クソリプ
「やはりこうなりましたか……」
悪意のこもった手紙の束を見て、クライヴは重々しい溜息をついた。
「やっぱり、ってことは、この事態を予想してたの?」
私が尋ねると、はい、と頷く。
「坊ちゃまがお産まれになる前には、時々このような手紙が届いておりましたから。旦那様と奥方様がその……様変わりしてからは、そのようなことはなかったのですが」
「父様と母様が綺麗になったから、嫌がらせをするの? どういうことよ」
「お嬢様、幼い貴方には理解しがたいでしょうが、強い光というものは、時に濃い影を作るのです。旦那様たちは、多くの支持者を得ると同時に、羨望と嫉妬の的にもなってしまっているのでしょう」
「つまりこの手紙はクソリプってことなのね」
「くそり……? リリィ? なんだそれは」
「あ! ちょ、ちょっと言い間違えちゃったわ。くだらない嫌がらせ、って言いたかったの」
いかんいかん。
思わず現代日本ワードが出ちゃった。
アプリも何も存在しないこの世界で、リプライとか言っても通じないよね。
現代日本でもいたよねー。芸能人とかスポーツ選手とか、有名人だったらどんな言葉をぶつけてもいい、って思って暴言吐く人たち。
どんなにすごい実力があっても、どれだけ強くても、その人は架空のキャラクターじゃない。
生きた、生身の人間だっていうのに。
「この手紙を出した連中は、侯爵家をなんだと思ってるんだ」
兄様は嫌そうに顔をしかめた。
おっと、そういえばここは身分制度のあるファンタジー世界だった。
個人情報保護法はないし、人の命は平等だと言う人権派もいない。クソリプを不敬だと判断した侯爵家が、庶民の首を物理的に刎ねちゃうこともできるんだった。
そう考えたら、よくこんな手紙を出せたものだよね?
「旦那様も奥様も、お優しい方ですから……咎めるようなことをしない、と思われているのでしょう」
「つまり、我がハルバード家が侮られている、ということだな?」
「有体に言えば、そう、なりますね……」
今まで何を言われても、ダイナマイトな姿でのほほんとしていた人たちだからねえ。娘の私でも、反撃する姿は全然想像できない。
「このままにしておくわけには、いかないな」
兄の目がぎらりと光った。
あー、そういえば何かされたら全力で反撃する人が、家族にいたわ。
実の妹ですら、素行が悪いと排除しようとするくらいだもん。赤の他人の愉快犯なんて、ツブしてポイだね!
「クライヴ、手紙を全てチェックし、不届きな手紙の送り主を特定しろ。特に悪質なものについては、大々的に告発し、処罰させる。痛い目にあうとわかれば、軽率なことをする連中は減るだろう」
「かしこまりました」
手紙の山をトレイに載せ直すと、クライヴは去っていった。有能な彼のことだ、たとえ差出人が偽名を使っていたとしても、送り主を突き止めてくれるだろう。
「はあ……」
手紙の山が見えなくなった瞬間、ほっと息が漏れた。
人の悪意を目の当たりにして、思ったより緊張していたみたいだ。
これで、収まるといいんだけどね……。






