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フロアボス討伐後の一息。俺の意地と、判断

「この巨体に接近戦挑むとか、あんた術士の自覚なさすぎ馬鹿じゃないの? 決着急いでくれて助かったわ」


「おちょくり方がガキすぎだが、お前の精神年齢はあいつらと同レベルだったな。隙を作ってくれたこと、感謝する」


 互いに褒めてるんだか褒めてないんだか分からない言葉を投げ合う。


 言葉の次にシビラは手袋を外し、片手を上げた。

 なるほど、いいだろう。俺もそれに倣い、手袋を外す。


 以前の反省を踏まえ、手首に向けて首を引くようにして『来い』という意思を伝える。

 すぐに伝わったことが分かるように、シビラはニイッ、と口角を上げた。


 そして、俺の手目がけて『パァン!』と、勝利の音を響かせた。


「痛ったッ!?」


 ずっこけた。


 お前な。

 折角俺が前回叩きすぎた反省からお前の出方を待ったというのに、肝心のお前が自滅してどうするんだよ!

 ま、そういうところ本当にシビラって感じだけどな! つーか俺も痛い。


「自分の力がレベル分上がったのを忘れてたわ……回復してくれない?」


「お前は俺を何だと思ってるんだ。《エクストラヒール・リンク》」


 よう、見てるか歴代聖女。

 史上最もしょうもない聖者・聖女の使われ方第一位を取った自信があるぞ。

 このまま行けば、二位以下も俺が独占することになるだろう。


「それにしても、結局使わなかったわね」


 シビラは、入ってきた扉を見る。

 フロアボスを倒すまで出られなくなる壁は、無論なくなっていた。


「ああ、アレか?」


 その向こう側にある……というより、用意していたもの。

 俺はそいつを呼び寄せるように、魔力を込める。


 扉をくぐって現れたのは、黒い球の集団。

 魔神戦で圧倒的な力を発揮した、アビスサテライトだ。

 低威力で、高消費。便利ではあるが決定的な有利に繋がらない魔法。

 だが、俺ならこの魔法を際限なく出せる。正直、覚えた闇魔法の中で一番破格のものだ。


「ギリギリになったら出すつもりだというのは分かってたけど、結局出さなかった理由は何?」


「それは——」


 ——ヴィンスのことを考えていたから。

 そう言葉にするだけのことを、躊躇ってしまう。


 下層の魔物も、少なかった。

 ここまでは確実に、倒されていたことが分かっているのだ。

 フロアボスまで倒したかどうかは分からなかったが……もしもヴィンスがあの巨大な狼を倒していたとすると、少なくとも倒せるだけの実力があるということになる。

 魔法は使えても、あいつに無尽蔵の魔力はない。エミー同様、あまりジャネットの話を聞く方ではなかったからな。

 恐らく、剣技も使って倒しただろう。


 安全を考えると悪手でしかなかったが、それでも俺は自分の剣で倒したかった。

 このことを言えないのは、俺が未だにこんな子供じみた対抗意識を持っていることを、心のどこかで恥じているからなのだろうか。


「……ま、いいわ。あんたは倒せた、まだまだ余裕を持ってね。それでいいじゃない」


 恐らくシビラは気付いているのだろう、俺のことを。

 普段はずけずけと踏み込んでくるが、本当に嫌な時で、尚且つ必要な時以外は踏み込んでくることはない。

 それが俺にとって絶妙な距離感で、一緒に組んでいて悪い心地にはあまりならないんだよな。


「で、ラセル。あんたこの次どうするの?」


 シビラは、奥側の扉を見た。

 俺もその扉の先、下に続くであろう階段のことを考える。




 ——ここから先は、最下層。

 ダンジョンメーカー、つまり魔王との戦いとなる。


 この先に進むべきか否か。

 俺は少し考えて、結論を出した。


「行かない」


 腕を組んでいたシビラは、予想と外れたのか「あれ?」と驚いていた。


「行かないの?」


「ああ」


 これまでも、幾度となく魔王を討伐してきた。

 顕現した魔神を、力の一部しか出ていなかったとはいえ抑え込むことにも成功した。


 今更、魔王程度……と思うだろう。

 だが俺には、その考え方が油断そのものではないかと思う。


「ファイアドラゴンの時は、多少乗っていたが実際に一撃でやられる危険もあった。あの矢鱈と強いリビングアーマーのフロアボスも、緊急性があったから討伐したが、負けてもおかしくない相手だった」


 それでも、何度も魔王に挑む気になったのは何故か。


 一つは、シビラがいたから。

 もう一つは、術士二人ではなくなったから。


「俺達が力を行使できたのは、エミーが防いでくれるという期待があったからだ。今すぐ倒す必要がない魔王に対して、わざわざ少人数で挑む理由がない。それに——」


 俺が下層のフロアボスを倒したのは、次にヴィンスとぶつかる時のための意地があったから。

 だが、魔王に関してはそもそも本題から逸れる。

 ハモンドに来たのは、ヴィンスとケイティが理由なのだ。魔王討伐は、今すぐしなければいけないことではない。


 ならば、答えは一つ。


「——こういう時は、引き際が肝心。だろ?」


 俺は腕を組んで、かつてシビラが言っていたことを言い返した。

 シビラは一瞬目を見開くと、すぐに肩で笑い始めた。


「っくく……言うようになったわね。確かにここで調子に乗るより、下がる方がいいわ。っていうか、アタシもそっちの方がいいかなって思ってたのよ」


 俺に笑いかけたあと、シビラは最下層の扉に向かって——突如、大声で叫び始めた。


「やーーーい魔力枯渇魔王! からからに連日干からびて残念でした! 次はもっと強いメンバーで来るから、精々ガタガタ震えてなさぁーい! あんたはラセルにとって只の、お・ま・け!」


 言いたい放題言葉で殴りつけておいて、「んー、すっきりした!」と明るく俺に伝えて上の階へと登り始めた。


 相手が出てこれないのをいいことに、言いたい放題である。

 ほんと、こういうところはシビラだよ。


 俺は気分良さそうに歩くシビラの隣に並び、ダンジョンの外へと出た。

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