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荒れる帝都、露見した悪事

 処刑当日。

 暗い夜の中、外は雨。


 それでも帝都の広場には松明が燃え盛り、中央には木製の台がある。

 この騒動を見ようと、暇そうにしていた者達がわらわらと雨の中集まる。


 ローブ姿の神官が、ディアナを連れて処刑台へと上った。

 囚人は既に枷をつけられた状態で猿轡をしており、話すことができない状態だった。


 上等な神官の服を着た男が、何やら仰々しい羊皮紙を取り出して、読み上げる。


「死刑囚、ディアナ。この者、『剣闘士』として戦うも、試合は裏で打ち合わせがあり金を簒奪していた。更に、カジノのバウンサーでありながら犯人を取り逃した上に、自らも施設を破壊し回った。その上、暴行や盗難も日常茶飯事。過去、殺人の疑い強し」


 その内容は、あまりに身勝手なものであった。

 目撃情報も、証拠もない。

 ただ、神官の言葉だけが既に断定したことのように紡がれる。


「支払えるもの、身一つ。奴隷紋持ちしこの者に返済は不可能。主はこれまでの罪を、命を持って償うことで全額とする寛大な措置とした」


「最強剣闘士とか言うけど、客に負けたんだってー!?」


「おいおい、試合全部八百長かよ!?」


「でもなんか急じゃない? よくわかんないけど」


 神官の読み上げを聞き、周りからは心ないヤジが飛ぶ。

 内情を知らない相手など、住人にとって関心のないことだった。


 さんざん稼いでいたのは、オーナーだろうが。

 それを自らのプライドで処刑して、口封じをした上で本人を寛大扱い。

 とことんこの教会は腐ってやがる。


 だが、ディアナは呻くのみで何も話すことができない。

 ただでさえあの口元の上、ヤジの量が半端ないのだ。

 あんな状態では声を発していることそのものに気付くこともできないぐらいだろう。


 首が処刑台の上に載り、頑丈な木枠が後ろから嵌められ固定される。

 周りの住人にこうべを垂れるように膝を突いた形となった。


 神官の手が上がる。

 左右の人物が、ギロチンの紐を手にかける。


 次の瞬間――派手な落雷が、カジノを直撃した!


「うわっ! 何だ!?」


「キャーーーッ!」


 近くに落ちた雷の轟音と、目を焼くほどの稲光に、街の住人はパニックになる。

 近くにいた人は逃げ惑い、人がひしめき合っていた広場はパニックとなる。


「――天罰じゃねーの!?」


 その中で、誰かが言葉を発する。

 周りの人達が、その言葉に一斉に振り返る。


「ハッ、あいつら最初から全部不正できるように、カジノの物を加工してやがったのさ。それを誤魔化すために、教会を担ぎ上げてンだよ!」


「どうしたんだ、あんた」


「えっとねー、ルーレット壊したら、磁石? とか出たんだって!」


「それ、私も見ました!」


 ここで、カジノの不正の話題が突如吹き出す。

 その言葉を肯定するように、再びカジノへと雷が落ちた。


「あんなに狙って、落ちるか!?」


「マジで天罰なんじゃ……」


 異常事態は、更に続く。

 落雷が続いたと思ったら、大地が大きく揺れたのだ。

 帝国ではほとんど起こらない天変地異に、人々は悲鳴を上げる。


 更に、これだけでは終わらない。

 突然の突風が広場を襲い、その風がカジノの内部を荒らし回る。

 トランプが派手に空に舞い飛び、ダイスが広場に落ちてくる。


 雨のように落ちてくるダイスに、腕やバッグなどで自分の体を守る住人達。

 ダイスが地面に転がると、パキリと音が響き渡る。


「あーっ! このダイスー、中に金属はいってるー!」


 そのうち、割れたダイスを掲げた一人に、周りの人間が注目をした。


「おい、マジか!」


「こっちも割ってみる。……おいおい、マジだぞ! 六側に偏るようになってんじゃねえか!」


「まさか、大分前に透明のダイスから変更したのって……!」


 噂が広まりだしたところで、再びカジノの天井に稲妻が落ち、皆の注目が集まる。


 再び突風が巻き起こると、今度はルーレットの台も破壊されて広場の近くに落ちてきた。

 異常事態であるが、恐怖以上に興味が人々を惹きつけていた。


 今の話は、本当なのか。知らないままここで引き下がる気はなかった。

 近くの男が一人、台を引っ繰り返す。


「……マジであるぞ、磁石!」


「何だこれ、魔道具? すげえ精密だな」


「ちょっとちょっと、じゃあ当たる場所ってディーラーが選べるってわけ!?」


 噂がいよいよ広まった次の瞬間――雷は、処刑台に落ちた!


「キャアアアアアア!」


「逃げろ! 燃え移るぞ!」


 落雷が直撃し、処刑台は燃え盛る。

 ギロチンの紐は衝撃で落ち、周りの神官達は既に離れている。

 唯一、羊皮紙を持っていた神官は感電し、悲鳴を上げながら自分に必死に回復魔法を使っていた。


 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 騒動は、更に加速する。


「おいおいおい、どうなってんだよこれ!?」


 最後の稲妻は、教会に落ちた。

 いきなり教会を破壊するような派手なものではないが、街路樹の一つを縦に裂き、燃え上がらせる。


「神罰だって絶対……」


「教会、なんかやらかしたんじゃねえの?」


「とりあえずカジノはもうダメだわ。……あ~あ! 勝てそうだと思ったの、全部嘘かよ! これ恨むの俺だけじゃねえぞ~!?」


 人々は、最後にそう呟きながら広場を後にする。

 誰もいない広場に残ったのは、徹底的に破壊し尽くされたカジノと、炭化して首が落ちた死刑囚のみ。


 やがて、雨が静かに炎を消していった――。

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