同時に、聖女の血統でもあるのだ。
「俺たち貴族が、王家に何を言われてもへいこら頭を下げているのは、いつかあいつらの中から聖女が産まれるって信じているからだ。どういうことか、納得のいく説明をしてもらうぞ!」
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