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太陽の女神、その真意に迫る

 騒動から一夜明けて。


『王都の皆、ごきげんよう。女王シャーロットである』


 早朝、王都全体へと竪琴の短い音楽に続いて、セントゴダート女王からの通達が音声で響き渡った。


 名を聞いて驚いたが、『太陽の女神』が直接セントゴダートの女王をしているんだな。

 音声連絡を王都全体に伝える魔道具の技術レベルにも驚かされる。


 連絡事項をまとめると、こうだ。

 死者もなく切り抜けられたこと。

 怪我人の治療は中央街の治療院か王城で行うこと。費用は王都負担らしい。


 一部、強力な魔物によって『守護の魔珠』が破損してしまったこと。

 あのドラゴンのことだな。


 昨日のことを思い出していると……続く言葉に驚いた。


『この魔物を討伐してくださったのは、『宵闇の誓約』というパーティー。先日、黒い魔法を見た人も多いだろう。あれは『闇魔法』という特殊な属性の魔法である』


 女王が、その名を示したまま、闇魔法の存在を明言した。


『そのパーティーには、私の友人であるシビラがいる。彼女には、皆の知らない間に魔王の討伐を担当してもらっていた。皆の平和を守る、陰の立役者だ』


 ちなみに今の俺達は孤児院で朝食中なんだが、シビラときたら「アタシでーすイエーイ!」と主張している。

 こいつはなんというか、どんな状況でも変わらずシビラである。

 周りの子らは「ええー?」と生意気な疑惑の視線。

 っつーかホント打ち解けるのどこに行っても早いな。


 シビラが軽い反応をしているうちも、女王の固い声による放送は続く。


『——夜もまた、人の営みに必要な存在。人間のための、大切な時間。王都に住む人には、闇魔法の魔道士のことを認めていただけると信じている。『太陽の女神』も、日が沈んだ夜を大切に想っている』


 そりゃお前が『太陽の女神』だしな。


 と思ったと同時に、シビラと目が合った。

 実に愉しそうに笑っていた。


 生真面目な方かと思ったが、このしらじらしい放送からして案外似たもの同士なのかもしれんな、やれやれ。


『この放送は、昼と晩にも繰り返し行う。些か煩わしいとは思うが、周知徹底する為に——』


 ◇


「——この度は、誠に、誠にありがとうございましたっ!」


 ようやく、目的となる『太陽の女神』に会う約束を果たす日になった。

 なったというか、女王への謁見そのものだったんだな。

 そりゃ待ち時間も長くなるわけだ。


 そんな女王様は人払いをすると、俺達の前で勢い良く頭を下げていた。


 ちなみに、謁見という形式ではなく、やや広い部屋にテーブルを挟んで、俺達とシャーロットが対峙している形になる。


「随分放送と態度が違うんだな?」


「あ、あれは、本当はもっと丁寧に話したいと思っているのですが、シビラが……」


「いやあんた普段のソレ出したらナメられるに決まってんでしょーが。もっとふんぞり返りなさい、地上じゃ乗るだけでどんな男も敵わないんだから」


「それ、まるで私が超重いみたいじゃない」


「……事実でしょ?」


「待ってそんな真顔で返さないで凹む」


 女神二人の気楽なやり取りを聞きながらも、俺は目の前に女の様子を見る。


 王都セントゴダート女王であり『太陽の女神』でもあるシャーロットは、金と赤が織り成す煌びやかなドレスを身に纏っている。

 先日に第八ダンジョンの出入り口付近で見た時に比べると、雲泥の差だ。


 同時に、シビラと話している時のシャーロットは、見た目から比べても少し幼いぐらいに感じる。

 ただ、これはシビラの普段の性格を考えると、こんなもんだろう、という感想にもなるな。

 女神というやつは、俺達が思っているよりも人間に近いのだろう。


「ああもう……あ、えっと、先ずは何より、三人の働きに感謝いたします。こういう時の為に、全ての人間に『女神の職業ジョブ』を与えましたが……やはり中層以降に挑戦するほどの人はほぼいなくて」


