何故かいるヤツを含めての慰労会
あの『赤い救済の会』の部屋に関して、隅々まで調べ尽くした後は、情報をまとめてシビラがシャーロットに報告したようだ。
合流したマーデリンとも情報共有した。
向こうも赤い救済の会の話を聞いた後はちょっと気分を悪くしていたようだ。
……ケイティの件に関して、一番トラウマが重いのは間違いなくマーデリンだろうからな。
マーデリンは、手短に皆無事だったことを報告し、早めに眠りに就いた。
そうだな……もう皆疲れただろう。
疲れたとはいえ、まだまだやることはある。英気を養っておかなければなるまい。
俺達は時間を取って休息し、慰労会を行った。
――よりによって、昼間からシビラが酒場を指名してしまったがな!
「イエーイ! 乾杯!」
「飲むのはお前だけだろ……うわっ、ヴィクトリア飲むの早!?」
「っふぅ~! ラセル君も、いずれブレンダとも一緒に吞みましょう!」
豪快な飲み方で予約された。そういえばこの人、意外とこういう一面あったな。
やれやれ……ま、来た時よりかなり晴れやかな顔になって良かったよ。
マーデリン側の話はあまり聞いていなかったので、この機会に聞いた。
教会の部隊が動いたことと、マーデリンが『不可視』と組んで撃退したこと。
その他、レティシアとジェロームの話に女子一同は思いっきり食いついた。
そういや、戦力確保のためにレティシアは治していたな。案の定目も治っていたようだ。
満を持しての治療も、無論シビラと相談した上ではあるんだよな。
「ラセルさんのお陰ですよ!」
「んなわけあるか、勝手にくっついてただろ」
元が美人なのは聞いていた通りだったし、片眼が無かったぐらいでジェロームが拒否することはなかっただろう。
収まるところに収まった、そんなもんだ。
とはいえ、ヴィクトリアは旧友に訪れた春に、特に嬉しさが抑えきれない様子だ。
年の離れたブレンダの友達ができるかもな?
「カラス男子は普段ふてぶてしいのに、あんまり感謝は受け取らないわよねー」
「お前じゃねーんだよ、つーかその二つ繋がらないだろうが」
「アタシの力を受け取ったんだから、アタシのことをちゃんと見習ってドヤ顔の練習をするべきよ! あんたもそう思うわよね」
「もっちろん! ラブロマンス成立を手助けできる存在は、全ての冒険譚において最も尊いからね! 聖者最高! イエーイ!」
「イエーイ!」
そう叫んだ直後に、ビールのグラスを打ち合わせる音が鳴った。
……。
ちょっと待て。
「こんなことなら、もっと【聖者】の素養を探すの頑張っておきたかったなあ」
「いや何しれっと来てるんだよ!?」
ツッコミを入れるも、驚いているのは俺だけではないっつーかシビラ以外は驚いている。
ここに絶対いるはずのないヤツが、当たり前のように椅子に座っていた。
「えっ、わっ! シャーロットさんだ! コイバナしに来ましたか!?」
「コイバナしに来ました! あれは、もう、最高だったぁ~!」
ノリノリで、本来この世界で一番偉い人が飲み会に交ざっていた。
つーか今のタイミングでその声のかけ方できるエミーはマジですげえよ、豪胆スキルにレベルがついてたら百超え間違いねえよ。
シャーロットもその通りに乗っかるし。
「何しに来たんだ、王国の運営はそんなに暇なのか?」
「いえいえ、昨日の夜のうちに今日の分を終わらせてきたのです!」
自信満々に言い切るが、本当だろうな?
まああの読破スピードを目の前で見ると、政務の心配はしていないが……。
「ええと、コイバナの前に……今回は、教会と、ケイティと、孤児院についてです」
俺達はその言葉を聞いて、おちゃらけていた雰囲気をすぐに収めた。
シャーロットが俺達に、わざわざ帝国の地でその単語を出したこと。
その理由が分からないわけではない。
「いいお知らせと悪いお知らせは……悪い方からっていいますね。教会の最上階にあったあの部屋ですが、文面通り間違いなく『魔峡谷』を作った『赤い救済の会』の派生であり、マデーラにあった総本山と並び立つほどの異様な信仰の力を感じる空間でした」
「そういうのも分かるのか?」
「信仰を受け取っている身ですから。シビラも羽が濃くなったりしたでしょう?」
そういやシビラって、最初は本当に薄ら見える程度の羽だったんだよな。
俺と関わり、様々な人物にその身を明かし、今は以前より濃い羽が現れる。
だから、あの赤い部屋でシビラもすぐに『魔峡谷』を作った場所だと断言したわけだ。
「あんな人達でも、名目上は『教皇』と『枢機卿』でしたから。そんな人達が『赤い髪の勇者』によって『赤い救済の会』つまり『赤き魔神』を本気で信仰したのです」
それは……確かに、信仰というものに濃度があるとすれば、凄まじく濃いものだろうな。
「地底側からダンジョンを開けようとした力と、人間側からダンジョンを開けようとした力が重なって、あれほど巨大な大地の切り傷『魔峡谷』となったのでしょう」
両側からダンジョンの入口を同時に開けようとしたってわけか。
「ただ、『魔峡谷』は、考えようによっては弱点とも取れます」
「弱点? あの巨大な攻撃拠点が?」
「以前、セイリスで三つの頭部を持った魔王の話を聞きました。複数のダンジョンを作った魔王ですが、それでも三体分の魔王の能力に思います」
それは分かる。
ダンジョンも変化球だったが、三体分の力と考えると大体それぐらいだ。
そう考えると、あの『魔峡谷』の規模は、どう考えても魔王一人二人のそれではない。
魔神が直接来ている可能性は高い。
「ウルドリズが顕現した残滓が、地上に楔を打った。それを基に『魔峡谷』が現れたのなら、魔神が本体を晒す羽目になったとも言えるのです」
「『魔神』を直接叩きに行くチャンスってわけか」
「はい。……『赤』以外の、『青』と『紫』と『白』の全員が来ていると都合がいい」
シャーロットが出した言葉に、俺達は息を吞む。
あの『赤き魔神ウルドリズ』以外に、あんなのがまだ三体いるのか……!
「『白き魔神ガルヴァイザ』以外も、厄介そうだな」
「……! プリシラの話を覚えていましたか。女神を精神操作した魔法の作り主を」
ケイティやヴィンスに関わる話の核だからな。
確か、魔王がガルヴァイザから預かった魔法をプリシラに撃ち、キャスリーンが庇ったことによりその影響を受けた。
それは相手にとって想定外のことだったらしい。
「恐らくケイティにとってヴィンスさんの役目は終わっています。元々プリシラを狙っていた理由は、私に闇魔法を使うことだったのは予想できますから。光魔法は効かないですからね」
シビラに闇魔法が効かないのと同じ理屈か。それなら確かに勇者じゃダメだな。
「それでもヴィンスを解放しないということは」
「気に入っているだけでないのなら……ラセルさんと引き換えにするつもりでしょう」
あの不安定なケイティなら、ヴィンスを個人的に置いておきたいという理由もあるだろうが……俺を洗脳するための罠として、ということなら十分に有り得るだろう。
決着の日は近いかもな。






