表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/350

鎧巨人の戦いは、幼馴染みとの日々の上に

 階段を降りながら、ふと俺はシビラに聞いた。


「何故階段を降り始めた? 上で戦う方が有利だと思うが」


 攻撃魔法を使えるのなら、上から畳みかけた方がいいだろう。

 俺の考えに対し、シビラは否定するように首を振る。


「アドリアではこんな感じじゃなくて長い直線階段だったけど、もしも階段の上で攻撃したらあの鎧どうしたと思う?」


「あいつなら跳んできただろ。……まさか」


 シビラは、鎧の方をじっと見た。

 俺より頭三つ分はありそうな背丈で、武器はその背丈に見合った大きな剣……らしき、刃の潰れた鈍器のような棒を持っている。


「このフロアボス、跳躍もできると見たわ。だから、これ見よがしに崖がある。油断してると、あの狭いテラスみたいな場所で体当たりされて、扉付近の狭い通路に追い込まれるわね」


「想像したくない話だな……」


「対等な戦いをするには、この人間四人分ある高さの崖を、自分達も飛び越えられることが条件ね」


 さすがにそこまでの身体能力はない。

 なるほど、正攻法で倒すしかないということか。


 シビラは階段のちょうど真ん中ぐらいで立ち止まる。


「アタシはここで対処するわ。ちゃっちゃとやっちゃいなさい」


「ああ、任せておけ」


 俺は階段を降りると、鎧の巨人のフロアボスと対峙した。


 地面に足を着けたところで、武器を腰の高さに構えたフロアボスが俺の方を向く。

 ゆっくりとした足取りでありながら、剣の構えはタウロスのそれではない。

 ただのリビングアーマーだなこいつは……むしろアドリアのフロアボスよりも、あちらにいそうなタイプのボスだ。


「相手になるぞ、かかってこい」


 俺の言葉を読み取ってか、巨人の剣が揺れた。

 戦闘開始だ。




 特大剣を片手で軽々と持った巨人は、その剣を高く掲げたと思った次の瞬間には、地面に叩き付けていた。

 俺は無論、その動きを見て回避している。


「《ダークスプラッシュ》!」


 距離はあるが、命中ならこれだろう。

 様子見で魔法を放ち、相手の動きを見る。


 あの時のフロアボスほどではないが、このフロアボスも大きくバックステップをして回避した。

 そして、再びこちらに足を向ける。


「攻めるのはゆっくり、回避は一瞬か」


 戦い方を理解した俺は、剣を構えた。

 こいつは、強い。特に人間らしい動きをするところなど、悪くない。

 下層のタウロスは警戒心が強すぎて退屈だったのだ、ここで剣の手慣らしをさせてもらおう。


 フロアボスが剣を両手持ちにし、踏み込んできて突きの攻撃をする。いい動きだ、当たったら一発で壁まで吹き飛ぶな。

 だが、動きはエミー以上に単純だ。

 相手の突きを横に回避し、こちらも相手へと踏み込んで剣を振る。

 既に闇の光を纏った俺の剣は、相手の鎧の防御を貫通して、内部に直接ダメージを与えた。


『……!』


 俺の武器の特性に気付いたのか、剣を構え直して一歩引く。

 そして……相手が驚くべき行動に出た。


「そういうこともできるのか、ダンジョンの主が味方というのは便利なものだな」


 鎧の巨人が左手を下に向けた途端、なんとダンジョンの床から盾が現れたのだ。

 俺の身の丈ほどもある、大きな盾。その盾に妙に見慣れたような黒いもやがかかっている。

 俺の攻撃を受けてあれを出したということは、


 なるほど、重戦士と同じ戦闘スタイルか。

 ……いいだろう、仕切り直しだ。


「エミーとの模擬戦のおさらいだ。お前があいつより強いかどうか、見てやろう」


『——!』


 俺の鎧から、声のない返事が聞こえた気がした。




