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三人目の奇妙な動きと、身構えた俺に対してシビラが出した答え

 それから夕食をねだるシビラを軽く小突いて、割り勘で食べて帰った。


「もーなんでよー、お金に余裕はあるでしょー?」


「当たり前のように奢ってもらうこと前提で動くな」


「はぁ〜……男の子にディナー奢ってもらうチャンスだったのに……」


 ちょっと優しくするとすぐにつけあがる辺り、いかにもお前って感じだよほんと。

 まあ、一仕事終えた後なら考えてやってもいいな。


 結局帰りはずっとシビラがグチグチ言っているのを受け流しつつ、ある程度の道具を見繕った後は早めの宿での就寝となった。




 夜の宿、静かに眠るシビラを見ながら俺も目を閉じる。

 こいつも、普段からこれぐらい静かならいいんだがな……いや、静かなシビラなどそれはそれで気味が悪いな。

 それにしても、男と二人眠るにしては無防備なものだ。


 シビラから意識を外して、仰向けになる。ハモンドの宿で、真っ暗の部屋でも薄らと月明かりによって見える見慣れた天井。よりによって、またここに戻ってしまうとはな……。

 だが、あの頃とは同じではない。

 今度の俺は、パーティーで必要とされない役割ではないのだ。


 頼れる相棒と二人でのパーティーが、これほど心地いいものだとはな……。

 そういえば、エミーとジャネットは大丈夫だろうか。

 俺が心配することではないと思うが、ジャネットに関してはどうしても気になってしまう。

 あの時の変化は、ただ事ではなかったからな。


 ……少し、眠れないな。


 俺は部屋を出て、宿の外の空気を吸いに行こうとする。

 喉を通り抜ける涼しい風。却って目が冴えてしまいそうだ。


 宿に泊まった客ならある程度自由に動けるが、当然宿に泊まっていない客が自由に出入りすることはできない。

 そのため、宿を囲っている塀を塞ぐように、昼にはなかった大きな門が閉まっている。

 格子状になった門からは、外の様子が見える。


 ——女がいる。


 それが、件の女マーデリンであることはすぐに分かった。

 金色の目が光る。


 俺は、宿を出ることをやめて、扉の隙間から様子を窺う。

 女は宿の二階部分を見上げると、溜息をついて引き返した。

 ……昼間といい、ここまで執拗に来る必要があるのか?


 目的が全く読めないが……油断はできないな。


 -


 結局あれから、いろいろ気がかりであまり眠ることができなかった。


(《キュア》。多少すっきりするな)


 だが、そこまで眠気や疲れが解消し切るというほどではない。

 ……待てよ?

 疲れということなら……。


(《エクストラヒール》)


 ふと思いつきで回復魔法を使うと、完全とはいかないが疲労が抜けた感覚がある。

 こういう使い方もできるか。あまり常用するのは良くないとは思うが、覚えておいて損はないだろう。


「よっ」


 シビラが布団の中から気さくな挨拶を飛ばす。

 ……いや、待て。何だそのタイミングの挨拶は。


「まさか、俺が起きるまで待っていたのか?」


「生意気盛りのつっけんどん朴念仁も、眠っている間は子供達と同じ健やかな顔になるんだから、寝ている姿っていいわよね」


「ああ、普段は口やかましいお喋り駄女神も、眠っている間は宵闇の女神らしい清楚さがあるのだから、寝ている姿はいいものだな」


 俺達は同時に毛布を取り払うと、ベットの上であぐらを掻くように起き上がる。


「ラセルのくせにシビラちゃんの寝顔を覗くなんてえっち! おはよう!」


「はったおすぞこの口から生まれた口女神が。おはよう」


 いかにも俺達らしい挨拶を終えると、靴を履いて装備をチェックする。

 ああ、そういえば昨日のことを言っておかないとな。


「少し昨日は寝付けなくてな。夜に宿の扉まで行ったんだが、マーデリンが来ていた。顔は見られてないはずだ」


 この情報には、シビラも驚いた。

 しかし、嫌な気分になって表情を曇らせる俺とは違い、シビラは余裕そうに鼻で笑った。


「ふーん、頻度ヤバいわね。一体何を焦っているのかしら」


「焦っている?」


「ええ。例えば大事な手紙が来るのが今日だと分かっているとするじゃない。ラセルならどうする? 多分だけど、家の中で待たずに、何度か外に出て誰か来ないか確認するんじゃない?」


「その気持ちは分かるな」


 そう動いたところで手紙が早く来るはずがないのに、何度も確認してしまうということは珍しくない。

 後から思えば、何を同じことを何度もやっていたのかと思うんだけどな。


「それと同じ。マーデリンも、焦っている」


「焦っている理由の予想は付くのか」


「当然。普通つくでしょ」


 お前の普通に俺を合わせないでくれ。

 そんな内心を知ってか知らずか、シビラは話を続ける。


「理由の一つがラセル、あんたを探っているってこと。だけど、可能性としてはジャネットちゃんを探ってる方が確率高いわね」


「ジャネットを? 根拠は?」


 ますます嫌な予感を覚えて眉間に皺が寄った俺の質問に、シビラはシンプルに答えを出した。


「ジャネットちゃんがいなくなったのは、本当に予想外だったはず。特に、ラセルと違って『敵対した』と明確に理解したはずよ。あの子、頭いいもの。そして——ジャネットちゃんの頭がいいことを、頭のいいケイティが気付いてないわけがない。もしも仮に後ろから撃たれるとしたら、露骨に攻撃してたマーデリンが最初よね」


 ……なるほど、納得する答えだな。

 確かにマーデリンが催眠魔法を使ったことにジャネットは気付いている、当然ジャネットならケイティとアリアと同行している最後の女が、ずっと自分を付け狙っていた女だと分かるだろう。

 特に、ジャネットなら同じ【賢者】と分かるはず。

 敵対意識は強くなるだろう。


 ジャネットはアドリアにいるので不安はないが、気に掛けておいた方がいいな。

 だが、こいつのお陰で大分気が楽になった。

 相手にとって、ジャネットが不確定要素になったことは想像以上に大きいらしい。

 全く……この場にいなくても、お前は俺の役に立ってくれるんだからな。


「ま、その辺りは後で考えるとして」


 俺は、シビラの言葉を続ける。


「山の探索、だな」


 俺は窓から覗く晴れた青空を見て、腰に手を当てながら頷くシビラに頷き返した。

 それでは『宵闇の誓約』らしく、陰での活躍をさせてもらうか。

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