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思わぬ協力者を得る

 帝国の教会、その誰もいない地下の図書室。

 俺達のパーティーを除けば、ヘルマンしかいない場でこの人物は更に言葉を重ねた。


「シビラ殿。昨日は酔っ払って勢いで言ったのではないかと思っていたのですが……ふと思ったのです。本当に、この教会を引っ繰り返すつもりなんじゃないかと」


 目の前の人物、かなりとんでもないことを言っているんじゃないか。

 少なくとも、ある程度の地位がある人間が言っていいことではないだろう。


「何か狙いがあるわけ? 利がないと動かないわよね」


 シビラが腕を組んで、挑発的に肉食獣の笑みを浮かべる。

 一方ヘルマンも、全く引かずにその視線を受けて頷く。


「もちろんです。そうですね……理由は、私の立場が『枢機卿』であるからでしょう」


 枢機卿。

 それは教会の頂点である『教皇』を支える、権力の頂点に近しい存在だ。


「今の教会は、利己的になりすぎている。そう思った私は、今の方針を変更できないかと思ったのです。ですが、教皇の権力はあまりに強い」


 ヘルマンは、閉め切った図書室によく通る声で驚く発言を忌憚なく言った。

 そうか、教会内部にもこういう考えを持つ者がいるのか。


「私以外にも、賛同者はいるのです。このままでは先細りするだろうと。ですので――」

「あんたは次期教皇の座を狙ってるってわけだ。人畜無害そうな顔して、いい性格してるわね」


 相手の立場が判明しようと相変わらずのシビラだが、人のことは言えないな。


 それにしても、協力者か。

 ここに来て、随分と事態が一気に動いたものだ。


「あまり大っぴらには言えませんが……万が一にでも漏れたらお互い一大事ですので、くれぐれも外に話さないように」


「いいわよ。アタシ達も協力者を探していたところだもの」


 そう言って、シビラは手を差し出した。

 ヘルマンはその手を見ると、すぐに手を取り両手で握手を交わした。


「協力者は?」


「枢機卿が全員で七名。そのうち私を含む四名に既に話を通しています。『帝国太陽教』では、反対者が過半数を超えれば教皇といえど従うこととなります。以前は独断専行した者がいたため、結果的に失敗に終わりました。今回は入念に後ろを固めます」


 ヘルマン枢機卿は、自信を持ってそう言い切った。


 ――『帝国太陽教』か。

 わざわざ王国で、太陽の女神教を『王国太陽教』と呼ぶことはない。不自然だからな。

 そう考えると、やはり王国とは独立した教会と自認しているのだろう。


 ふと気が付くと、イヴやマーデリン、ヴィクトリア達も近くに来て話を聞いていた。

 そういや俺達以外誰も居ないんだから、話をしていたら当然聞こえるもんな。


 その中でも、ヴィクトリアはヘルマンの顔をじっくりと見ていた。

 何か思うことがあるのだろうか。


「他の枢機卿のメンバーを紹介できる?」


「いえ、それぞれ別の仕事をしていますし、万が一にも漏れたらまずいので後日私が」


「他の人はお仕事中なのね! じゃあ自由なヘルマン枢機卿サマは、今日も優雅にアタシ達と酒盛りしちゃう? みんなが仕事している中で呑むビールは格別よ」


「ハハハ、さすがに今夜は私も仕事がありますよ」


 軽く笑うと、ヘルマンは再びジャネットに振り返った。


「賢者殿、ひとつ質問をしてもいいでしょうか」


「はい、何でもどうぞ」


「何故この棚の本を求めたのですか? ここにある本は、私が言うのも何ですが、あまり面白そうなものに見えませんし、向いているとも思いません」


 そう言われて、改めて本の種類を見る。

 剣士、剣闘士、錬金術、気候、武具。

 確かにあまり【賢者】のジャネットが必要とする物はなさそうだ。


「何か、元々……こういう系統の本を読んだことがある、とか」


「……いいえ、特には。とはいえ剣士の感覚の話も、意識や受け取る感覚が僕と同じかなど分かりませんし、読めば面白そうですよ」


「……。そうですか、勤勉で知識欲旺盛な賢者様でしたね。失礼いたしました」


 ヘルマンは話を切り上げると、今度はシビラから俺の方に顔を向ける。


「リーダー殿も、それで問題ありませんか?」


「ああ。こちらとしても協力者がいる方が有り難い」


 俺もヘルマンの手を取り、握手をした。

 少し手が強めに握られ、男の皺が刻み込まれた目が俺を真っ直ぐと射貫く。

 こちらも目を逸らさず、相手の目を見る。


「……強い目だ。何事にも折れずに来た、剣士の目」


「剣士か。なかなか言われたことのない評価だ、悪くないな」


 なんつーか、聖者と言われるよりも今の俺らしいように思う。

 別に聖者扱いが嫌というわけではないんだが、今ひとつ自分が『聖者らしい』という評価を貰うことに慣れないんだよな。

 自分で言うのも何だが、相当にスれている自信がある。


 ――とか思っているだろうなということを、全部含めて完璧に想像しているであろうシビラが、こちらに両手の指を差しながらニヤニヤ笑う。


 お前ヘルマンから見えない位置だからって遊んでんじゃねーぞ、後で叩く。


「是非とも、その自信を持ち続けて皆を引っ張っていただきたい」


「無論だ」


 そう言葉を交わし、図書室を後にした。

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