帝都の新しい店と、意外な客人
おすすめの肉料理を食べながら、ジャネットが話した内容を再び考える。
帝国の組織『不可視』と、アドリア孤児院の地下室が、同じ人物の手によるもの。
いくら何でも、共通点が地下室というぐらいしかないように思ったのだが。
『魔法で作ったことは、ジェマさんの話から予想はついてると思う』
それは確実だろうな。
さすがに僅かに泊めたうちにあの地下図書室を作り上げるのは、人力では不可能だ。
一方、『不可視』のアジトも魔法で作ったのなら納得がいく。
ちょっと掘って作った、にしてはあまりに規模が大きい。
天井窓の数の多さも異常だ。
あんなもの悠長に作っていたら、他の住人にバレバレで隠れアジトの意味が全くないだろう。
だが、あの規模のものを自然に地上と繋ぐ形で作り上げてみせた。
一見不可能なその建築も、短期間のうちに、魔法で作ったのなら説明がつく。
では、何故王国の孤児院に同じ物を作りに来た?
図書室と、闇ギルドの本拠地。その関連性は何だ?
そもそも……だとすると、作者は何者だ?
「やれやれ、考えないといけないことが増えたな」
一つが解明すれば、複数の疑問が出る……と言わんばかりに謎が増える現状に、頭を痛める。
「あら、吞みすぎ? お酒は程々にねー」
「吞める年齢じゃねーの分かってんだろうが。お前は気楽そうでいいな」
「お酒を飲んでいる時は、特に何も考えてないわ! それが幸せのコツよ!」
本当に、こいつと一緒にいると悩んでいるのが馬鹿らしくなるな。
いっそのこと俺も馬鹿になるか。
いや、こいつと同じレベルに落ちると想像するだけで相当に屈辱的だな。
「次はどうしたものか」
「また観光再開としゃれこみましょ!」
「マジで気楽そのものだな!?」
けらけら笑いながら、異様に太いソーセージにかぶりつくシビラ。
ビールを一気に流し込みながら、「ッカァ~~~! 人生!」と叫ぶその姿、もうナントカ女神みたいな名前をつけてやる気力もねえ。
「ま、考えすぎってのもよくないわよ。それにただでさえ眉間の皺魔峡谷系男子なんだから、こういう時にしっかり楽しまないといざという時に力が出せないわよ」
それっぽい事を言いながら、追加のビールを頼んでいく酒の女神もとい宵闇の女神。
その名を体現する酒盛り日和の薄青い空に追加のビールを掲げ、満面の笑みでナッツを摘まんでいく。
やれやれ……仕方ない。
ケイティの手がかりを得るのが、相手の能力の関係上極度に難しいのだ。
確かに緊張したままで疲労したところにトラブルが舞い込んできても困るな。
「エミー、美味いか?」
「ここ美味しいよぉ~! すっごいね、無限に楽しめる!」
エミーは一人、色とりどりの小皿を並べて黙々と食べていた。
積み上がった巨大ソーセージを小皿の半固形のソースにつけ、次から次へと口に頬張っていく。
実に幸せそうで、思わずこちらもつられて笑ってしまうな。
「なるほど、アボカドクリームと、スイートチリソース……見たことがありませんね」
「ふふっ、私も初めて。きっと最近のものね」
俺に疑問を投げかけておいて、議論の途中で店に着いたため話を切り上げたジャネット。
知識と考察の我らが賢者は、現在この店の新作ソースの知識に集中していた。
分からないことは、今考えても仕方ないといったところか。
俺も食べるとしよう。
「……確かに美味いな」
この店には、大きな肉詰めのソーセージを基本として、中に爽やかなハーブを練り込んだソーセージから、淡泊な鶏肉のステーキなど多種多様な大型の肉類が用意されている。
それら比較的薄味の肉類に対し、尋常ではないほどの味付けソースがあるのだ。
この組み合わせ次第で、エミーの言った通りまさに無限に味が楽しめるようになっている。
ま、ソースが立派なだけあって別料金なんだがな。
金銭に困っているわけじゃないから、遠慮なく注文させてもらった。
どんなに注文しても、エミーが消化してくれるだろう。
ぼんやり食べていると、後ろから声がかかる。
「おや、あなたは確か……」
振り返ると、薄い金髪の男が立っていた。
「確か、ヘルマンといったか。偶然だな」
「ええ。皆さんお揃いのようで」
そこにいたのは、帝国城の中で俺達と会話したヘルマンだった。
「同僚が話題にしていたのでやって来たのですが、知り合いがいないもので……ご一緒しても?」
俺達は互いに顔を見合わせる。
今は特に秘密の話をしているわけじゃないし、断る理由はないな。
「ああ、大丈夫だ」
「良かった。それでは」
ヘルマンは、手招きするシビラの隣に座ることとなった。
思わぬ客人がやってきたな。






