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頼りになる相手からの期待を、自分の力に変えて

新たにレビューをいただきました、ありがとうございます。

 シビラと一緒に、第二層を探索する。

 この間に、シビラの知識をなるべく吸収しておきたい。敵が出てきていないことを確認すると、先ほどの敵のことを聞く。


「ああ、リビングアーマーね」


「リビングアーマー……聞いたことないな」


「でしょうね、下層の敵だもの。リビングデッドっていう……まあ『腐った死体』とでも表現するけど、そういう『アンデッド』の魔物がいるというのは知ってるわよね」


「名前だけはな。死んでいるのに動いてる、みたいだが……不死身じゃないのか?」


「ないからさっきのリビングアーマーも倒せたんでしょ。あれを動かすのは『悪意系の魔力の塊』だから、削りきれば消えるわ」


 倒せる、と分かっていても既に死んでいるのに動くというのは不気味なものだった。

 しかしシビラ自ら倒せると断言するのなら、信用していいだろう。


「気をつけることは?」


「アンデッドは体力も攻撃力も高くて、まあ単純にクッソ強いわ。一応その前に、攻撃魔法ってものに関してあんたに説明しておくわね」


 攻撃魔法……。

 俺にとって、それはジャネットが使っていた憧れの魔法だ。

 しかしその内容は、魔物を倒せる威力がある、以外には詳しくない。


「まず、剣や斧や拳の物理攻撃と、魔法による魔法攻撃の二つに大まかに分かれるわ」


「さすがにそれぐらいはわかるぞ」


「結構。で、この魔法に火とか雷とか、いろんな『属性』ってものがあるのよ。【魔道士】は基本的に一から三種類、魔卿は四種類使えるわね」


「なるほど。【賢者】は?」


「回復魔法を覚えるのが遅かったら四種類、神官と同じなら三程度、早かったら……まあ、一か二種類ね」


 なるほど、ジャネットは回復魔法が遅かったから四種類使えるタイプなのだろう。

 ……いや、ちょっと待て。


「四種類の魔法を使えて回復魔法を覚える賢者は分かる。ジャネットもそっちっぽいからな。しかし、一種類しか覚えない賢者なんているのか?」


「魔法を覚えるレベルが、ほとんど【聖女】みたいな賢者なら有り得るわよ。滅多にいないけど」


 そう、なのか。

 賢者というのは、俺が想像するより多様性のある職業なんだな。




「ていうか大変よね、その勇者のパーティー」


「大変? ヴィンス達の何がだ?」


「いや、ラセルがいなくなったことよ」


 ……何を言っているんだ?

 今、あっちにいるパーティーは、回復魔法が使える攻撃特化のヴィンス、回復魔法が使える防御特化のエミー、回復魔法が使える攻撃特化のジャネットだ。

 俺の入り込む余地なんてあるのか?


「俺以外、みんな回復魔法が使えるんだ。シビラは知らないだろうが——」


「いや知ってるわよ」


「——は?」


 何だ? さっきから話がかみ合わない。

 回復魔法を使えることを知っていて、なお俺がいなくなったことを大変だと言うのか?

 暗に俺を煽っているのかこいつは。


 ……いや、そんなことをする女ではないということは分かっている。

 なら、本気でそう思っている……?


職業ジョブの覚える魔法ぐらい元々知ってるわよ。そもそも、中層()()で回復魔法とか、覚えていても覚えていなくても使わなくなるでしょーに」


「……は?」


 あまりにも予想がつかないシビラの言葉の数々に、今度は先日のお返しとばかり、俺が呆ける一方だ。


「上層、中層、下層、魔界。せめて下層までは回復術士の魔力を温存しておくのがセオリーなんじゃない?」


 俺が必要なのかと思いきや、ますます俺がいらないような発言。

 シビラの話の先を聞くのが怖いが……黙って続く言葉に集中する。


「で、回復魔法が足らなくなる。勇者も聖騎士も、せいぜいグレイトヒールでしょ?」


「グレイト、ヒール?」


 知らない魔法が出てきたぞ。

 ……いや、待て。

 回復魔法っぽいのに、俺が知らない魔法ということは……まさか……。


 第一、今シビラは何と言った?

 足らなくなる、と言わなかったか……?


「ええ、回復魔法が一回では追いつかなくなる。だからヒールとエクストラヒールの間に、グレイトヒールがある。エクストラヒールを覚えるのは賢者だけでしょーし、それも要求レベルはバカ高いわよ」


「……じゃあ、あいつらは……」


「けっこー苦労するんじゃない? まあグレイトヒールを覚えた段階なら、しばらくは安泰だと思うわよ」


 シビラの驚くべき説明に、俺は愕然とした。

 ……ヒール一回では、回復が追いつかなくなる? エクストラヒールの下に、グレイトヒールというものがある?

 それを知らないとなると、あいつらは大丈夫なのか?


