それなんてクソゲー
管制施設に無理やり入っていったユラとセシリアを追いかけて、私はヴァンたちと一緒にログインした。そのはずだったんだけど。
「なんでこうなってんの……」
私は改めて自分を見下ろした。
そこにはダサジャージを着た細くて貧弱な小夜子の体がある。側にいるのはセシリアと、何故か頭に毒々しいツノを生やしたユラだ。ヴァン、ケヴィン、クリスの銀髪トリオの姿は見えない。
「そもそも、ダンジョンにいるのもおかしくない?」
私は立ち上がって周りを見回した。シンプルな正方形の部屋は、規則正しく並んだ石造りの壁に囲まれている。ここは女神ダンジョンのスタート地点だ。
「ログインしたら、ロビーに出るはずですよね」
セシリアも首をかしげる。
そもそも、私たちが入ったのは巨大空中要塞『女神の心臓』の運用を支援する管制施設のはずだ。ゲームでは、開かずの図書室の奥の鏡から中に入るとまず最初に広いロビーに案内された。そこにはいくつも扉が並んでいて、コントロールルーム、女神ダンジョン、ミニゲーム施設、などなど目的にあわせて扉にアクセスする仕組みになっていた。間違ってもこんな風にいきなりダンジョンのスタート地点に出たりしない。
不思議に思っていると、突然何の前触れもなく目の前の風景が揺れた。プログラムがバグった時のような、耳障りなノイズ音とともに壁がモザイク状に変色する。
「な……っ」
驚いているうちに、ノイズ音は唐突におさまった。同時にモザイク状の変色も消え失せる。
もしかして、これ。
「システム全体がバグってる?」
「そうみたいだねえ」
ユラがのんびりと相槌を打った。
「魂がふたりぶんあるのに、侯爵令嬢がひとりの人間としてログインしたのが悪かったんじゃない? バグったあげくに異物として別IDにされちゃったんだね」
「あーだから小夜子としてここに……って! ちょっと待てぇ!」
私は反射的にユラに食ってかかった。
「確かにリリアーナには私の魂も入ってたけど! そもそもバグの大元の原因は資格もないのに無理やりレリーフ焼き切って中に入ったあんただろーが! 責任転嫁すんなっ!」
「あ、ばれた」
「当たり前だっ!」
ユラは厄災の分身みたいなものだから、性格が悪いのは当然なんだけど、本当にタチが悪いなこいつ。
「こんなところにいてもしょうがないし……セシリア、一旦ログアウトして立て直そうよ」
「ええ、それなんですけど」
セシリアは悲し気に眉を下げた。
もしかして、これ。再び。
「まさか、ログアウトできない……とかないよね?」
「そのまさかです」
「ログアウト不可だんじょんんんんん……! どこのウェブライトノベルだよおぉぉぉぉ」
思わず、床に手をついて叫んでしまったのはしょうがないと思う。
いかん。叫んだらめまいが。
「愛しい人と迷宮にふたりきり。ロマンあふれるシチュエーションだね」
「さらっと私の存在を無視すんな。あんたと同じダンジョンにカンヅメとか絶対ヤだからね」
人の神経逆なでする技だけは一流のユラを、私とセシリアで睨む。
「小夜子さん、この先どうしたらいいと思いますか? 正直、この管制システムやダンジョンは私の常識とはかけ離れすぎていて、何をすればいいのか見当もつかないんです」
「だろーね……」
セシリアは多少女神の乙女ゲームの知識があるけど、所詮実況プレイ動画民だ。実際にパソコンやゲームに親しんで育った私とは経験値に大きな差がある。
「通常ログアウトができないんだとしたら、一旦ダンジョンの攻略を進めたほうがいいと思う」
「どうして?」
「このダンジョンは聖女の教育のために作られたものだから」
万能の才覚を与えられたとはいえ、セシリアは地方育ちの子爵令嬢だ。いきなり空中要塞を渡されたところで運用できない。このダンジョンは攻略を通して厄災との戦い方を少しずつ学ばせてくれる施設なのだ。
本来はキャラのレベル上げ用施設なんだけどなー。
何がどうしてこうなった。
いや全部ユラが悪いのか。
「ボスを倒したりポイントを貯めたりすれば、その分セシリアが管制システムを利用できる権限が増えるはず」
「その権限を拡張していけば、バグを修正できるんでしょうか……?」
「多分ね。そんなシステムを直接触るような権限をゲットするとなると、かなり深いところまで攻略しないとダメな気がするけど」
「いやあ、ダンジョンの奥底まで女の子ふたりだけで行くなんて大変だね」
ユラはにこにこと笑っている。
「あんた何他人事みたいは顔してんの? 諸悪の根源のくせに!」
「だって僕は頭数にいれないんでしょ。ふたりともがんばってね♪」
「この……!」
気弱なはずのセシリアの眉がつりあがる。
性格最悪の厄災の化身と、煽り耐性ゼロの聖女と、病弱少女。
こんなパーティーメンバーでダンジョン攻略とかクソゲーにも程があるだろ!
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