ハルバードの至宝
「理由を聞かせてもらえる?」
主人の縁談に意見する、という無礼を働いたメイドたちに、私は問いかけた。
彼女たちは侯爵家に勤める優秀なスタッフだ。もちろん、どこまでが自分の領分なのか、ちゃんと理解している。
そんな彼らが、あえてその境界線を踏み越えて意見するのは異常だ。
使用人程度、などと一蹴していいものではない。きっと大事な理由がある。
絶対に耳を傾けるべきだ。
集まったメイドたちのうち、一番年かさのメイドが口を開いた。
「おそれながら……お嬢様は、かけがえのないハルバードの宝です。他家に嫁がせては、大きな損失となるでしょう」
「つまり、私に独り身でハルバードに残れと」
「そこまでは申し上げるつもりはありません。しかし……ハルバードに連なる者を伴侶とし、領内に留まっていただきたい、と思っています」
ハルバード領に残る。
それは単にそこに暮らすというだけの意味じゃない。領主の親族として、運営に関わってほしいってことだ。
「3年前のクライヴの事件の折、ハルバードは一度滅びかけました。そんなぼろぼろの侯爵家を守り、立て直したのはお嬢様です。私たちは、何度お嬢様に救われたか、わかりません」
メイドたちはさらに深く頭を下げる。
よく見れば、意見しようと集まってきた使用人たちは、全員ハルバード領出身だ。使用人として以上に、領内に家族を持つ者として恩を感じているんだろう。
「お願いです、お嬢様。ハルバードに残り、アルヴィン様を支えてください」
使用人たちの願いを聞いた私は、大きく息を吸い込むと……。
「やだ」
と、バッサリ断った。
「お嬢様……!」
「ハルバードの立て直しは私ひとりの力じゃないの。お父様が第一師団長として活躍して名声を集め、お兄様が王都で学業を修めながら事業を立ち上げて財産を作り、ミセリコルデ家から人材援助してもらって、やっとなんとかまとめたの。私の力なんて微々たるものよ」
私は立ち上がって、メイドたちを見下ろす。
「それに、よく考えてみなさい。私とお兄様の統治姿勢は似ているようで違うわ。私が残れば、きっといつか意見の対立が起きる。そのときに私が下手に支持を集めてごらんなさい、ハルバードが私とお兄様の間で割れるわ。あなたたちは、ハルバードをばらばらにしたいの?」
「そ……そんなことは……!」
「あなたたちが、ハルバードを愛しているのは知ってる。私のことを評価してくれてることもね。でも、指導者は領内にふたりもいたらダメなのよ」
「……」
メイドたちが俯く。
彼女たちが、本気で私を想ってくれているのはわかる。だからこそ、頷くわけにはいかなかった。
「この件はもう忘れなさい。私も聞かなかったことにするから」
兄様以外のリーダー候補なんて、存在させてはいけない。
次期ハルバード侯爵は兄様。
その前提が揺らいだら統治なんてできない。
「お嬢様……」
別のメイドの声がした。
「何? これ以上の話はないわよ」
「それが……お客様がお見えになっていまして……」
彼女は純粋に用事を持ってきた子だったらしい。
「着替えたらすぐ行くわ」
来客って、また縁談じゃないでしょうね?
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