お姫様は成長期
訓練場の一件から一か月、私たちの学園生活は表向き平穏に続いていた。
フランが時々騎士科の訓練に混ざってストレスを発散していたり、クリスがセシリアを巻き込んで女子寮で鍛錬してたり、シュゼットが特別室以外の女子のお茶会に出入りし始めたりしてるけど、大きな事件にまでは発展していない。
心配事といえば、相変わらずセシリアがユラに振り回されてることくらい。今日も、学園のお休みを利用して朝からユラと待ち合わせているらしい。
「行動だけは、つきあいたてのカップルみたいなんだけどな……」
私は特別室のサロンでぬるめのお茶を飲む。
助けてあげたいけど、ユラのちょっかいが絶妙に学園規則に反しないせいでうまく手がだせない。ちょっとずつ顔色が悪くなっていくセシリアをはらはらしながら見守るしかない状況だ。
ぼんやり考えていると、サロンのドアが開いてシュゼットが入ってきた。
「ごきげんよう」
「おはよう、シュゼット。これからおでかけ?」
私がそう尋ねてしまうのは無理もない。今日の彼女は制服を脱ぎ、頭の先からつま先まで、完璧にドレスアップしていたからだ。
「ええ。ミセリコルデ宰相閣下のお招きで、王宮の見学に参りますの」
「へえー、それはすごいね」
私たちを単なる王子妃や姫君として見なくなったシュゼットは、めきめきと頭角を現し始めた。若干十六歳でハーティアに乗り込んでくるくらいだから、元々素養があったんだと思う。視野を広く持ち、相手をまっすぐとらえる、ということを覚えた彼女は、あっという間に学園内での人脈を広げた。今となっては、トンデモ侯爵令嬢として恐れられている私より、よっぽど友人が多い。
宰相閣下との見学会も、彼女自身の手腕によるものだろう。
「今日は王宮で噂の、『武器検出ゲート』を見せていただく予定ですわ」
「魔力隠蔽を全部無視して武器を見つける装置ね」
武器検出ゲートとは、現代日本の空港なんかに置いてある金属探知ゲートだ。何年か前にケヴィンの婚約者騒動で活躍した金属探知魔法が元になっている。ほぼ趣味で作ったようなものだったんだけど、その有用性に目をつけた兄様が汎用装置として開発。王宮や関所など、重要施設の警備システムとして導入されることになったんだっけ。
金属探知機のセンサー部分を魔法使いが肩代わりすることで誕生した技術だけど、他が発展してないのに金属探知だけピンポイントで実現してるのは、不思議な気分だ。
「あの装置を作ったのも、リリィなのでしょう?」
「私はアイデアを出しただけよ。術式を完成させたのはジェイドだし、システムとして王宮に売り込んだのは兄様よ」
「やっぱり! あなたが発端でしたのね」
「んん?!」
妙な言い回しに、私は顔をあげた。
「シュゼット、あなた友達にカマかけたわね?」
「ちょっと確証がなかっただけですわ。だいたい、この国の革新的な新技術の出どころといったら、ハルバード家出資のアール商会ではないですか。今更何を隠し立てしているのだか」
「うう……シュゼットが鋭いよぉ……」
「念のため伺いますが、装置の原理をご教授いただくことはできませんの?」
「それはダメ。手品の種を明かさないのがハルバードの流儀……っていうか、国防に関わる技術だから教えられない」
「でしょうね。せいぜい装置の性能を見てびっくりしてくるとしますわ」
なんか、ここ一か月でむちゃくちゃたくましくなってないですか、お姫様!
「下に馬車を待たせているので、そろそろ行きますわね」
「うん、行ってらっしゃい」
「……それと」
シュゼットはサロンを横切って階段側のドアを開けてから、こちらを振り返った。
「フラン様にエスコートしていただきますけど、他意はありませんから心配なさらないでね」
「ふぇっ……? 何の話?!」
「改めて徹底的に情報収集した結果、王宮の勢力図はほぼ把握しましたの。だから、宰相閣下がご子息を誰と結婚させたいとお考えになっているかも、存じ上げておりましてよ」
「ちょ……シュゼット……!」
「行ってまいりますわね」
にっこり笑って、シュゼットは階段を降りていった。
訓練場で話したあの時、シュゼットがいい方向に成長できたらいいな、とは思ったけど! ちょっと成長しすぎなんじゃないですか?!
相変わらず自分の恋心ばっかり周りに見透かされてるのが恥ずかしすぎるんだけど!
「ああもう……穴があったら入りたい」
人がいないのをいいことに、ソファで行儀悪く膝を抱えて体育座りをしていたら、階段のほうからぱたぱたと足音が近づいてきた。
「シュゼット、忘れ物でもした?」
「リリィ様!」
しかし、入ってきたのはセシリアだった。その顔は今にも泣きそうだ。
「ユラを見失ってしまいました……」
なんだって?!
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