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【勇者パーティー】エミー:自分の心の負担の軽減、頼りになる友人の考察、そして……善意という名の……

新たにレビューをいただきました。

沢山読んでいただけて光栄です、ありがとうございます。

 ジャネットと少しお話しした、翌朝。


 普段のふわふわとした寝起きの感覚がなく、妙にすっと頭が覚醒する。

 被っていた毛布を外すと、窓から差し込む光は青く薄暗い。

 一瞬まだ夜なのかなと思ったぐらい。


 一昨日は、なんだかいろいろと考え込んでしまって、頭痛が止まらなかったのだ。

 回復魔法ヒールって、こういう時には意外と効果がないんだね……もしかしたらジャネットにキュアを頼んでもらった方がよかったかな。

 悪夢にも苛まれた気がする。まあ夢って覚えてないから、どんな夢だったか全く分からないんだけどね……。


 昨日も考え事をしていたけど、それでもすぐに就寝した。

 きっと、ジャネットに相談したからだ。

 自分が溜めていた悩みみたいなものを、ジャネットと共有することで負担軽減してもらっているような気がする。

 誰かにこうやって考えを共有してもらえることが、こんなに楽になるなんて思わなかった。特に、頭のいいジャネットなら、ちょっとおバカな私の分からない部分まで、しっかり考えてくれそうな気がするから。

 ……共有というだけあって、ジャネットが私の分まで悩んでしまう、という部分に関しては、非常に申し訳ないと思うけど……。


 それにしても、本当に朝早いね。

 昨日寝坊したのとは大違いだ。

 なんだか、気分すっきり。


 ……それにしても、なんだっけ……この暗い空のこと、ちゃんと言い方あるんだよね……ジャネットにかっこいい名称教えてもらったんだけど……。


 ……闇? 闇宵とか、宵とか……そんなだった気がする。

 うん、宵だ。よいぞーよいよい。


「暁だよ」


「へ?」


 隣を見ると、私と同じようにベッドの上で起き上がっている女の子。

 見慣れた半目で私を数秒じーっと見て、呆れ気味に溜息を吐く。


宵闇よいやみ薄暮はくぼ黄昏たそがれは日暮れ側だよ。朝はあかつき東雲しののめあけぼの。……もう寝る気なの?」


「あ、あはは……」


 起きていきなり私の一日が終わりかけてた。ま、まいったなー……完全にボケかましてたね。

 そして私の間違いにも突っ込んでくれる、頭が良くて優しい一番の友達。


「おはよ、ジャネット」


「ん、おはよう」


 やや眠たいのか、手で目を擦りながら左右にふらふらっと動く。


「まあ、お早いのですね——」


 と、もう一つの声が聞こえてきて、私とジャネットはびくっと飛び跳ねて振り返る。


「——あ、あら? えっと、すみません、そんなに驚かせるつもりは……」


 頭を掻きながら、毛布の中から顔を見せる、金髪の女性。

 ジャネットに対して一部分の敗北感を持っていたかつての私のことを狭い田舎の人間だと理解させられた、本物の完璧美女。


「あ、あはは、ごめんなさい。おはようございます、ケイティさん」


「はぁい、おはようございます、エミーさんっ」


 やっぱりその姿は魅力たっぷりで、怪しさなんてかけらもないケイティさんのニッコニコ笑顔。

 ううん、疑ってる私がだんだん、自分って性格悪いのかなとちょっとへこみかけるぐらい。


 ケイティさんが、次に視線を動かした先は、もちろんジャネット。

 ところが……ジャネットは全く声をかけない。

 居たたまれないのか、ケイティさん、私の方とジャネットの方にしきりに視線を往復させて瞬きを増やす。うわー、まつげ長いなー。


 じゃなくて、ジャネット、なんで黙ってるんだろ。

 ……ま、まさか昨日私が相談したから、もうケイティさん疑ってかかってるの!?

 それは早くない!?


