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女神に起こった謎と、ジャネットのこと。そして、相手の能力と対策

 シビラから出てきた話は、姉の話。

 ここに来て、エミーが話していたケイティとシビラが話していた姉の話が繋がってくるか……。


「確か名前は……プリシラ、で合ってたよな」


「ええ」


「少しずつ弱くなっていったと言っていたが、その原因がキャスリーンにあるということなのか」


 シビラは黙って頷く。

 ……どうやらエミー達が相手にしていた女は、想像していたよりも遥かに厄介な存在らしい。


「どういう経緯でそうなったか、教えてくれるんだよな」


「もちろん……と言いたいところなんだけど」


 シビラは、目を閉じて肺の中の空気を勢い良く吐き出すと、首を横に振った。


「同じなのよ」


「同じ?」


「エミーちゃんと、ジャネットちゃん。二人の証言と姉の証言が同じなの。まあそれが『ケイティってマジでキャスリーンなんじゃない?』って思ったいくつかの理由の一つなんだけど」


 シビラの答えで、ある程度俺は察することができた。

 あの時エミーが何と言ったか。ジャネットがその頭脳で分析しても、どう結論を出したか。


 どちらも、ケイティを明確に『悪』と断じることができなかった。それどころか、エミーに至っては褒める言動以外していなかったように思う。

 ジャネットですら、ケイティのしたことを状況から導き出すのが精一杯だったのだ。……いや、寧ろ女神を陥れた相手に対してそこまで分析できたのだから、ジャネット以外なら到底その結論まで辿り着けなかっただろう。


 そして、キャスリーンに対する感想はシビラの姉でも変わらなかったのだな。

 原因は確実にキャスリーンだが、断じることができるほどの材料がない。


「ん? ちょっと待て。今お前は『いくつかの理由』と言ったのか? ならば、それ以外にもケイティが怪しいと判断した理由があるのか?」


 俺の問いに対し、シビラは「ちょっと待ってて」と言い、部屋を出て行ってしまった。

 一体何なんだ……と思っていると、すぐにドアをノックする音が聞こえてきた。


 俺が扉を開けると、飲み物を二つ持ったシビラが立っていた。足でノックしたのか。


「話も長いし、少し飲みましょ」


「ああ。……いや、待て。随分と冷えた飲み物を選んできたなおい、氷も浮いてるぞ」


 この肌寒い季節に、こんな飲み物を出すとかどんな判断だよ……。

 そんなことも分からないシビラではないと思うのだが……おい、何やってるんだ?


 シビラは俺のカップに手をかざすと、すぐに氷が溶け出し、中のお茶がやがて湯気を出し始めた。


「無詠唱の温める魔法か」


「そう」


 わざわざ氷の浮いた飲み物を寄越しておいて、それを温め直すとか……。……いや、待て。

 何故、手渡してから使った? 自分で持っているときに使った方が、圧倒的にやりやすいはずだ。

 それに、この違和感……以前も……。


「……ジャネット」


 俺の呟きに、満足そうに頷くシビラ。

 そうか、こいつはあの時にその違和感に真っ先に気付いて、ジャネットに確認を取っていたんだな。


 言ってたじゃないか、そもそもシビラがキャスリーンの名前を出した時の紹介が『無詠唱を教えられる者』だって。

 ならば、逆算すれば無詠唱を使ったヤツが教わった相手がキャスリーンであるということだ。


「シビラは既に、ジャネットとケイティの話をしていたんだな」


「そういうこと。あの子が無詠唱を当たり前のように使っていたから、これは確実に何かあるなって思ったわけ」


 こういうところの準備の良さは、さすがと言うほかない。

 俺とエミーなんて、次のことを考えるより先に剣を打ち合わせていたからな。


「そういえば連日ジャネットと話していたが、何か対策でも考えていたんだよな? 会話の内容は教えてもらえるんだよな」


「んー……秘密!」


 お茶をこぼしかけた。

 ここまで来て、そこで秘密にするか普通!?

 いや、こいつなら女子同士の会話だからという理由で秘密にするぐらい有り得るよな。シビラだからな!


「ま、会話の内容はともかく対策みたいなのはしてるわ。でも……あれは予想外だったわね」


「あれ?」


「あんたがやってくれたんじゃない。キュアでしょ」


 ああ、そういえばやっていたな。


「嫌な感じがしたから使ったら、体調の違和感が治ったんだから驚いてな。見た限り、お前も何か変化があっただろ」


「ええ。完全にやられたわね……無詠唱だろうから何やってんのか分からないけど、状態異常系のものよ。ジャネットちゃんの会話にあったような感覚の異常だと思うわ」


 そうか。あれはやはり、精神的なものではなく肉体的なものだったか。

 だからキュアで治ると。


「周りの連中は、何故気付かなかった?」


「逆に聞きたいんだけど、ラセルはなんで『嫌な感じ』がしたと思ったの?」


 そういえば……何故だろうな。

 あの時ケイティの声を聞いていて、強烈な違和感というか……あの女の色気と心臓の高鳴りが、どうにも自分を書き換えられているような……。

 自分が、自分ではない何者かにさせられそうな気がしたから、とでも言うのか……?


「……うまく表現できないが、俺らしくないな、と思ったからだろうか。ああいうタイプは苦手だったはずなのに、どこか魅力を感じようとしている自分に、違和感を覚えたのかもしれない」


 俺の曖昧な回答に、シビラは目を丸くすると……突然笑い出した。


「あっはっは! そりゃいいわね!」


「おい、俺にとってはかなり危ない感覚があったんだぞ。あっけらかんと笑うな、はたくぞこいつ」


「あーごめんごめん! まあつまり、ケイティのことを魅力的に思うなんて自分は有り得ない、とか思ったわけね」


「語弊はあるが……魅力がないとは思わないが、見ていて『こうは感じないだろう』と思ったというか……」


 フレデリカのことを綺麗な姉代わりの人だと思ったことはあるが、色気を感じてもフレデリカを望むようなことはなかった。

 もっと精神的な部分で、近しい者として家族のように仲良くありたいと思っていたからな。

 女性的な魅力なら、エミーもジャネットも感じたことがないわけではない。

 だが……それは、長い間の互いの積み重ねがあって、内面を何度も見た上で魅力を感じるのだ。


 ケイティのように、最初の見た印象一つで色気を感じるというのは、今までの俺では有り得ない。


「要するに、ラセルは抵抗したのよ。あんたの極め付きでガッチガチな過去が、ケイティに勝った。普通の色欲狂いの男なら『魅力を感じて当然』となっちゃうところを、ラセルはならなかった。とても凄い純潔朴念仁ね——きゃん!」


 最後は一発叩き込んだ。明らかに褒めてないだろそれ。


「結局何が言いたいんだお前は」


「いたた……。まあ要するに」


 シビラは立ち上がり、自信に満ちあふれた顔で俺にびしっと指を突きつける。


「魅了が状態異常であることを突き止めた上で、『愛の女神』が相手でも、人間の男は抵抗できる——特にラセルは、その魅了に自分の力で抵抗できる上に、何度でも治療魔法が使える! これはあいつを男が相手にする上で、一番重要な情報よ!」


 そして握り拳を作った女神の相棒は、俺にとって一番頼りになる言葉を言い放った。


「勝てる見込みが出てきたわね」

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