 巨人は盾を前面に構え、俺に向かって踏み込んできた。


「遅い」


 俺は、盾で殴る気満々の相手を盾の右側に回避して、その腕目がけて剣を振る。

 切断はできなくとも、血飛沫らしきものが大きく上がった。


 フロアボスはすぐに盾をこちらに向け、同時に大剣を振り上げて俺を潰さんと叩き付けてきた。

 速い動きだが——あくまで、それだけのもの。

 俺は次に相手の右側、剣を持つ方に回避して腕を斬り付けた。


 刃が通った感触があるが、奇妙なことに切断までには至らない。これが下層フロアボスの体力ということか。

 なるほど、シビラが言った『素早い敵は』という話を思い出すな。

 要するに素早くない敵は、これぐらい頑丈で当然ということか。


 しばらく俺が攻撃を当て続けると、次にフロアボスは剣を突き上げた。

 黒いオーラが出たと思うと、なんと地面からブラッドタウロスが二体現れる。子分も付くとか、本当に耐久力全振りのヤツだな。


「はいはい、あんたたちはこっちねー。一対一に野暮なことするんじゃないわよー」


 それを、まるでガキでも相手にするような軽い声で、シビラが次々に燃やしていく。

 相も変わらず、得意の火魔法と高いレベルによる攻撃は圧巻だ。

 更にシビラは、フロアボスとブラッドタウロスの間に石の壁を置き、戦いに参加させないように誘導している。

 一対多数は、相手が二人でも一気に戦いづらくなる。上層でゴブリンに苦戦していた初心者がいたが、それだけ多数との戦いは難しいのだ。

 こういう小さな配慮は助かる。


 牛頭仮面の鎧巨人……確かにお前は、強いのだろう。

 ここに来るまでに、あれだけの手練れのタウロスを相手にするのだ。魔力枯渇状態でお前と戦うのは、随分と骨が折れるのだろう。

 相応の重戦士としての剣技と、刃の通らない盾。高い体力とパーティー分断の部下召喚。

 十二分に、下層のフロアボスとしての力がある。


「だが、エミーほどではないな」


 ここに来るまでに、随分とエミーと模擬戦を繰り返した。

 それは、僅かな間でも離れていた時間を取り戻したいというエミーの願いが聞こえるようで、練習の内容は色濃く複雑なものだった。

 特に、盾を使う戦い方に関しては圧倒的で、行動パターンが日に日に増えていく様は俺以上の成長を感じた。


 そして……エミーの増えた手数の全てに、一度以上は対処した。

 そうしてお互いに強くなったのだ。


「お前には、それがないな。ピンチに手下を召喚するようなヤツならば、これ以上はあるまい。終わりだ——来い、アビスサテライト!」


 俺は、魔神戦で威力を見せつけた攻撃魔法を、扉の向こうから呼んだ。

 今度はもう遠慮なしだ。


 フロアボスが数の不利にブラッドタウロスを再召喚するが、地面からその姿が現れる途中で、シビラに燃やし尽くされる。


「あーもーぜんっぜんダメダメ! そういう時に捨て身でも一か八かの『攻め』に踏み込めない時点で、この牛仮面ちゃんは典型的なビビリね。魔物の頭領のくせに萎縮してんじゃないわよバーカ」


 アビスサテライトの攻撃を受けながらも、シビラの煽りに反応を示すフロアボス。

 大きな剣を取り落とし、盾を取り落とし……それでもシビラの方に牛の鉄仮面を向けて、憎々しげに睨んでいる。

 なんだこいつ、口撃が効いているのか? 効いているんだろうな。


「闇魔法使ってるのはアタシじゃなくてラセルなのに、こっちを気にするとか煽り耐性ゼロ! 身体を鍛える前に、精神を鍛えるべきね。いや魔物って精神鍛えるとかできるのかしら?」


 マイペースな疑問でナチュラルに煽られ続け……フロアボスは、呆気なく膝を突いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