 緊張しまくる私とケイティさんが動向を見守る中、ジャネットが立ち上がる。

 ま、待って——!


「……着替え、部屋にないんですけど……」


 ——え?


 ジャネットがケイティさんの毛布をひっぺがすと……なんかもう、すんごいセクシーな服だった。

 胸とお尻だけ布地が濃くて、残りが半透明のカーテンみたいな、スケスケの……いやあれお尻とか見えてない……?


「ケイティさんの着替えが部屋にないんですが……まさか、そのネグリジェ姿のまま朝から浴槽へ行くつもりだったんですか……?」


「えっと、まずいでしょうか?」


「男がまっすぐ歩けなくなるので、やめてください……。というか昨日その格好のまま歩いてたんですね? はぁ……僕のマントを貸すので、必ず浴室へは着ていくように」


「あ、あらあらまあまあ……! ジャネットさんは、わざわざそのことを? ふふっ、気が利いて、素敵な女の子ですね!」


 ケイティさんはニコニコ笑顔で、ジャネットを抱きしめながら青い髪を撫でる。

 それをジャネットは「やめてください……」と少し嫌がるように身をよじっていたけど、照れ隠しなのかあまり止めようとはしなかった。


 ……ほっとしたぁ……。

 いや、私ですら聞くのはまずいと分かってるんだから、ジャネットがそんな迂闊なことするわけないよねー……。


「じゃ、向かいますわね」


 そしてコートを着たケイティさんは、浴槽の方へ朝から向かっていった。お湯あるのかな……と思ったけど、あの人自前でお風呂焚くぐらい余裕だったね。


 ケイティさんを見送ったジャネットが、こちらを振り向く。


「びっくりしたよ、何か聞くかと思っちゃった」


「さすがにそんなことしないよ。でも、見てた」


「えっ、何を? ネグリジェの模様?」


「……えい」


 ジャネットから、チョップが飛んでくる。

 全く痛くない。ていうかかわいい。


「あの人の目。綺麗だと思ってはいたけど、あまりこの辺りじゃ見ない目だなって」


「目? あー、綺麗だよねー」


「うん。あんな綺麗な目、本当に見たことないよ。それこそ……なんであんなに目立つ美しさを持ったソロの冒険者が、勧誘相手の噂にすらなってないのか分からないほどに、ね。この辺りに、あの金色の目を持つような人、いたかなって……」


