表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

312/350

『不可視』との接触

 どうやら、ようやく目的の組織と接触ができたようだな。


「帝国民ではなさそうだが。偶然来た……とは思えない」


 黒い服の男は、俺達を値踏みするように青い瞳で一人一人を確認した。


「男一人、後は女か?」


「偶然だからな。俺から誘ったヤツはマジでいないぞ」


「それはそれで胡散臭いかな」


「まあ、そう思う気持ちは分かるが……」


 とはいえ、本当に実力者だけ集めた結果だからな。

 一人として替えが利かないと言い切れる。それに、どうにも俺以外の男に入って来てほしくないようだし。


「頭は、お前か?」


「一応リーダーだが、用があるのは俺じゃない」


 視線を向けると、シビラが一歩前に出て手を振った。


「ハーイ、帝国の地に世界一の美少女シビラちゃんがやってきたわよ」


 こんな状況と相手だろうと、シビラはいつも通りの挨拶である。


「……」


 当然向こうはそんな軽い返事はしないだろう。面倒に思ったか、それとも呆れたか。


「ちょっとノリ悪いわねー? 愛想良くしてた方が生きやすいわよー」


「何者だ?」


「だから銀河一の美少女、太陽の女神より可愛いシビラちゃんだってば」


「大物なのか大馬鹿者なのか、判断に困るな……」


 違った、大真面目に警戒していた。

 まあ確かに、こいつの発言って客観的に見ればとんでもなく不敬だよな。

 正体を知っていたら、その程度の発言でどうこうされるようなヤツではないことは分かるんだが。


 シビラはそれ以上茶化すのをやめて、本題に入った。


「あんた、『不可視』のメンバーよね」


「その名前を知っているということは、やはり偶然来たわけではないな。厄介事か?」


 組織の印があるナイフの鞘。


 男がその柄に手をかけようとした。


「おっと、やめた方がいいわよー。抜いてしまったらそっちにとっても拙いんじゃない? 騒動が好きな組織じゃないわよね」


 シビラの牽制に、男は無言でナイフの柄に手の平を当てたまま止まった。


「……さすがに、今の瞬間に後ろを警戒されたらな。ハッタリではないようだ」


 目の前の男がナイフを抜こうとした瞬間、俺達も全員が警戒に動いていた。


 ただし、エミーはシビラの前に出つつも左を、ジャネットは右後ろを。

 それぞれ全く違う位置を警戒していたのだ。


 恐らく他にも待機しているメンバーがいるのだろう。


 不意打ちしようにも、それで有利になるのは先手を取れた時のみ。

 最初から位置が割れているのでは、お話にならないからな。


「あ、別に敵対的な話とか全くないし、要望が通らなかったからって変なことはしないわよ。アタシはお客様として来てるの」


「それが本当なら有り難い、あんたとはやりにくそうだ」


「デキる女シビラちゃんは交渉も宇宙一だから困るわねー」


「その名前も偽名か?」


 その言葉に、シビラはニヤリと笑って「本物って言ったら信じる?」と言うのみ。

 男も最早警戒するのが無意味だと言わんばかりに緊張を解いた。

 舌戦を挑むことは諦めたのだろう。


 ぶっちゃけ本名だし、今シビラの頭の中では『その手もあったかー』ぐらいにしか思ってないだろうな……。


「いいだろう、用件は俺が聞き判断する」


 男の言葉に、シビラは一歩前に出た。


「アタシは今、友達の友達みたいな感じの知人を探しているの。今も『不可視』にいると思うんだけど」


「メンバーか……名前や特徴は分かるか?」


「名前はレティシアで――」


 その名前を出した瞬間、表情の乏しい男の目が僅かに開いた。


「レティシア、といったか?」


「ええ。十年前に『不可視』にいたことぐらいしか知らないわ。ちょっと怪我してるけど、宵闇前の空のように綺麗な髪をした、赤い目の女性らしいわよ」


 シビラの説明を聞いた男が、片手を小さく上げる。


 合図を受けて別の男が現れると、「判断を仰いでくる」と言い残し、代わりの男を残して去って行った。


 無言の男とのにらみ合いをする趣味もないので、ヴィクトリアに話を振る。


「どうやらあんたの友人、やはり何らかの関わりがあったらしいな」


「そうね。ということは……レティは子供の頃からここに……」


 ヴィクトリアは、周りの建物を眺めながら呟いた。


 彼女が『大紫の剣士』と呼ばれるようになるまで、かなりの年月がある。

 幼少期に売られたレティシアは、不器用だから売られた。


 その数年後、主は暗殺されることになる。


 当然、暗殺の腕を一朝一夕で身につけたわけではないことは容易に想像がつく。

 二人の関係は数年越しに、一瞬再会したのみ。お互い何を思うか――。


 そこまで思い出していたところで、『不可視』の男が戻ってきた。


「会って話す、と言っている。付いて来い」


 警戒されつつも、どうやら会うことはできそうだ。

 俺達は顔を見合わせると、男の背を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