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全てが入れ替わった、ヴィンスのパーティー

 燃えるような色の髪を、綺麗に整えた頭部。

 鎧を脱いだ姿は、以前と同じ服装。

 堂々とした立ち姿には、この世界の今代の英雄たる自信が見て取れる。……あの姿は、見間違えようもない。


 ——【勇者】ヴィンス。


 幼馴染み四人組の中心人物であり、一番の親友ダチ……だと思っていた男。

 久々に見たヴィンスは、来慣れた様子で料理を注文すると、後ろを振り向く。


 ……そうだ、今回はヴィンスを気にしている場合ではない。

 俺の今の状況を作った人間は、間違いなくヴィンスだ。

 しかし、俺がいなくなったから崩壊したわけではない。

 その後にやってきた存在によって、エミーもジャネットもあそこまで変わってしまったのだ。


 俺は、記憶通りのヴィンスの顔を帽子の下から見ていると、店に座る周りの男達が次々に同じ方へと視線を向けるのが分かった。

 その視線の先に、建物の陰から一人の人物が現れる。


 白い服に身を包んだ、艶めかしい脚。最早服を着ていると言っていいのかも怪しいほど開いた胸、長く細い金髪が光沢の輪をいくつも重ねる。

 そして何より——男の目を奪う美貌。


 間違いなく、あれがケイティだ。なるほど確かに見間違えることは不可能だろうし、あれが今までハモンドにいて誰にも気付かれなかったなど有り得ないな。

 どちらかというと、むしろシビラが正午の擬人化のような女なら、ケイティは男を誘う真夜中の女。そう表現するしかないほどの色気を、こんな真っ昼間から振り撒いている。

 色気の香水で鼻が曲がりそうだ。エミーやジャネットが、その美貌を評価しつつも苦手そうにしていたのも頷けるな……俺もどちらかというと苦手な部類だ。


 次いで現れたのは、橙色の髪を短く切った大柄な女。

 その容姿の特徴を一言で表すなら、まさに『ジャネットの話した通りのアリアという女の姿』だ。

 どうやらジャネットの記憶は弄り回されていないらしい、先ずは一安心だな。


 シビラが明るい猫なら、あっちはむしろ狡猾そうな目だろうか。細い目と、長く口角を上げた口元。薄ら開いた目からは金色の光を発しているような錯覚を覚える。

 その目が、更に後続の人物へと向く。


「っ……!」


 思わず声が出そうになり、口元にコーヒーの残りを少し流し入れる。

 喉を通る、やや生温くなった液体の感触に意識を向け、心を落ち着けるように長い息を一つ。


 最後に現れたのは、まさに昨日来ていた女だった。

 白いローブのフードの隙間から、緑色の髪が少し見える。

 顔つきは、他の二人より少し幼いぐらいだろうか。感情はあまり見えない。ただジャネットとは違い、金属のような温度を感じさせない金色の目だ。

 全身は白いローブで覆われており、手袋をしている上に脚はズボンである。俺の元の服装に近いが、俺以上に体の輪郭が見えづらいな。

 そんな三人目の姿で分かることは、言及することすら面倒になるほど当たり前のように大きな胸だけ。


 ……やれやれ、とんでもない巨乳美女ハーレムじゃないか。

 三人に囲まれて、満更でもないといった表情だ。

 デレデレしているというより、自分がこれだけの顔ぶれに囲まれて当然といったような余裕そうな笑み。一発殴りたくなってきたぞおい。


 途中でケイティが店内をぐるりと見回して、一瞬俺と目が合う。

 ぐっ……。あの身体からは、できれば視線を外したい。だが、あの女に対して視線を外すという行為が『不自然な行為』に見える可能性が気になってしまう。他の男も当然のようにケイティを見ているからな。

 ケイティは俺の顔を見て、少し視線を下げて服装を見て……すぐに隣の帽子姿のシビラを一瞬見て、視線を外した。

 俺から興味を失った、と見ていいだろう……緊張するな。


 ふと、正面のシビラに視線を向ける。

 何を思ったのかは分からないが、その顔からは何の感情も読み取れない。


 ヴィンスは店内を見渡して、空いているテーブルを探す。

 ……空いているテーブルは、よりにもよってシビラの斜め後ろである。

 アリアであろう女がそのテーブルに決め、一番手近な席に座った。ローブの女が対面に座る。

 ケイティが背を向けるように俺と一番近い席に座ると、最後にヴィンスが、対面の空いた席に座る。


 ——そして、俺とヴィンスの視線が交わった。

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