 言い様もない不安に襲われる。

 特に怪我の多いエミーは、万が一……。


「——ラセル」


 少し硬く強い声が鼓膜を揺らした。

 はっとして、俺はシビラの方を見る。

 その表情は、真剣そのものだ。


「いい? 今ラセルがすることは、あんたを追い出した仲間に合流することではないわ」


 シビラの断定的な力強い言葉を聞いて、俺は少しずつ焦っていた心を落ち着ける。

 一見冷たいようだが、片方が焦ったときほど冷静な相棒がいることの重要性を感じる。


「あっちはあっちで【神官】とか雇うかもしれないし、賢者の子がエクストラヒールまで頑張るかもしれない。とにかく、まずは強い【勇者】の心配じゃなくて、孤児院を優先しなさい」


 シビラが俺に一歩近づいた。

 力を持ったその赤い目が、俺を視線で射貫く。


「さもなくば、絶対に後悔する。だから、『助ける』という選択をしたあんたでも、勇者側あっちを助けることは許可できない。歴史に『もしも』はないわ」


 そう断言したシビラの言葉をかみ砕くと、理解を示すよう頷く。


 ……そうだ、俺は何を考えていたんだ。

 俺より圧倒的に強いあいつらが、どんどん高いレベルになっていっているのなら、心配する方が失礼ってやつじゃないか。

 ここで、このダンジョンを後回しにすると、俺はきっと後悔する。


「分かった。ここの魔王を倒すまでは、俺は自分のできることをやろう。あいつらができない分までな」


「ん、よろしい」


 シビラは一歩引いて、緊張を緩めるようにふっと笑った。




「それで、あんたの魔法の話ね」


「ああ」


「勇者の光属性の他に、宵闇の誓約をしたあんたには闇属性がある。どちらも特徴はあるんだけど、まあ端的に言うと『魔法防御無視』ね」


「魔法防御無視?」


「そ。例えば」


 シビラは足元の、崩れたリビングアーマーの鎧に剣を打ち当てた。


「ダメージ、これで入ったと思う?」


「いや入ってないだろ」


「そう。これが物理攻撃の防御力、まんま『物理防御力』ね。それと同じような防御力を魔法に対して持っているのが、『魔法防御力』ってわけ。魔王に近い存在とか、デーモンとか、魔法防御たっかいのよ」


「なるほど、よくわかった。……ん?」


 俺は、シビラの説明を聞いて、じわじわとその意味が理解できてきた。

 最初に、俺の属性のことを『魔法防御無視』と言わなかったか?


「理解できたようね。そうよ、ラセルの使う『闇魔法』というものは、魔王に近しい存在ほど真価を発揮する。逆に言えば、アタシの火魔法で倒せるような地上付近のゴブリン相手だと、そこまで差はないってわけ。全ての敵が、ノーダメージでいられない。だからファイアドラゴンにも通じたのよ」


 魔法防御無視という能力の凄さ、そしてその用途の限定的な威力の発揮箇所。

 まるで——。


「——魔王討伐に、おあつらえ向きじゃないか……!」


「そういうこと。ラセルの魔法は、まさにそういった『正攻法で倒しづらい敵』を全部問答無用で命の危機に晒せる魔法。ただし」


 シビラは足元の鎧に足を乗せた。

 下層の魔物、黒く精巧なリビングアーマー。決して容易には倒せないはずの敵だ。


「威力の分、消費魔力が半端ないのよ。神官の覚えた全てを捧げても1レベルになるほどの個人の魔法リソース、そしてそんなベテラン神官ですら日に十度も使えばふらつく消費魔力。それが【宵闇の魔卿】……そしてっ!」


 シビラはその足で、力を無くした胴体部分を思いっきり蹴っ飛ばした。

 音を立てて、ダンジョンの赤い床をごろごろと転がっていくリビングアーマーの胴体。


 次はリビングアーマーの頭を、力強く踏みつける。

 そしていつの間に取ったのか、右手にはリビングアーマーの身体から出たであろう討伐報酬の魔石が光っていた。


「あんたは一つ前の説明、全部無視してオッケーよ! ぜんっぜん節約しなくていいわ! 闇魔法の牙は、全ての魔物の命に刺さる! 消費魔力以外にデメリットはない! だからあんたは、今までアタシが組んできた相手の誰にもしなかった指示を出すわ!」


 シビラは右手の魔石を掲げながら、満面の笑みで左手の親指を立てた。


「後先考えず、撃って撃って撃ちまくりなさい!」


「ああ! 遠慮なくそうさせてもらおう!」


「このアタシが保証するわ、あんたは一番強くなるわよ!」


 最後にそう堂々と言い放つと、シビラは洞窟の奥を見ながら俺の隣まで下がった。

 そちら側には、今度はメイスを持った黒いリビングアーマー。


 それにしても、『一番強くなる』か。

 それも、女神様のお墨付きだ。


 ……思えば長い間、こうやって誰かに信頼されたり、期待されたりすることがなかったように思う。

 そんな俺が、今一番頭脳面で信頼しているシビラに、一番強くなると明確に断言されている。

 一番になれると、期待されているのだ。


 なら——期待通り、『一番』を目指さないとな!


「《ダークジャベリン》!」

(《ダークジャベリン》!)


 俺は魔法を二重詠唱しながら、更にその二重詠唱魔法を連発していった。

 下層でも耐久力ばかりで鈍重な鎧相手に、俺の魔法の相性は抜群。まだまだ魔力が枯渇するそぶりはない。

 倒しかけを見逃すような油断もしない。


 【宵闇の魔卿】のレベルは、まだまだ上があるだろう。だから俺はここで、魔王と戦える力を蓄えるだけ蓄えてやろうと決めた。


 待ってろよ、魔王。

 俺の魔法は、どんな命にも牙が刺さるらしいからな。


 俺の前で孤児院を狙うと宣言したこと、後悔させてやる。

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