隠された闇組織の本拠地へ
小さな民家に突如現れた、地下室への階段。
その大きな階段を降りていくと、目の前に現れたのはとても広く、明るい室内だった。
「これは……驚いたな」
地下に降りた俺達を待ち受けていたのは、地上にあった家とは全く雰囲気の違う、とても綺麗な部屋。
広い部屋には家具が沢山あり、住人が何人かいることが確認できる。
この光景は、全く想像していなかった。
とはいえ、皆から注目を集めているので居心地がいいわけではないが……。
「こっちだ」
男が俺達の人数を確認すると天井を閉め、広い廊下を進む。
……本当に広いな。王都のギルドとまではいかなくとも、規模感は遜色がない。
俺が思っていたよりも大きい組織のようだ。
廊下を突き当たりまで歩き、更に右奥。
地下の一番奥に着いたあたりで、男は扉をノックした。
「はい」
「ジェロームです。例の団体を連れてきました」
「分かった、通して」
その言葉とともに男が扉を開き、中に入る。
シビラが振り向き、ヴィクトリアと視線を交わす。
数度話した後、彼女は最後に入ることになったらしい。
「ね、ラセル」
ふと、エミーが部屋に入る寸前に声をかけた。
「念のためだけど……」
それから耳元でひそひそ声で俺に言葉を伝える。
その内容に驚きながらジャネットの方に視線を向けると、彼女も小さく頷いた。
……やれやれ、厄介なことにならなければいいが。
部屋に入って最初に感じたのは、その広さだ。
大きな部屋だろうなとは思っていたが、正直一人の部屋にするにはあまりにも広い。俺達七人が余裕で入るからな。
それこそ、王都セントゴダートのギルドマスターであるエマの部屋ぐらいはある。
目的の人物は、部屋の奥にある大きなテーブルを挟んで、両手に持っていた紙を置いた。
マジでやってること含めてギルドマスターっぽいな。
椅子に座った女性が、こちらに視線を向ける。
髪の隙間から赤い瞳が見え隠れする。想像よりもかなり柔和な美人といった印象だ。
だが、避けては通れない特徴がある。
それは、片眼に大きな眼帯を付けていることだ。
その眼帯の無骨さが、彼女の印象を大きく変えているのは言うまでもないだろう。
事前の話から察するに、彼女がレティシアだな。
また、左右に二人ずつ、計四人が控えている。
「あなたたちが来客ね」
女の声が静かに部屋に響いた。
同時に、部屋全体にピリッとした緊張感が漂う。
全員が付けている、あの特徴的な印のついたナイフの柄に手を置いているのだ。
その空気を、目の前の女が軽く手を挙げて止めた。
「悪いわね、みんな気が立ってるの。大人数の新規客だから念には念を入れて警戒しているのよ」
その言葉を証明するように、後ろにも何人か待機している。
エミーの言った通りだったな。
「……んあ? 何だコレ」
後ろの男が、空中で手を伸ばして止める。
「悪いな、警戒しているのはこちらも同じだ。防御魔法を張らせてもらっている」
エミーが事前に言っていたのは、地下の人間が俺達を追ってきているということだった。
ジャネットも索敵魔法でそれを察知していたのだろう。
俺の言葉に再び緊張が走るが、すぐに眼帯の女は手を叩いた。
「緊張しないで。お互い様なんだし……それに、抜け目がない相手の方が話しやすい。馬鹿なヤツほど無茶な依頼出してくるから」
軽口のつもりか、周りの者たちも少し笑って緊張を解いた。
……彼等は見るからに腕の立つ者達に感じるが、それでも一定以上の信頼をレティシアに置いているようだな。
「用件の前に、自己紹介をしてもらえる?」
シビラの方を見ると、「言っていいわよ」と返ってきた。
隠す必要はないと判断したか。
「『宵闇の誓約』というパーティーだ。セントゴダートから来た」
「王国からの客? それは確かに見たことないわけね。貴方がリーダーなのかしら」
「一応そういうことになっている」
レティシアはその片眼を細めて、揶揄い気味に話しかける。
「いいじゃない、女の子を守る術士の王子様というのも」
「やめてくれ、さっきも言ったがこれでも実力者を集めただけなんだ」
まあ異様なパーティーではあるよな。
邪推されてもおかしくはない。
しかし、レティシアの反応は意外だった。
「信じる。だってあなたの隣の子、さっきから隙がなさすぎて怖いわ。うちの連中はまだまだのが多いし、数を減らしたくないもの」
その言葉に、周りで控えていた『不可視』のメンバーは動揺する。
レティシアの視線の先にいたのは、どうやらエミーのようだ。
彼女は、エミーの実力を認識して警戒しているらしい。
「でも、さすがに怖いわね。ちょっと緩めてもらえる?」
「エミー、緊張しているのか?」
「……そりゃあ緊張するよぉ。知らない人ばっかりだし」
そうだな、エミーはあまり知らない人と積極的に話すタイプでもないし、まして向こうがこちらを警戒しているんだ。
それに……きっと俺に危害が加わる可能性がある場面だから、余計に緊張しているのだろう。
有り難い限りだが、このままではお互いやりにくいな。
「こちらとしちゃ、平和的に話し合いをしたいんだが……つーかシビラ、そもそも用件自体まだ聞いてないぞ」
「あら、じゃあ何が用件か当ててみなさい?」
「クイズ好きもいい加減にしろ、そんな余裕こいてる場合かよ」
こんな場面でもやはりシビラはシビラらしく、けらけら笑うと俺の前に出た。
「ま、とりあえずはお互いに信頼し合って、周りの連中にはお引き取りいただくというのがいいわよね」
今の台詞で、余計に緊張感が増したぞ。
大丈夫だろうなマジで……。
「知らない相手を、いきなり信頼なんてできないわ。それどころかお金の信用は無論のこと、長い付き合いの経験だって、いつ裏切るかも分からない」
「それ、経験則かしら。目もその時に?」
「――。……あなた私の信頼勝ち取る気あるの?」
今度は周りの連中以上に、レティシアが警戒心を高める。
あまり遠慮なく触れてほしくない部分なのだろう。
こちらの肌に緊張が伝わってきたことで分かるが……レティシアは相当に強いな。
とはいえ、もちろんこの程度でビビるシビラではない。
「それじゃあ、その信頼が『命を助けた』とか『罪を見逃した』ならどう?」
「ますます初対面では有り得ないわ。あなたのこと、本当に知らないもの。……私の味方になってくれる人なんて、帝国じゃいないわ」
「そうよね。アタシもあんたとは初対面よ。でもね――」
味方になった人はいた。
そう言ってシビラは俺の後ろ側にいる人物に合図を送った。
俺の視線の隅から、紫色の髪が正面に躍り出る。
「……ッ! ま、まさか……!」
「もう忘れちゃってるかなって思ったけど、すぐに思い出してくれて嬉しいわ。久しぶりね、レティ」
「ヴィッキー!」
それまでの雰囲気を吹き飛ばすように、レティシアは立ち上がりこちらに駆け寄った。
思った以上の反応の良さに、『不可視』のメンバーはもちろん俺も驚く。
何はともあれ……これでようやく話ができそうだな。