「そりゃそうだろ、命のやり取りになるんだ。第一、危険な探索を推奨しないと決めたのはあんたじゃないのか?」


「はい。『冒険に危険はつきもの』とか、『どんなに危なくても探究心を抑えられない』という考えとともに、自ら危険に身を乗り出す人もいるのですが」


「そんなヤツがいるのか?」


「いますよ。危険な山に一人で登って、山道を落ちる人。海の深さを知りたくて、戻れないほど潜った人もいます。自由意志ですから、止める権利はありません」


 そういう考えもあるのか。

 探究心というか、未知の世界を見たいと思う気持ちは分からないでもないな。

 シビラに連れられて見たセイリスの海は、話に聞くのと実際に見るのでは全く違ったし。


「……それでも」


 シャーロットは、その長い金のまつ毛を伏せる。


「それでも、ダンジョンに命をかけてほしくはない。そう思っています」


「なら【勇者】の存在は?」


「人々にとっての、安全を保証する象徴です。魔王より、人間の方が強い。そう思えるだけの存在がいることは大事ですし、それが過去の存在でないことは日々の安心に繋がる。そう考えています」


 日々の安心、ね。

 確かに魔王を討伐するヤツがどっかにいりゃあ安心もするだろうが、よりによってそれがヴィンス(あいつ)ではな……。


 では、この質問もしよう。


「俺が【勇者】ではなく【聖者】になったのは、あんたが決めたことなのか?」


 ずっと聞きたかったこと。

 シビラからは【聖者】らしい性格とのことだが、結局のところ上手くはいかなかった。

 正直【宵闇の魔卿】になるかどうかなんて、その時が来るまで運でしかなかったからな。


 今となっては、今の状況に不満があるわけではない。

 それでも、聞かずにはいられなかった。


 俺の問いに、シャーロットの答えは。


「——はい、間違いありません。私はあなたを【聖者】として最も相応しいと思いました」


「俺が、ああなると知っていてか?」


「そうです」


 分かってはいたが……明確に、肯定したな。

 目の前の女神は、大きく目を見開いたまま感情の読めない目で俺を見ている。


「結局、俺がどういう気持ちになろうと、あんたは知ったことではないというわけか」


「いいえ、違います。私は……他意はありませんが、あなた方人間が好きです。嫌われることは耐えられません」


 言う割には、そういう結果にはなっていない。

 後先考えられないのか、それとも……?


 ここで俺は、シャーロットの様子が少しおかしいことに気付いた。

 目を見開いているというより、何か狂気じみた目つきをしているように感じる。


「……おい、あんた」


「あなたが【聖者】なら。少なくとも、そう、少なくとも——私が耐えるだけで済むのですから」


「——《エクストラヒール》!」


 その違和感に、気付いた。


「えっ!?」


 俺が魔法を使ったと同時に、シャーロットの手が置かれた太股の辺りから、ナイフが飛び出てきた。

 エミーが驚いて声を上げつつも、現れたナイフをキャッチする。


 あれは……刺さっていたものが押し返された反応だ。


 シャーロットは……『太陽の女神』は、ずっと自らの足にナイフを突き立てたまま俺と喋っていた。


「何考えてんだあんた!? 正気か!?」


「心の痛みは、案外肉体の痛みで緩和できるものなのですよ。今日、色々言われることを覚悟してきましたが……痛みが足りませんでした。まだ心の方が痛い、です」


「そんなもんでどうにかなるわけないだろ!? そんなに無理するぐらいなら、素直に俺を【勇者】にすれば良かっただろ!」


「無理をしてでも……あなたは、【聖者】でなくてはいけなかった。そうしなくては、そうしなくては——」


 一呼吸置き、金の瞳が俺を射貫いた。


「——あなたたちが、完全に終わってしまう」


 完全に、終わってしまう?

 一体この『太陽の女神』は、何を知っているんだ?


「私には平行世界パラレル……仮定の世界の話ですが、そういうものを見ることができる能力があるのです。頻発できない上、見えないものも多いのですが」


「ぱら……?」


「多世界解釈、バタフライエフェクト。つまり『もしもあの時ああなったら、結果は別だった』という世界の話だよ」


 突如現れた言葉に、ジャネットがエミーへと説明する。

 もしもの世界……それは、即ち——。


「——俺が、【勇者】だった世界のことか」


「はい」


「その内容は、俺にも話せるか? 聞かないことには、とても納得はできない」


 シャーロットは少し考えるように目を伏せたが、やがて決心したように顔を上げた。


「これは見せるつもりはなかったのですが……ここまで来たからには、私も後には引きません。私の見たものを、共有いたします」


 共有、とは——?


 俺が疑問に思うと同時に、急激な眠気が襲いかかってくる。

 これは、シャーロットの能力、か……。


「一瞬の出来事としてすぐ目覚めますので、ご安心くださ——」


 その声を聞き終える前に、俺達は全員深い眠りに落ちていった。

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