山での戦い、久々に背中を合わせて戦う
ハモンドの門を出て、右手北側二時の方向。
西は平地が広がるため、そちらに目標はない。第一あんな平地に魔物がいようものならすぐに魔物がいると分かるからな。
反面、山は木が生い茂っており、遠くまで見渡せない。
もしも遠くに魔物が発生していたとしても、確かにこれでは分からないだろう。
「どっちに魔物がいるか、分かるか?」
「そうね。ダンジョン内じゃないから大した範囲も調べられないでしょうけど、二重詠唱というものの威力、アタシも見させてもらうわ。《サーチフロア》!」
シビラが気合い十分といった大声で索敵魔法を叫んだ。
声は響くことなく、森へと吸い込まれていく。
二重詠唱……ということは、頭の中でも魔法を使って、かなりの魔力を消費した魔法を発動したはずだ。
ダンジョン内でも、高レベルのシビラの索敵魔法は役に立っていた。セイリス第四ダンジョンなどは、シビラなくして安全に攻略することはできなかっただろう。
だが、シビラの反応はあまり芳しくなかった。
「ん……んー? いないわね……」
「そうなのか? 門番が遠吠えを聞いたという話だったが……」
「夜だけ街の近くに来てたのかも。もうちょっと奥まで行ってみましょ」
首を傾げながら無警戒に歩くシビラの後を追うように、俺も少し緊張を緩めて歩き出した。
こいつがこれだけ周りを気にしないということは、それだけ索敵範囲が広い上で、全く敵に警戒する必要がないということなのだろう。
しばらく歩いただろうか。すっかり街の壁も遠くに見える中で、シビラは短刀を抜いた。
「けっこー歩いたけど、ようやくね! 来るわよ、囲んでる。あんた右ね」
「任せろ」
ようやく出番のようだ。やれやれ、まずは回復魔法で疲労を取る方が先だな。
「《エクストラヒール・リンク》」
シビラにも、使ったと分かるよう言った方がいいだろう。
「おっ、気が利くわね!」
「索敵魔法、相当魔力使っただろ。疲れてるのなら全部俺がやってもいいぞ」
「今日は妙に優しいじゃない! これはアタシに惚れたわね!」
「優しくされたくないのならそう言え、疲労回復は今後しないぞ」
すぐに調子に乗るシビラは——笑いながら左手で石の槍を狼の腹に突き刺しており、俺も冗談を適当に返しつつも、右手の剣は闇の色をその身に纏いながら狼の首を切り離す。
「ふん、鈍ってはないようだな」
「そっちこそ、索敵魔法なしでもちゃんと反応できるのいいわよ。街の鶏肉野郎どもとは違うわね」
軽くシビラがナイフを持つ右手拳を出してきたので、俺は左手の甲を軽く当てる。
そっちは任せたぞ、相棒。
正面に現れた灰色の狼は、左右にステップしながらもこちらへと前進している。
確かにこれは、ゴブリンとは全く違う系統の強さだな。
だが、狼にはゴブリンに比べて弱点がある。結局のところ、四足で機動力を上げているが故に、手を使えないのだ。
その武器は、必ず牙か爪となる。そうなれば、俺に対して接近攻撃するしかなくなるわけだが——。
「この剣の色がどういう意味か、お前達には分かるまい」
その立ち上がれば人間の背丈以上の体軀で、鉄の剣に噛みついて力押ししてくるつもりなのだろう。
だが、相手が悪かったな。
俺の剣に、牙の防御力などない。
また、俺は事前に風の防御魔法を使っている。
竜の体当たりさえ弱めたこの魔法を、人間の環境に現れた上層の魔物程度が破れるとは思えない。
程なくして、目の前には狼の魔物が数体積み上がっていた。
静かになったため後ろを向くと、シビラの前には石の壁と槍が溢れている。
「思ったより少ないわね。それにしても戦うならダンジョンの内部に比べてやりづらいけど、ラセルの防御魔法もあるし、ダンジョングレーウルフも余裕でいけるわね」
「ダンジョンに比べて? 外だとどれぐらい問題があるんだ」
「まず大前提として、火の魔法は厳禁よね。過去に山火事起こした冒険者、罰則金すごかったわよー」
そりゃ勘弁願いたいものだな……確かに火の魔法が使えないとなると、ダンジョンの外に出た魔物というだけで一部の魔道士は活躍できなくなるな。
「もう一つは、全方位が拓けているじゃない。ダンジョン内部みたいに前か後ろに分かれていると、一対一に持ち込みやすい。基本的に広い環境であればあるほど人数が多い方が、狭い環境ほど少ない人数の方が有利に働くようになってるわ。後はまあ高いところとか、建物の中とか、そういう場所を取ってる方が有利に働くわね」
「確か籠城戦、だったか」
「あんたほんとに知識ぶっこわれ孤児よね……一応聞いとくけど、城下町すら見たことないのよね?」
「ああ、知識は全部ジャネットから教わった」
「ジャネットちゃん怖いわー、可愛いシビラちゃんの出番が取られそうで怖いわー、世界の損失だわー」
大げさに身振り手振りを加えながらも、迷いなく山道を歩くシビラ。
すぐに目の前に、大きく開いた穴が現れた。間違いない、ダンジョンだ。
こいつと一緒にいると、考えるべき大多数の部分を丸投げできるから本当に楽でいいな。
「はい当たり。びっくりするぐらい魔物いなかったわね。これは巣穴に帰って待機モードかしら」
「なるほど、魔王討伐を狙う俺達を警戒して守りを固めたか」
「かもね。でも、外で仕留めきれなかったのは失敗よね〜。上層の魔物なんて数集めたところで大したことないわ」
「あの程度の狼なら余裕だな」
俺はシビラと頷き合うと、互いに索敵魔法と防御魔法を張り直して武器を構えた。






