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帝国での魔峡谷三回目の襲撃

 三度目となる、魔峡谷の大規模襲撃。

 俺達は西門に集まると、既にそこには相当な人数が集まっていた。


「……お、おぉ? もしかして先日のお客さんか?」


 そこには、ちょうど闘技会のディアナ戦と、ディアナを見送った日にいた男がいた。


「剣闘士ゴライア、あんたも来ていたのか」


「おう、術士のお仲間さんか」


「その日にこっちの討伐にも来ていたからな」


 やはり闘技会の剣闘士は、こういう時にも最前線に駆り出されるらしい。

 討伐隊の隊列も相変わらずで、剣闘士ではない者は後ろの安全圏にいる形だ。


 立場としては俺達もそっちで構わないんだが、そんな安全圏で遊んでいるほどの気にはならないな。

 ただ、攻撃手段の乏しいマーデリンは後ろに下がってもらっており、イヴとヴィクトリアは彼女を守る形で後ろにいる。


「魔物の発生の鐘を鳴らす係は責任重大だね」


 ジャネットが、壁面近くにある大きな塔を見上げる。

 小さな窓から女が顔を出しており、魔峡谷の北側をじっと見ていた。


「もしかして」


「そう、術士だろう。僕と同じで索敵魔法(サーチフロア)を使いつつ目視している」


 ジャネットも、北の方を見つつ杖を構えた。


「あっちに魔物がいるのか」


「ちょっと違う。この魔法は感覚的なものだからうまく表現はできないのだけど、今日は全体的に魔物がやってきている。ただし」


 ジャネットが言い終える前に、深い谷の中から大きな刃物の先が現れる。

 山登りのように、その大きなナイフを地面に突き立てた。


「ボスが、あっちにいる」


 そう言うと同時に、ジャネットは魔法を自分のすぐ下に放った。


「でも、こっちも多い。手は抜かないつもりだけど、あまり多重の詠唱は見せびらかしたくはない」


 着弾した炎の魔法が三体ほどの魔物を一気に焼いたと同時に、その後ろ側から更に五体の魔物の影が見える。

 多い――!


「固まって戦うぞ、《ウィンドバリア》!」


 俺の合図とともに、シビラとエミーがすぐ隣に来た。

 次の瞬間、地面から何者かが飛び跳ねて、俺の目の前に現れる!


「こいつら、虫か!」


 咄嗟に出した俺の剣に刺さっていたのは、カマキリを大型にしたような魔物だった。

 背丈が俺の肩ほどある。極端に大きいわけではないが、数が多い。

 何よりこのサイズの昆虫というのは、さすがに嫌な感じだな……!


「チッ、キラーマンティスとは厄介なのを持ってきたわね。《ファイアジャベリン》!」


 シビラが魔物を確認し、周りの剣闘士達へ通達する。


「あんた達! こいつは関節狙わないと刃は通らないわよ! 武器が短いヤツは下がった方がいいわ!」


 その指示の声を聞き、何人かはフォーメーションを変えた。

 いくつか武器の予備があるようで、それを取りに行った形だな。


「わあああ苦手っ! ジャネットは大丈夫!?」


「正直苦手だけど、近づかなくていい職業ジョブなので」


「わーん!」


 エミーは顔を背けながらも、大剣の先で叩き付けるように魔物を倒していく。

 虫とか苦手だったもんな……よく頑張ってると思う。偉いぞ。


 魔法にはそこまで強くないようで、シビラの魔法でも簡単に燃え上がり、倒した魔物は急斜面の谷底へ次々に落下していく。

 とはいえ、シビラも【魔道士】としては今や相当にレベルが高い方だからな。


 剣闘士は、その名の通り剣で観客を沸かせるのが目的。

 魔道士系の職業は、前衛にはいない。


 さてどうなるかと思っていた、その時だった。


『構え――掃射!』


 あの指示が、前線へと広がる。

 俺達がすぐに後ろに下がると、人物の合間を縫って炎の魔法が魔物達を焼いていった。

 相も変わらずこっちにはお構いなしに来るし、遠慮がないな……!


