表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/350

マデーラダンジョンの攻略開始

新たにレビューをいただきました、ありがとうございます。

各キャラを大切にしつつ、主人公もしっかり出番を作って活躍させたいと思います。

 マデーラダンジョン。

 それは、最初にシビラと冒険者ギルドに来た時『地元の冒険者で処理している』と告げられた、平野に溢れるオークとは関係のないはずのダンジョンである。


 俺は、そのダンジョン内に入りながらシビラに疑問をぶつける。


「何故このダンジョンを攻略するんだ?」


「理由は二つ。一つは、ラセルのレベルを確実に上げておきたいのよ」


 俺のレベルか。

 確かに平野のオークでもいいが、あの魔物たちはあまり強くないように感じられた。


「エミーちゃんも上げておきたいけど、ある程度は強くなったわね」


「え?」


 シビラはエミーのタグを手に取り、その数字を出現させる。


 『アドリア』——エミー【聖騎士】レベル2。

 先日見たものと、全く同じ文字が並ぶ。


「こ、これかなり弱いと思うんですけどぉ……」


 自分のレベルを見て、エミーは改めて大幅に下がったことを認識する。

 以前はレベル25と、相当高かったはずだ。


 最上位職ではあるが、俺から見ても到底十分とは思えない数字……と思ったのも束の間。

 シビラは、タグに触れながらもう一度エミーの情報を出した。


 『アドリア』——エミー【宵闇の騎士】レベル6。


 そこには、エミーの本当のレベルが表示されてあった。

 セイリスの魔王を討伐する際に、状況を打破するために新たに得たエミーの職業。

 俺やシビラと同じ、『宵闇の誓約』の職業だ。


「……あ、あれ?」


「宵闇の職業は、そう簡単にレベルが上がるものではないわ。それでも6まで上がった上に、吸収余剰分の経験値で聖騎士のレベルも上がってる。これは将来的に、かなり強くなるわね」


 自分でその職業を選んでおいて確認してなかったのか、エミーは自分の【宵闇の騎士】のレベルを見て驚く。

 昔から、ちょっと抜けてるところがあるんだよな。


「レベルあがってたんだ……でも、いつの間に?」


「いつの間にって、もう! エミーちゃんってば、ほんとラセルのためなら夢中になっちゃうんだから。覚えてない? 砂浜で『マンイーター・ドラゴンフライ』を、しかも二体」


「あ」


 セイリスの魔王は、自らが戦う際にフロアボスをお供に二体喚び出した。

 それが『マンイーター・ドラゴンフライ』とシビラが呼んだ昆虫型の魔物。


 素早い動きで翻弄してくるボスに対し、エミーはその場で【宵闇の騎士】という職業を選んだ。

 そして、俺に代わってフロアボスを二体とも倒したのだ。

 だから、フロアボス二体の経験値は、エミーのもの。

 その結果がこのレベルだ。


 ふと、俺は気になったことを質問する。


「なあ、シビラ。魔王に止めを刺したのがお前なら、その経験値は……」


「魔王に経験値はないわよ」


 そうなのか? 一番ありそうな気がするが……。

 俺の疑問に答えるように、シビラは自分のタグを見せてレベルが変わっていないことを証明する。


「ふうん、何故だろうな」


「何故かしらね」


 答えを知っているのか知らないのか、あまり興味なさそうにシビラが先に進む。

 ……まあ、今はその理由を気にする必要はないか。

 魔王に経験値はない、とだけ覚えておけばいいだろう。




 ダンジョンの奥から、ゴブリンが現れる。

 紫色の、いかにも弱いゴブリンという見た目の魔物だ。


 まあ、何もないよりはいいだろう。俺は目の前の魔物に魔法を叩き込む。


(《ダークスプラッシュ》)


 闇の飛沫が正面の広範囲に吹き飛ぶという、相手に当たれば何でもいいという魔法だ。

 少なくとも、俺の中ではそういう認識だな。


「相も変わらずラセルと一緒に潜ってると、今までの闇魔法の常識、全部ぶん投げたくなるわね」


「そんなに変な選択でもないだろ、いちいち狙うのも面倒だからな」


「確かにそーだけどさ。ゴブリン相手にスプラッシュって、アリを踏み潰すためにブラッドタウロスを用意する、ってぐらいには過剰な使い方よ。でも確かに楽なのよね、消費魔力に目を瞑れば」