 ……やっぱりジャネット、私のボケっぷりとは全然違ってものすっごく沢山のことを考えてくれている。

 さすが私の大親友、とっても頼りになるよ。


「ケイティさんの謎は置いておいて、私達もそろそろ着替えよう」


「そうだね」


 私とジャネットは、着替えて部屋で会話をした。

 久々に遠慮なくお喋りをして、いろいろとお互いが覚えた魔法の情報交換も交えて。


 途中からお風呂上がりのケイティさんが参加して、私達の会話に入ってきた。

 ケイティさんも一気にレベルが上がったからか、頼もしい魔法を覚えていた。

 ジャネットとケイティさんが魔道士として攻撃魔法の情報交換をして、お互いに使用感などを言い合っている。

 ……そうだ、以前言われたことがあったんだ。


「私、プロテクションとマジックコーティング、ついに使えるようになりました」


「まあ! それは素晴らしいですわ〜! これで、もっと活躍できる秘策もあるんです!」


「そうなんですか? それは楽しみですね」


「ええ、ええ! これからが【聖騎士】エミーさんの本領発揮ですねっ!」


 ……うん、やっぱり考えすぎはよくないのかもね。

 ケイティさんが不思議ちゃん系なのは今に始まったことじゃないし……うんうん、大丈夫、大丈夫。

 この人そのものに、悪意はないのだ。


 まだまだ朝は長い。

 私達はヴィンスが起きてくるまで、のんびり三人で女子らしい会話を楽しんだ。




 それから、えーっと曙だっけ? その辺りを過ぎた頃に宿の周りも賑やかになってきて、みんなで朝食。

 あんまり避けても変なので、今日はヴィンスと隣同士で座って、黙々と食べる。

 ヴィンスはこっちを見たけど、軽く朝の挨拶をして後は無視。


「……お二人、会話はあまりしない方ですか?」


「ん? ああ……まあ、慣れてるからな」


「慣れてる、ですか。ふふ、そういう熟年の関係もいいですね」


 ヴィンスがケイティさんと会話している。なんか変な勘違いを添えて。

 とか思ってたら、ケイティさんはヴィンスではなくて、じーっと私の方を見ているのだ。


「……あの?」


「いえいえ。会話に入ってきたいなーとか、思ったりしません?」


「特にそんなことは……まあいつも一緒ですし」


「いつも一緒!」


 その言葉の何が嬉しいのか、ケイティさんはまたニコニコしながら私とヴィンスを見ていた。

 ……やっぱり不思議ちゃんだなあ、ケイティさん。よくわかんないや。




 食後は部屋に戻って、今日もダンジョンに潜るかどうかという話になった。

 ケイティさんは、ドラゴンの鎧を欲しがっていたから無理するかなと思ってたんだけど、あっさり休みを決定した。


「疲れは蓄積します。必ず休むようにしましょうね」


「んー、ケイティは経験豊富っぽいし、そういうことなら構わないぜ。俺も連戦は久々だったからな」


 ケイティさんの判断は信頼できるし、ヴィンスも経験者としてその意見を尊重しているようだった。まあそうでなくてもヴィンスがケイティさんの判断を否定するとは思えないけど。

 そのヴィンスは、今日一日は街に出ていろいろ見て回ると言っていた。……遊ぶだけかもしれないけど、お金は無駄にしないでよね?


 用意も終わったヴィンスは、出る前に「ついてくるか?」と聞いてきたので、私は……もちろん拒否。


 細かい言動の節々、それらが全て蓄積した結果。

 私はさすがに、ヴィンスの考えを察知してしまっていた。それに、女の子は男の視線に敏感なのだ、これは頭がいい悪いとか関係なく。

 今は、ラセルを追い出したヴィンスの顔を、どう見ればいいかわからない。


 正直、あまりいい感情はない。




 結局ヴィンスが出るのを適当に見送り、再びベッドのある部屋になんとなく戻ったところで、中にはケイティさんが一人座っていた。


「ケイティさん、ジャネットは?」


「声を掛けたんですが、用事があるとかで今は外に出てるようです。……あっ! ちょうどいいのでエミーさんにお話があります。どうですか?」


 私はその問いに、特に何も深く考えずに答えた。

 そして、心構えをすることなく頷いた自分に後悔することとなる。

 ……こんなんだから、私はダメなんだ。


 ケイティさんの話す内容は……私の運命を左右する情報。


「これから、勇者パーティーとして役に立つ最強の防御魔法プロテクションを、最大限に活用できる秘密をお教えします!」


「秘密、ですか?」


「ええ! きっとエミーさんなら使いこなせるはずです! 昨日は試してみて駄目だったんですけど、今朝のエミーさんを見たら大丈夫だと思いましたっ!」


 そして私は、嬉しそうにテンションを上げるケイティさんから、全ての真実を聞かされる。


 それは、どんなに私の頭の中がバカだったとしても、私が今までしてきた全てのことを理解するのに、十分すぎる内容だった。


 私は、全てを理解したのだ。

 自分の、業を。






 最強の防御力を持つ【聖騎士】という職業ジョブ

 勇者パーティーの、守りの要。


 その精神こころを壊すには——。








「【聖騎士】には特殊なスキルがあってですね。発動すると盾が光って、どんな強い相手も凄い力で弾き飛ばしてしまう、強力な技があるんですっ! 発動条件は、なんと好きな相手のことを意識した瞬間! きゃっ! 愛の力、ですね〜っ!」








 ——善意一つで十分。

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