 とはいえ、あまりに魔物の数が多くて文句も言ってられない。

 何でもいいから数を減らしてくれ。


「――うわああああああああ!」


 右側より急に、大きな悲鳴が聞こえて振り返る。

 谷からの霧のようなもので見えにくくなっているが、遠目にも分かるその巨体。

 ジャネットの言っていた、今回のフロアボスだ。


「う、嘘だろ……!」


「何だよあれ……」


 近くの剣闘士達が、魔物の対応をしながらも視界に入ったものに絶望の声を上げる。

 大人二人分を超えるほどの、凶悪な見た目のカマキリ。

 腕の鎌は鋭い刃物のようで、大きさも大剣サイズ。

 あれが振り下ろされれば、普通の人間では切り傷では済まないだろう。


 あれの相手は、俺達がするしかないな……!


 パーティー全員で、少しずつそちらへと移動していく。

 途中他の剣闘士と入れ替わったが、さすがにあの相手を術士なしで倒すのは無謀に等しいだろう。


 ジャネットとシビラが常に谷川のザコを蹴散らしつつも、フロアボスへと狙いを定める。

 視界に映っていた巨体が、攻撃を避けるようにぐっと低くなった。


「あっ、やばいかも」


 その動きにエミーが嫌な予感を感じ取ったと同時に、もう一度討伐隊へ指示が出た。


『ボスを狙え! 掃射!』


 魔道具の大音声は先ほどより焦りがあり、それに呼応するかのように後ろの討伐隊から一斉に魔法が放たれた。


 着弾する寸前――魔物はなんと、はるか上空へと跳ね上がってしまった。


「やっぱり~!」


 エミーが近くに飛んできたカマキリを、フルスイングで谷底まで叩き飛ばしながら叫ぶ。


「飛びそうって思ったんだよ~、虫って小さくてもすっごく飛ぶからなあ」


「まずいな、追うぞ!」


「うん!」


 俺達は近くの魔物を最低限蹴散らしつつも、街中へと入っていった巨体を追いかけることにした。

 谷の魔物も気になるが、あのボスは嫌な予感がする。


「やっばいわね、あのフロアボスは武器の殺意高すぎよ。アタシらじゃないと住人が即死しかねない」


「全くだな……!」


 ドラゴンやギガントとは、違うタイプのダメージだ。

 一回の攻撃で、取り返しの付かない事態になりかねない。


「……先入観があった、知識が仇になったかも」


 ジャネットが焦燥感を漂わせて呟く。


「カマキリは腕が発達していて鎌を持ち、羽で飛ぶ。一方バッタは、脚が発達しているので跳ねるように跳ぶ。特徴に特化しているという感じなんだ」


「そういうものなのか」


 言われてみると、カマキリが飛び跳ねた記憶はないな。


「だから、あの鎌を見て僕は羽を広げてから撃ち落とそうと思っていたけど……あいつ、その複合なんだ。カマキリの鎌を武器に、バッタの脚で跳ぶ」


 そうか、確かにその認識だと跳ばないと思い込んでしまうだろうな……!

 首が三本ある狼も、その体の中に魔物を飲み込んでいたことも、常識じゃ考えられない。


 だが、あいつらは人間を害する為ならどんな形態にもなって襲ってくる!


「ジャネット、ヤツはどこにいる?」


「一度教会前に降り立って、次は……まさか」


 ジャネットは、北東を見上げながらその行き先を示した。


「北東部。スラムの『不可視』近く……!」


 その行き先を聞き、俺は迷いなく決断した。


「シビラ! イヴ達に『不可視』の家の前で落ち合うと伝えてくれ」


「行くのね!?」


「ああ。《シャドウステップ》!」


 俺は移動の魔法で屋根まで上ると、最短距離でフロアボスを追いかけた。

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