 闇魔法の消費魔力が高いことは、やはり何度見てもシビラにとって驚くものなのだろうな。

 無駄遣いして枯渇するのなら節約はするが、俺の場合は全くなくなる気がしないので、このまま行かせてもらおう。


「エミーちゃんは真似しちゃ駄目よ」


「そもそも闇魔法自体使えないんですけどぉ……」


 そんな言葉を聞きながらも、俺は新たに現れたゴブリンどもをダークスプラッシュで処理していく。




 上層は、ギルドでの話を聞く限り弱い魔物しか現れないはずだ。

 倒しながら、シビラの考えをもう少し聞こうか。


「今日は、フレデリカを一人にしても大丈夫なのか?」


「ある意味ではフレっちにも、アシュリーが優秀と思われているうちは下手に手を出せないのよ。特に『シビラ暗殺』を掲げているうちは、ね」


 昨日聞いた話から察するに、『アシュリーが従順なうちは、敵対しそうな手段を取らない』という意味だろう。

 そして、フレデリカはアシュリーにとって、娘のマイラ同様に大切な存在。それは赤会も分かっているはず。


 故に、フレデリカが一人だからといって手を出せば、アシュリーが協力しなくなる可能性がある。

 赤会にとって一番の目標が『シビラ暗殺』なら、成功率が一番高いと思っているアシュリーを失う真似はできない。

 あくまで、娘のマイラと天秤に掛けて、シビラの方が軽かった……と認識しているに過ぎないわけだ。


 それにしても、自分をその殺害対象として固定しながら策を進めるんだから、こいつの肝は据わっているよな。

 ……いや、案外これで狙われること自体は怖いと思っているのかもしれない。


 確か、アドリアのダンジョンに入った時もそうだった。

 危機感がないわけではない。だが、必要以上に緊張することはない。

 常に、最良の選択になるように動いているのだろう。


「ちなみに、アシュリーは今回の莫大な情報量の報酬として、マイラを一日遠くから見る権利を主張してもらってるわ。アタシが外出していること、アシュリーは知ってるけど、知らないふりをしてもらう。たまたま巡り合わせが悪かったですねーってわけ」


 だから殺害対象が外に出ていようと、アシュリーは分からなかったというわけか。




 さて、もう一つ聞きたいことがある。


「ダンジョン攻略の理由の二つ目を聞いていないな」


「ああ、それね——」


 シビラが答えながら、手を後ろに向けて火の球を放った。

 ゴブリンが遠くで全身を燃やし、仰向けに倒れる。


「もしかすると、このマデーラダンジョンも、オークの出てくるダンジョンと同様に、赤会が何らかの手段で溢れさせるかもしれない。その前に、相手の手段を先に潰すのよ」


 なるほどな、危険を予測しながら物事を進めるシビラらしい考えだ。


「本来なら『魔王を討伐してから』なんて手順は、明らかに危険度が上がるし無茶苦茶なんだけど、今回はマイラちゃんの件もあるから、そちらに合わせて万全を期しておきたい。でも何より……」


 シビラはエミーと俺の方を見て、笑いながら腕を組む。


「アタシ達なら、そんな魔王討伐という壁を楽々と破れるだろうなって期待もあるのよ。特にラセルの闇魔法なら、ね」


 期待、か。


 シビラと出会わなければ、もう一生自分とは縁のないものだっただろう。

 それを、魔王討伐という最難関の任務にかけてくれる。

 その上で俺は、二度も魔王が滅ぶところを見届けた。


 これで魔王に挑むのは三度目だが、二度やっただけに分かる。

 決して御しやすい相手ではないだろう。全く違う姿かもしれないし、セイリスの魔王より強いかもしれない。


 ——だが、俺の心は既に決まっている。


「任せてくれ。油断はしない……が、確実に魔王は倒そう」


 このダンジョンの魔王も、それにオークを排出するダンジョンにいるであろう魔王も、俺が倒す。

 その決意に、エミーも隣で頷く。


「私も全力サポートします!」


「すっかり頼もしくなったわね、それじゃ次の魔法目指して、張り切って行きますか!」


 シビラのかけ声に頷くと、俺達は目の前に現れたマデーラダンジョンの第二層への階段に足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