彼らの事情
「私が太ると、太っただけ、私に近づく人は減っていったわ。容色の衰えた者には用はない、とばかりにどんどんいなくなるの。その姿を陰で嘲る人もいたけれど、欲望に満ちた視線を向けられるよりは、ずっと気が楽だったわ」
「私たちは、太ることでやっと世間の目から解放されたんだ」
二人は疲れたため息をつく。
それを見て、私は『馬鹿なことを』とは言えなかった。
王都に出てきてから一か月。私も兄様も、両親のもとへ集まってくるストーカーたちのバカ騒ぎはずっと目にしてきた。十代の若いころから、あんな連中に囲まれていたら、逃げたくなって当然だ。
ふたりのとった行動は、自分を守るためのぎりぎりの選択だったんだ。
「でも、どうして今更痩せたんです? 美しい姿を取り戻したら、こうなるってわかってたはずじゃないですか」
そうなのだ。
ふたりは、美しい容姿に引き付けられるファンたちの恐ろしさが身に染みている。
安らぎを求めて逃げたのなら、そのままにしていればよかったのに。
「だって、リリアーナが素敵、って言うんですもの」
「……私?」
「1年前、社交を切り上げてハルバードのお城に戻ったあと、ダンスのレッスンをしたでしょう? ちょっとだけ踊った私を見て、あなたは素敵と言ってくれたわ」
「そういえば、そんなこともあったわね」
踊る母様を初めて見て、実はすごい人なんじゃないの、って思ったアレか!
「その時にね、気づいたの。あなたたちから、こんな風に尊敬の目で見られたことって、なかったなあって」
「それは……」
兄様は口ごもる。兄様ってば、両親のことをクライヴに仕事を投げっぱなしの無能夫婦だって思ってたからなあ。私も人のことは言えないけどさ。
「確かに今の生活は楽だけど、それはお前たちに誇れるような姿だろうか? そう思ったら、自分たちの行いが間違っているような気がしてね。それで、痩せて元の姿に戻ることにしたんだ」
「でも……この選択も間違っていたわね。子供を危険にさらすことが、正しい行いなわけないもの」
「違う!」
私は思わず叫んでいた。
「父様も母様も間違ってない! おかしいのは、嫌がらせをしてくる人たちじゃない!」
「リリアーナ……」
「俺も、リリアーナと同意見です。優秀な者が優秀にふるまって何が悪いんです」
「あなたたちは……こんな私たちを受け入れてくれるの? 迷惑ばかりかけているのに」
「だから! 迷惑をかけてるのは、ふたりじゃないでしょ! 周りに寄ってくる馬鹿な人たちの責任まで、引き受ける必要はないの!」
「そう……そうね」
「おふたりの事情はわかりました。これからの対策を立てるとしても、ふたりが太りなおすのはナシです」
兄様はきっぱりと言い切った。私も隣で全力で頷く。
「余計周りがつけあがるだけですし、体にもよくない。何より、いまさらそんな情けない姿を見たくはないです」
「そうだな。だが、どうするべきか……」
「俺に、ひとつ提案があります」
兄様は背筋を正すと、両親に向き直った。






