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調査と考察、渦中の人物

「調査っすか?」


 俺はシビラと相談し、イヴに一つの任務を与えた。

 今までエーベルハルトがどういう経歴を辿ってきたか、それとエーベルハルトが普段何をやっているか、だ。


「任せていいか?」


「っす。むしろ仕事あるんだなって安心したっすよ。戦力的にはマジでおまけもいいとこっすからね」


 いやイヴも十分すぎるぐらい強いけどな。

 とはいえ、彼女の本領は正面衝突ではなく調査だ。


「主にどこで誰と、何をしているかを詳細に記録しておいてほしい」


「ふむふむ、分かったっす」


 イヴは了承すると、携帯食を手に部屋を出た。



 エーベルハルトの情報は、案外すぐに集まった。


「ちょうどタイミングが良かったみたいっすね」


 イヴが持ってきた情報を、皆で共有する。


 まず、エーベルハルトはごく最近になって今の地位になったらしい。


「カジノのオーナーつっても普通は表に出ないんで、いつ代わったかとかはわかんない感じっすね」


「恐らく十年前のはずよ」


 イヴの説明の途中で、ヴィクトリアが口を挟んだ。


「あー、確かにその辺以降みたいっす。ちょっと競技も増えたとかで、あれっすかね、リニューアルってやつ」


 その辺りの話は、イヴ自身がカジノに詳しいわけではないので分からなかったとのこと。

 まあ、そりゃそうか。元を知らなければ、違いは分からないものだ。


「後はまあバニーガールで客の入りが良くなったとか、それを教会は糾弾しないどころか娯楽を正しいことと言ったとか」


「……教会が言ったのか?」


「そうっす。もちろんその情報を知る経緯もあったんすよ」


 イヴは話しながら思い出すように、窓の外を見た。

 目に映るのはカジノ……ではなく、その向こう側。

 比較的近くにある、帝国の教会だ。


「オーナー伯爵さん、がっつり装備したディアナさんを侍らせて、教会に行ったんすよ」


「エーベルハルトが?」


 イヴは頷き、事の詳細を語る。


 エーベルハルトが、ディアナとヘンリーを連れて教会へ向かった。

 ディアナは頭を下げ、ヘンリーを見送る。

 教会戦士が門番として立つ横で、壁に背中を預けて腕を組んで待っていた。


「中に入るのは、二人なんだな」


「そっすね、治療中のところは見せないみたいっす」


「ケチくせえ教会だな……」


 ディアナの活躍を見た限り、結構な稼ぎがあるはずだ。

 その彼女が剣闘士として、また護衛として今の立場になっていることを考えると、エーベルハルトに実質支払っている額は相当なものだろう。


 それでも今まで治っていないと。


「遠目にポーション飲ませてるぐらいで、後はまあエーベルハルトと教会の服ばかり豪華なおじさんの長話っすね」


「そうか。他に分かったことは?」


「特に何もないっす。というより、木の中に隠れて様子を窺ってたんスけど、時々ディアナさんがこっちに視線を向けるんで……」


「それは、苦労をかけたな……」


 恐らくディアナは、誰がいるかは分からなくとも誰かがいると気付いていたはずだ。

 それでもエーベルハルトとヘンリーを待っている以上、持ち場を離れて追いかけるわけにはいかない。

 イヴがこうして逃げ切れたのは、たまたま運がよかったからだな。


「こんなもんでいいっすかね」


「ああ、参考になった」


 一通り話を聞くと、今度はジャネットが身を乗り出してきた。


「イヴ、質問がある」


「うっす、何でもどうぞ」


「教会に行く時以外に、エーベルハルトはディアナを護衛に連れていたか?」


「いえ。むしろ別の女っす。食事の時は、バニーの子が私服に着替えてたっすね。ほら、ディアナさんと一緒にカジノの裏にいた女の人達」


「ふむ」


 ジャネットはその話を聞くと、腕を組んで溜息を吐く。

 今の話で、何が分かったのだろうか。


「あくまで推測だけど――賄賂だ」


 急に飛び出してきた単語に、正面で聞いていたイヴを始めシビラやヴィクトリアも大きく反応する。


 主に金銭によって、自分に便宜を図るようにする行為。

 その意味は単純な報酬とは違い、大体が『悪事のもみ消し』という意味で使われる。


 ジャネットがそう発言する理由とは。


「利点がないんだよ。教会がカジノを推奨して、何になる?」


「……教会の人間も娯楽を楽しみたかった、とか?」


「助祭以上はそれなりに顔が割れているはず。僕が収集した情報からは、彼等がカジノに出入りした話はない」


 ジャネットも調査していたのか。……そういえば、元々情報収集は任せることが多かったな。

 今は吟遊詩人状態で、立ち止まった人と雑談することもあるらしい。

 ……だいぶ口下手解消されてるよな。


「下で働いている人は遊んでるみたいだけど、それ故に『神官のために司祭が体裁の悪くなるギャンブル推奨をするか?』という疑問が生まれる。ならば理由は」


「差し引いてもいいほど教会側にとって見返りがある、ってことか」


「決定的な証拠はないけどね」


 なるほどな……今の話をまとめると、いろいろと厄介そうだ。

 踏み込んだことを聞こうにも、ディアナが弟ヘンリーの治療に心血を注いでいることぐらいは分かる。

 そこに割って入ると、どういうトラブルが起こるか分かったものではない。

 最終的に、ディアナとぶつかる可能性もあるだろう。


「そうだ。ヴィクトリアからは、何かあるか?」


「あら、私?」


「話してもらうって約束しただろ?」


 そう。彼女はこの件に関して、何か隠している。

 俺がエーベルハルトのことを調べようと思ったのも、それが理由だ。


 思えば最初から、様子がおかしかった。

 エーベルハルトに対してというより、カジノとエーベルハルトに関わる全てを気にしているような。


 俺で気付くぐらいなのだ。

 シビラだって当然気付いているし、他の皆も薄々感づいているはず。


 俺達の視線を浴び、それでも飄々としている糸目の剣士は、その雰囲気を崩さないまま答えを示した。


「それはね、私が元々ここで働いていたからなの。だから何もない廊下や部屋が悪趣味になってて、やだなーって思ったの」


 そうか、以前のカジノのことはもちろん、十年前の店員側も知っているのか。

 確かにあの調度品が後から全部増えたとなると、まあ気が滅入るのも分かるが。


「それだけか?」


「……それだけよぉ」


 まだ何か、心の中に鍵が見える。

 ただ……それを開示するつもりはまだないのだろう。


 とはいえ、無理に聞かずともその情報が必要になった時に示してくれるはずだ。

 それぐらいの信頼はある。


「分かった」


 話を切り上げると、カジノへ向かうことに決めた。

 今日は班を分けず、全員で行くことにする。

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