行きたくないでござる、絶対に行きたくないでござる
「なんで私がこんな目に……」
ごとごとと揺れる馬車の中で、私は頭をかかえていた。
馬車に乗っているのは3人。
できたばかりの新作ドレスを着てとびっきりのおしゃれをした私と、これまたとびきり綺麗な衣装を着せた美青年従者ジェイドと、私のドレスよりはやや地味なものの、めちゃくちゃにかわいいドレスを着せた美少女メイドフィーアだ。
このまま、観劇とかコンサートとかに行けたら最高の衣装とメンバーだと思う。
しかし、あいにくと馬車の目的地は娯楽施設ではない。
ハーティア最大の悪魔が住まう場所、王宮だ。
この国で一番格式の高い場所で、この国で一番の悪意が渦巻いている場所。
まあ、私も一応侯爵家の令嬢だし?
王立学園に進学したら、行事なんかで出入りすることになるだろう。
進路によっては、将来の仕事場にだってなるかもしれない。
しかし。
14歳までずっと領地にひきこもり、王宮の公式行事に一切参加してこなかった子供が、保護者のひとりも連れずにやってくるような場所じゃない!!
領主代理として一通りのマナー、そして公の場での立ち振る舞いは教育されている。
冷静に行動すれば、それなりのふるまいができるはずだ。
普通の社交ならそれで充分。
しかし、今回のイベントはそんなものでは通用しない。
だって、私を招待したのは、王宮に巣食う悪意の親玉、王妃様なんだから!!!
王妃様とはほとんど面識はない。
大失敗した10歳のお茶会で少し顔を見ただけだ。
でも、彼女の悪意は知っている。
ハーティア王室に嫁いできた結婚式で、花嫁よりも目立ってしまったダンスの名手に、わざと白百合の称号を与えて、男たちのエサにしようとした。
白百合がまんまと侯爵家に嫁いで難を逃れたのちも嫌がらせを繰り返し、彼女が怪我をしたと聞けば、その身を案じるふりをしてとびきりハイカロリーなお菓子を贈った。
そして、王宮のお茶会に出席するようになった白百合の娘に目をつけ、息子との婚約をエサにしてコントロールし、性格最悪の悪役令嬢に仕立て上げた。
彼女は、ハーティア国民が大嫌いだ。
とりわけ、将来有望な少女、恋する乙女が幸せになることを憎んでいる。
それは誤解じゃない。
ゲームの形で何度も何度もこの世界をシミュレーションし、彼女の悪意ある罠に命を刈り取られ続けたことで得た確信だ。
断言していい。
王妃は絶対、ろくでもない罠を用意して待ち構えている。
保護者のいないタイミングで呼び出してきたのがいい証拠だ。
今すぐこの馬車から逃げたい。
しかし、いかに侯爵家といっても王妃直々の召喚を断る権力までは持ってない。
ああもう、本当になんでこんなことになってんの……。
私は、幸せだった一か月前を思い返していた。
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