乗り越えるべき苦難
ユラの言ったことが信じられず、私は一瞬フリーズしてしまった。
「え、待って。待って待って待って。どういこと。ユラ……っていうか、厄災の神を作ったのは創造神って、なんなのそれわけわかんないんだけど」
この世界がご都合ファンタジー世界だからって、神様の成り立ちなんて深く考えてこなかったことは事実だ。でもそれにしたって納得いかない。
「細かい理屈を彼らに求めても無駄だよ。元々神なんてものは全員おおざっぱなんだから」
「そこは否定できないけどね?」
メイ姉ちゃんのポンコツ具合を知ってる身としては、むしろ『わかるぅー!』って言っちゃいそうだけどさ!
「彼らが言うには、さ。この世界はそのままだと平穏すぎるんだって。ただ安寧を貪るだけの世の中じゃ、人間は渇望しない、努力しない。だから、創造神は彼らが必死になって戦うべき困難を作り出した。それが厄災の神だよ」
「わざと作った……災い……?」
言われてみれば、創世神話には『創造神が世界のあまねく全てを作り上げた』とあったはず。そう考えれば、厄災自体もそのうちのひとつだとして、不自然はないけど。
「でも、お優しい創造神はヒトに困難を与えるにあたって、手心を加えられた。厄災は、必ず人の手で打倒されるべきである、とね」
ユラの顔が歪む。
笑っているのか、怒っているのか、判断がつかなかった。
「どんな力を持っていても関係ない。どれほど窮地に追い込まれているように見えても、結局ヒトが勝利する。僕はこのダンジョンと一緒だ。ヒトが成長するための糧として消費されるだけの負け邪神なんだよ!」
その叫びは、初めて聞く声だった。
いつものすました声音じゃない。余裕のない荒々しい口調。
きっとこれがユラの本心なんだろう。
「そこまでわかってるなら、どうしてわざわざ神様の思い通り、不幸をばらまいて歩いてるわけ? 立ち位置に不満を覚えるくらい自我があるなら、やめればいいのに」
「は……僕が今まで神に逆らわなかったとでも?」
私の疑問を、ユラは鼻で笑った。
「やつらの意図に添いたくなくて、活動をやめてみたこともある。善行を積んだことだってある。東の荒れ地で苦しむ人々に気まぐれで手を貸してみたら、勝手に国ができあがった。ただの氏族としてまとまっていればいいものを、運命の女神を嫌う思想に染まり、敵対心を持ち、気が付いた時にはハーティアに困難を与える敵対国家へと変貌していた」
「……アギト国の成り立ちってそんなだったの」
厄災を至上の神としてあがめる国だと聞いてたから、てっきり洗脳でもされているのかと思ってたんだけど。実際はもっと根が深いみたいだ。
「ちょっと手を貸しただけでこれだ。僕がそこにいる、ただ歩いていた、ただ家族として生まれ落ちた、それだけで周囲は身を滅ぼしていく」
ユラは私を見る。
「ねえ君にわかる? 何も得られない人生がどれだけ惨めか。どれだけ努力しても結局負ける勝負がどれだけ不毛か。僕はこの世界でただひとり神が『幸せにしたい』と思うヒトの枠から外れているんだよ」
ヒトの形をしたヒトの敵は、ヒトのように苦しみを吐露する。
「逃れたくても逃れられない……殺されても自殺しても、結局この魂は厄災の神と紐づいているから、またどこかの母体から産まれ直すだけだ」
「だからって……どうしてわざわざ星を滅ぼすようなことをするんですか」
セシリアが震える声で問いかける。ユラは彼女を振り向いて……笑ったようだった。
「それが唯一救われる道だからだよ。僕の魂はこの世界に縛り付けられている。運命を滅ぼすには、世界ごと滅ぼすしかないじゃないか」
その悲壮な顔を見て、私はやっと腑に落ちる。
何故彼がこれほどまでに露悪的で、破滅的なのか。
彼はずっと終わりにしたかったんだ。
決して報われることのない、不幸しかない人生を。
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