目的を整理しよう
「まずは、目的を整理しましょう」
兄様は私たちの前に手を出すと、指を三本立てて見せた。
「現在の父様たちの目標は、社交界で味方を増やすこと、俺の王立学園復学、リリィのお茶会デビュー。このみっつですね」
「ああ、そうだな」
「これを、社交界で味方を増やす、のひとつに絞ります」
兄様は中指と薬指を折り曲げる。立っている指は、人差し指一本になった。
「しかし、それは……」
「父様も母様も、精一杯頑張ってくれているのは知っています。しかし、この状況であれもこれも、と手を出せるほど、おふたりとも器用ではないでしょう」
「う」
父様の顔が引きつる。しかし、冷静に状況を分析する息子は引き下がらない。
「でも、あなたたちの問題を放置するわけには」
「放置しても大丈夫だから、言ってるんです。俺は、もうすでに父様の後を継いで侯爵になることが決まっています。1年くらい学校の卒業が遅れたところで、将来に大きな影響は出ません。それに、リリィ……お前のお茶会だって別にいいだろ?」
「ええ! 私はまだ11歳だもの。正式な社交界デビューまでには、まだ時間があるわ」
一年の足踏みは痛いが、どっちにしろ両親の問題が片付かないことには何もできない。
「元々俺たちの問題は、ふたりに社交界の味方が少ないことに起因しています。状況が安定すれば、自動的に解決する可能性が高い。まずは目の前のことから片付けましょう」
「わ……わかったわ。でも、その間あなたたちはどうするの? ずっと屋敷に引きこもっているわけにはいかないでしょう」
「ふたりで、ハルバード領に戻りますよ」
兄様はさも当然のように答えた。
えーと、ふたりで、ってことは私も一緒ってことだよね?
子供だけでハルバード領に行くって言ってる?
「王都は人が多く、貴族が賊を雇って差し向けやすい。それよりは、昔からうちに仕えてくれている兵や使用人が守りを固めている、ハルバード城のほうが安全です」
「でも……家族が離れるなんて」
「俺も自分の考えが最善だとは思いません。良い代案があれば従いましょう」
反論しようとして、母様は沈黙した。
それ、『他に案がないなら、黙ってろ』って意味だよね……。家族を溺愛してる母様を説得するには、強い言葉が必要とはいえ、兄様は手厳しい。
「わかった、アルヴィンの提案を受け入れよう」
父様が、重々しく口を開いた。
「アルヴィンとリリィはハルバード領に。私たちは王都に残って、社交に集中する」
「坊ちゃまたちには、誰を同行させましょうか」
事務的な話、と判断して執事が口をはさむ。
「護衛として、信頼できる騎士を何人かつけてくれ。家庭教師の賢者殿と、ジェイドも一緒だな。クライヴ、お前はここに残れ。領地の管理はともかく、繊細な社交ごとはお前のサポートがなければ回らない」
「かしこまりました」
す、と執事が下がる。
父様は顔を上げると、兄様を見つめた。
「いつの間にか、親に意見ができるほど大きくなっていたんだな……」
「ええ。ですから、頼ってくれていいんですよ」
家族を背負って立つ者、そしてこれから背負うことになる者。両者の視線がぶつかりあう。
「ならば、お前にひとつお願いだ。妹を……リリアーナを守ってくれ」
「はい、必ず守ります」
兄様は胸を張って宣言した。






