閑話:それぞれのエピローグ2前編(クリス視点)
「ああああああ……もう無理―!」
集中力の限界に達した私は、持っていた針と糸を放り投げた。
色鮮やかな糸が床に散らばる。拾い集めるべき、とは思うが手が動かなかった。
そのままテーブルに体ごとつっぷして、作業を投げ出してしまう。
「うう……つらい」
クレイモア伯爵家嫡男と王妹殿下の婚約が成立して二か月。
王妹殿下親子をクレイモア伯爵領へ迎え入れて一か月が経過していた。
ボク…いや、私自身、シルヴァンからクリスティーヌへと名前を変え、お姫様として生活するようになって半月。
男としてふるまっていた過去を捨て、女として生きる術を身に着けることになったのだが、その修行は早速暗礁に乗り上げていた。
刺繍、レース編み、押し花、楽器演奏、歌唱、などなど……貴族子女がたしなむべき教養とされているものが、ことごとく合わなかったのである。
何故女子の趣味というものは、ちまちましたものばかりなのか。
どれもこれも小さくか弱くて、ちょっと力をいれただけで素材はおろか道具ごと壊れてしまう。
かろうじて、ダンスだけは形になっているものの、気を付けていないと淑女のステップではなく騎士のステップを踏んでしまう。
「キラキラふわふわしたものに囲まれた女子って、楽しそうに見えたけど……過酷すぎる……」
ずっと椅子に座りっぱなしだったから、腰が痛い。
手元ばかり見ていたから首が痛い。
道具を壊さないよう、気を遣って握りしめていたから腕が痛い。
体中痛いところだらけだ。
ぐったりしていると、不意に部屋のドアが開いた。
「よう、クリス。元気か?」
「ヴァン……」
顔をあげると、お姫様から伯爵家嫡男に変身した元クリスティーヌ、現シルヴァンが立っていた。
「君はいいよな……かっこよくなったから」
「なんだ、お世辞か?」
「いや、事実だろう」
女でいることをやめたヴァンは、あっという間に男らしくなった。
元々成長期だったのだろう。
髪を切り、筋トレを始めた彼は、すっかり男の子だ。
今更、彼にカツラをつけてドレスを着せたところで、もう女の子に見えることはない。
たくましくなったのは、見た目だけではない。剣などの戦闘技術もめきめき上達している。
しかも、今まで謀略だらけの王宮で暮らしていた影響か、戦術や策謀などにおいても才能を発揮しているのだ。
クレイモア伯爵家を率いる者として、これほどふさわしい人物はいない。
「それに比べてボ……私ときたら」
放り投げた刺繍糸はからまってくしゃくしゃだ。
「ずいぶんへこんでんなー」
ヴァンは針と糸を拾い上げると、余り布にちょいちょいと細工をし始めた。何の変哲もない布地に、あっという間に可憐な花が咲いていく。
彼の手は自分よりずっと大きいのに、なぜこうも器用なのか。
世の中理不尽すぎる。
「どれもこれも……うまくいかなくて……女子の趣味は難しすぎる」
「じゃあ、やめれば?」
ヴァンは、私の苦悩をあっさり切って捨てた。
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