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目は口以上にものを言い、その事実は有利にも不利にも働く

 シビラと共に、まだ明るい街を歩く。

 帽子のエッジを指で楽しげに叩きながら、ハモンドを見て回るシビラ。


「この帽子は、しばらく被っているのか?」


 俺は自分の頭に被ったものに触れながらそう言う。


「そりゃまーね。ラセルの髪ってやっぱこの辺じゃ珍しいし、目立つのよ」


「本音は?」


「たまにはファッション変えていかないとね!」


 ま、そんなとこだよな。

 ただ俺の髪が珍しいということは、未だに黒髪の人間にすれ違ったことがないことから容易に察しが付く。


「ふと思ったんだが、ケイティには俺の姿がラセルだってバレてないのか?」


「可能性くんの勝負としては、両者五分五分の戦い……かと思ってたけど、多分十中八九で分かってないわ」


 どれほど警戒しているかと思いきや、まさかの八割以上大丈夫発言である。

 常に危機感を持っているこいつにしては珍しいな。


「根拠は?」


「あんた、結構じろじろ見られてたわよね。視線って本人だと気付きやすいものだから。そうね、例えば……」


 シビラがこちらを向いて黙る。

 一体何だ? 俺の方を見て……視線が少し逸れる。また俺の方を、と思ったら全く同じ方向に逸れる。ほんの一秒に満たない間だが、やけに気になる。


 俺が自分の左肩を見ると、そこには一匹の蝶が止まっていた。


「虫に好かれるなんて随分と乙女っぽい能力あるわね! そのうちひらひらと囲まれるわよ」


「似合わないにも程があるだろ、やめてくれ……」


 がっくり肩を下ろすと、その瞬間にもちろん蝶は俺の肩から飛び立った。


「ところで、アタシはさっきあんたに虫がついてることを『視線』で知らせた。そこまではいいわね」


「ああ。視線が少しずれると、かなり分かるな」


 どんなに僅かな時間でも、視線というものの力はかなり強い。そして、同じ方向に二度もずれると、気になって仕方がなくなる。


「だから、アタシから見てもキャスリーン……なんだか髪色のこともあってややこしいから、便宜上ケイティでいきましょうか。ケイティの視線がどう動いたかは分かったけど」


 そしてシビラは、手の甲で俺の胸を軽く二度叩く。


「あんたはもちろん、どう見られたか気付いたわよね。『黒鳶の聖者』様?」


 何だよ、急に。

 どう見られたかって、確かケイティは俺の顔を見たよな。そして帽子の方を見て、服を見て……。


「……そうか。もしもぼんやりと姿と色が一致したとしても」


 ——俺のローブが純白から黒鳶色になっていたら、気付くはずがない。この姿で、太陽の女神教の【聖者】とはなかなか思いづらいだろう。


「そういうこと」


 だからか、すぐに興味を失ったように視線をヴィンスの方に戻したのは。俺を見て『この男じゃない』と思ったということだな。


 シビラは満足そうに頷いた後、「ただし」と人差し指を俺の目の前で立てた。


「これは今の話とは少し違うのだけど、相手の背後を取った時に騙し討ちする際、視線が相手の背後に二度以上向くと、すぐに背後を取ったのがバレるわ」


 それはそうだろうな。俺だって自分の敵が何もいないはずの空間を気にしていると、そこに何かあると思ってしまう。


「この視線というものの力は、決して筋力や魔力みたいなものはないけど、とても大きな力を持っているの。だから、もし一瞬でも向いてしまったら別の方に視線をわざと向けたり、あまり不自然のないように相手に固定するよう意識しなさい」


「すぐ相手に固定する……視線誘導も、わざとらしすぎると却って狙ってると思われるということか」


「理解が早いわね。相手の頭が良ければ、間違いなく『最初に視線を向けて、それ以来全く向けていない』方に警戒を強めるわ」


 ……やれやれ、難しい注文だ。だが、この知識も知っているのと知らないのでは、大幅に差が生まれるだろう。


「まだ警戒されていないうちに、調べ尽くすわよ」


 その言葉に頷くと、俺達は次の目的地へ向かった。




 シビラが選んだ場所は、ハモンドの街唯一の冒険者ギルド。

 アドリアの小さな村とは比べものにならないほど大きく、また人が多い。


 シビラは服と同じ色の口元を覆うマスクをつけて、顔を隠した。


「お前、そんな格好していたのか?」


「こうしてると、目立たないでしょ。【アサシン】っぽいし」


 確かに、顔の大部分を布で隠した、武器がナイフのショートパンツの女。まあ【魔道士】には見えないな。

 ケイティももしかすると……。


 一瞬思案したところで、シビラが話しかけてくる。


「ラセルは、一応アタシから離れて、遠くで聞き耳を立ててくれるといいわ」


「話さない方がいいのか?」


「ええ。あっ、可愛いお姫様ことシビラちゃんが襲われそうになったら助けに入るのは、王子様の役目だからちゃんと来ること!」


「帽子のエッジから靴の爪先まで、お前にはお姫様感のかけらもないから安心しろ」


「ぶー!」


 頬を膨らませて抗議の意を示しつつも、シビラは受付の方へと向かった。

 そういえば、こいつも元々こっちにいたんだっけか。ずっとあの格好で活動していた、と考えるのが自然か。


 果たして、どのようなことを聞くのか。

 俺は、近くの柱にもたれかかりながら、その会話に耳を傾けた。

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